大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(く)66号 決定

被告人 平田伸一郎

〔抄 録〕

本件は、いわゆる革マル派に所属する被告人が、ほか多数の同派所属の者と共謀のうえ、昭和五三年一二月二〇日午前一一時一〇分ころから同日午前一一時四〇分ころまでの間、東京都豊島区駒込二丁目八番五号田村ビル一階通路ほか都内の一〇か所において、豊島郵便局第二集配課勤務臨時雇初岡俊之(当一六年)ほか一〇名の郵便局臨時雇に対し、朱色のペンキをその頭部等に浴びせかける等の暴行を加えたり、同人等が郵便配達に使用していた郵便集配専用自転車のタイヤ及びチューブをカッターナイフで切り裂いて、その郵便配達業務を不能ならしめるとともに、右初岡ほか二名の者に対し、全治約三日間乃至七日間を要する傷害を負わせたという威力業務妨害、郵便法違反、傷害の事案であって、極めて組織的、計画的な犯行であるとして起訴されたものであるところ、被告人は、これを全面的に争ったため、原審は、昭和五四年四月一六日の第一回公判期日から昭和五五年四月一一日の第一七回公判期日に至るまでの間、検察官申請にかかる証拠のうち、弁護人が同意した多数の書証及び証拠物の取り調べ並びに本件各被害者の証人尋問をほぼ終了したことが認められるが、なお、本件共謀の事実に関する一般私人の証人を含め、これに関連する証拠収集の適法性等に関する検察官立証が未了の段階にあることが認められるほか、本件共犯者の大部分の者が未検挙の状況にあることなどにかんがみると、被告人には、なお、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められるから、この点において、すでに本件はいわゆる権利保釈の場合にあたらないというべきである。

次に、裁量により保釈を許すことの当否について検討すると、原審記録によれば、

(一) 被告人は、昭和五三年一二月二〇日、本件の昭和五四年一月二二日付起訴状記載の公訴事実第七の事実を被疑事実として緊急逮捕され、同月二三日勾留されて以来(なお、同勾留期間は昭和五四年一月一一日まで延長されたが、同日更に、右起訴状記載公訴事実第一乃至第六の事実で再逮捕され、これに引き続いて勾留されたうえ、同月二二日起訴されたほか、同年二月九日追起訴されたものである。)、現在に至るまで、約一年四か月間勾留されている者であるが、この間、被告人は、昭和五四年一月二二日、兇器準備集合、住居侵入、傷害罪で、青森県警弘前警察署に逮捕され、これに続いて勾留されたうえ、同年二月一三日、右罪名で青森地方裁判所弘前支部に起訴され、これの捜査、公判立会のため、四回にわたり約八〇日間も、弘前警察署や弘前拘置支所に移監されているのであるから、この事実を考慮するとともに、本件の罪質、態様並びに原審における公判審理経過に照らせば、本件の勾留が必ずしも不当に長くなったとはいえないこと

(二) 被告人は、昭和五四年七月二日、青森地方裁判所弘前支部において、前記罪名により懲役二年(未決三〇日通算)、三年間執行猶予の言い渡しを受けたもので、本件の判決いかんによっては、右執行猶予の言い渡しを取り消されるおそれなしとしないところから、本件で保釈すれば、右猶予の取消を免れるために逃走するおそれなしともいい得ないわけではないが、単にこれだけの理由であれば、相当額の保釈保証金を納付させることによって防止できるといい得るところ、右判決で有罪とされた事案は、被告人が革マル派所属の九名と共謀のうえ、かねて対立抗争中にあったいわゆる中核派に所属する者数名に対し、鉄パイプで殴打するなどの暴行を加えてそれぞれ傷害を負わせたという、いわゆる内ゲバ事件であって、これら被害者の所属する中核派の者が、被告人に対する報復の機会をうかがっていることも認められ、この報復行為が、被告人の生命に危険を及ぼしかねないものであることは、これまでにおける同種事案の実態に照らして充分に察知できるものであること、したがって、被告人が、生命の危険すら予想される中核派からの報復を回避するため、その身を隠すこと、すなわち、逃亡することも充分にあり得ることであり、この場合保釈保証金が、この逃走を防止し得る有効な手段たり得るものとは考えられないこと

(三) 被告人の母親は、病気療養中の夫及び夫の長兄とともに、被告人の指導監督を誓約しているが、被告人のこれまでにおける両親との往来の実態や被告人の活動歴及び被告人が現在においても、その所属セクトからの離脱を明らかにしていないことなどにかんがみると、両親等の被告人に対する監督能力には、あまり多くを期待できないとみられること

以上の事実を認めることができる。

したがって、被告人の拘禁が不当に長くなったとは認められないうえ、被告人の本件犯罪の成否について、なお、重要と思われる証人等の取り調べが未了となっている現段階、しかも、被告人には、保釈保証金をもってしても、その逃亡を防止できないおそれのある事由があり、その事由がほとんど解消されていない現段階において、職権をもって被告人の保釈を許すことは相当でないといわなければならない。

(鬼塚 櫛淵 門馬)

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