大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1107号 判決 1980年12月10日

控訴人(債務者)

平村政雄こと

李錫雷

右訴訟代理人

片岡寿

被控訴人(債権者)

新本秀雄

右訴訟代理人

橋本順

外三名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人と被控訴人間の東京地方裁判所昭和四八年(ヨ)第四七三五号不動産仮処分申請事件について、同裁判所が同年八月一日になした仮処分決定は、そのうち、別紙物件目録二記載の建物部分に関する部分はこれを取り消し、その余の部分はこれを認可する。

三  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件記録によれば、被控訴人は、控訴人を相手方として、本件建物につき、被控訴人の所有権に基づく明渡請求権の執行を保全するため、昭和四八年七月二四日東京地方裁判所に対し仮処分を申請し、同裁判所は、同年八月一日左記の趣旨の本件仮処分決定をなし、この決定正本は即日被控訴人に、同年九月一〇日控訴人に各送達されたことが明らかである。

1  債務者(控訴人)の本件建物に対する占有を解いて、東京地方裁判所執行官に保管させる。執行官は、債務者(控訴人)にその使用を許さなければならない。ただし、この場合においては、執行官は、その保管に係ることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。

2  債務者(控訴人)は、この占有を他人に移転し、または、占有名義を変更してはならない。

二<省略>

三控訴人主張の抗弁は、いずれも本件仮処分決定に対する異議事由とはならず、それ自体失当である。

しかし<証拠>によれば、昭和四八年八月二日東京地方裁判所執行官鈴木敏雄が本件仮処分決定の執行に赴いたが、本件建物のうち別紙図面赤斜線部についてその執行をなしたものの、その余の別紙物件目録二記載の建物部分については、控訴人の占有を確認することができなかつたため執行することなく終り、その後現在に至るまで右未執行の状態のまま経過したことが疎明される。ところで、本件仮処分決定については、民訴法七五六条によつて準用される七四九条二項の規定により、右決定が被控訴人に送達された昭和四八年八月一日の翌日から一四日の期間を徒過した後はその執行をなし得ないから、別紙物件目録二記載の建物部分については最早執行の可能性はなく、従つて、本件仮処分決定は、右建物部分に関する限りこれを維持存続すべき理由はないものというべく、畢竟発令後に事情の変更があつたものとしてこれを取り消すのが相当である(この点については、弁論の全趣旨に照らして、控訴人からその主張があつたものとみて差支えない。)。

四以上のとおりであるから、本件仮処分決定は、そのうち右建物部分に関する部分はこれを取り消し、その余の部分はこれを認可すべきであり、これと異る原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(田宮重男 新田圭一 真榮田哲)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例