東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1134号 判決
職権をもって案ずるに、原判決は、株式会社たる控訴人の代表取締役「中島嘉一」個人を原告とし、その請求を棄却して同原告の敗訴を言い渡したことが明らかであり、事実欄及び理由欄を含めて原判決書を精査するも、控訴人を原告としたものと解すべき余地は全くない。もっとも、(1)本件訴状の当事者の表示及び署名押印欄には、「東京都港区六本木四ノ八ノ六、株式会社ギンザヤ、原告中島嘉一」との記載があり(押印は個人印。なお、当審に提出された資格証明書によれば、右住所は、中島個人の住所地ではなく、控訴人株式会社ギンザヤの本店所在地であることが認められる。)、(2)その後に提出された原告側の準備書面の当事者の表示及び署名押印欄には、「原告株式会社ギンザヤ」又は「原告株式会社ギンザヤ代表者中島嘉一」との記載があり(押印は個人印)、(3)訴訟進行中に提出された弁護士小山勲を訴訟代理人とする原告側の委任状には、委任者として、横書きのゴム印による「株式会社ギンザヤ代表取締役中島嘉一」の記名があり、その押印は中島の個人印ではなく社用の代表取締役印であることが、原審記録上明らかである。そうすると、本件訴訟を提起したのが中島嘉一個人ではなく、同人を代表取締役とする控訴人自身であり、その後の訴訟活動(訴訟委任を含む。)をしたのも控訴人であると解すべき余地もないではない。
しかしながら、およそ控訴が敗訴当事者からの原判決に対する不服申立てである以上、敗訴当事者(本件では原告)として原判決の表示する者から提起されたものでない限り、その控訴は不適法とするほかなく、また、原判決が何びとを当事者としているかについては、原判決書自体によってこれを判断するほかはない。そうすると、右認定の(1)ないし(3)の事情が存するからといって、これらを本件原判決が何びとを当事者としているかについての判断資料とすることができず、したがって、原判決における敗訴原告中島嘉一とは別人格の控訴人株式会社ギンザヤの提起した本件控訴は、不適法であるを免れない。
本件控訴状における当事者の表示も「控訴人(原告)株式会社ギンザヤ」と記載されており、訴訟委任状の委任者の記名押印も前認定の(3)と同様であり、しかも代表取締役の権限に関する資格証明書まで提出されていることは、当審記録上明らかであるから、本件控訴を中島嘉一個人の提起したものと解することもできず、ほかには右の欠缺を補正すべき余地もないので、口頭弁論を経ないで本件控訴を却下することと<する。以下略>
(川上 賀集 福井)