東京高等裁判所 昭和55年(く)13号 決定 1980年2月20日
少年 K・S(昭三四・一〇・一一生)
主文
原決定を取り消す。
本件を横浜家庭裁判所小田原支部に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、本人作成名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
所論は要するに、本人に対する原決定の処分が著しく不当である、というのである。
そこで、一件記録を調査し、当審における事実調べの結果をもしんしやくして検討すると、本件は原決定認定のような虞犯行為であるが、本人のこれまでの生活歴、既往の非行(シンナーの吸引と隠匿所持)による保護観察期間中の経過、殊に暴走族グープに参加して道路交通法違反事件を起し、試験観察、補導委託処分となり、良好な成績をあげて不処分となつたものの、再び生活が乱れ、原判示のとおり無断外泊、シンナー吸引及び家庭内暴力等の行為をし、今回、犯罪者予防更生法四二条一項により、保護観察所の長から、虞犯事由があると認められるとして原裁判所に通告されたものであること、少年の自分本位で恣意的、即行的な性格、保護者の保護能力の缺如等を併せ考えると、もはや保護観察による更生は期待できず、本人が将来刑罰法令にふれる行為をするおそれがないようにするためには、中等少年院において十分な矯正教育を受けさせる必要があるという判断のもとに、本人を中等少年院に送致した原決定の処分も首肯しえないではない。しかしながら、本件は虞犯行為であつて、本人が罪を犯すおそれのある犯罪はシンナー関係事犯、家庭内暴力事犯程度のものと認められること、本人は既に成人であること、両親が本人の更生に熱意を有しており、本人もかつて補導委託において良好な成績をおさめたことがあり、本件による鑑別所、少年院の生活を通じて内省の度を深め自発的更生意欲を高めていること等の諸事情をしんしやくし、同種事案に対する処分の実情をも勘案すると、中等少年院送致はやむをえないとしても、その収容期間は一年程度が相当であると認められる。したがつて、収容期間を二年間として中等少年院送致をした原決定の処分は著しく不当であるというほかない。
よつて、本件抗告は理由があるので、少年法三三条二項により原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 新関雅夫 裁判官 下村幸雄 小林隆夫)
抗告申立書<省略>
〔編注〕受差戻審決定(横浜家小田原支昭五五(少)二六三号昭五五・三・三中等少年院送致(収容期間一年)決定)