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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1306号 判決 1981年10月14日

控訴人(附帯被控訴人) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 伊藤幹郎

被控訴人(附帯控訴人) トヨタオート横浜株式会社

右代表者代表取締役 上野健一郎

右訴訟代理人弁護士 森英雄

同 橋本欣也

同 鈴木質

主文

一  本件控訴に基づき

1  原判決中、金一五七万四六七〇円及び内金一四二万四六七〇円に対する昭和四九年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の各支払を超える控訴人の請求を棄却した部分を取消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金一万九三九〇円及びこれに対する昭和四九年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  本件控訴につき訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とし、本件附帯控訴につき控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

四  第一項の2は仮りに執行することができる。

事実

一  本件控訴につき、控訴人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金一三八万二五九〇円及び内金一一二万八五九〇円に対する昭和四九年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

二  本件附帯控訴につき、附帯控訴人は「原判決中附帯控訴人敗訴の部分を取消す。附帯被控訴人の請求を棄却する。附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯被控訴人は「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求めた。

三  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり訂正又は付加するほかは、原判決の事実摘示(但し、原審相被告藩野明弘のみに関する部分を除く)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四丁表七行目の「山口病院」を「山口医院」と訂正する。

2  《証拠関係省略》

理由

一  本件事故の発生及び被控訴人が本件事故による控訴人の損害につき民法七一五条一項に基づく賠償責任があることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、控訴人の損害について判断するが、まず、治療の経過について検討する。

控訴人が山口医院に昭和四九年九月二〇日から同月二六日まで通院、同月二七日から同年一〇月一四日まで一八日間入院、国立横須賀病院整形外科に同月一九日から昭和五一年一〇月七日まで通院、この間昭和五〇年一〇月一五日から同年一一月一二日まで二九日間入院したことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、控訴人が昭和五一年一〇月五日から現在まで横須賀共済病院に通院していることが認められる。

そして、《証拠省略》によると、山口医院及び国立横須賀病院整形外科における治療は本件事故による傷害のためになされたものであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

ところで、《証拠省略》を総合すると、控訴人の横須賀共済病院における症状は頸部痛、頭痛、両上肢痛、耳鳴、めまい、全身倦怠感等の主観的訴えであって、他覚的所見としては軽度の頸部運動制限があり、昭和五四年以降は手指に軽度の巧緻性の緩慢さが加わったが、控訴人の右のような症状は国立横須賀病院での治療から現在に至るまで殆ど変化がなく、主観的訴えが主で他覚的所見に乏しいこと、レントゲン線検査所見では本件事故による受傷後異常が認められなかったが、国立横須賀病院整形外科で治療中の昭和五〇年一〇月以降第五、六頸椎の椎間板の狭少化と軟骨の変性が認められるようになったこと、控訴人は同年一月初め頃自動車を運転していてブロック塀に衝突して一時歩行困難になったことがあり、年令的変化(控訴人は昭和三年九月六日生)等外傷以外の要因も考えられるので、前記頸椎の異常が本件事故によるものと確認することはできず、また、右頸椎の異常による知覚障害、歩行障害等の神経学的他覚所見が認められたことがないこと、国立横須賀病院整形外科では症状固定と判断して控訴人の治療中止を予定していたところ、控訴人が希望して横須賀共済病院に転院したこと、並びに、横須賀共済病院でも症状固定の方向で控訴人と話し合ったこともあったが、控訴人の希望を容れて、専ら同人の主観的訴えによる苦痛を緩和するための治療が継続されていることが認められ、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。なお、前示控訴人本人尋問の結果中には、控訴人は眼痛、眼精疲労、胃潰瘍、歯痛等の眼、胃及び歯の症状があって、いずれも本件事故又は本件事故による傷害に対する治療が原因であるとする部分があるが、右部分は《証拠省略》に照らして採用することができない。更に、《証拠省略》によると、控訴人は昭和五二年一〇月二六日関東労災病院において症状固定との診断を受けたことが認められる。以上認定した横須賀共済病院における治療の経過等に関する事実を総合して考察すると、同病院における治療のうち昭和五二年一〇月二六日(関東労災病院において症状固定との診断を受けた日)までの治療については本件事故による傷害のためになされたものであることが認められるが、同日以降の控訴人の症状は、本件に現われた総ての証拠(但し、既に排斥した前示控訴人本人尋問の結果を除く)によっても、本件事故に起因するものであることを認定することができないというべきである。

従って、控訴人は本件事故のため山口医院に昭和四九年九月二〇日から同月二六日まで通院(《証拠省略》によると実日数は五日であることが認められる)、同月二七日から一八日間入院、国立横須賀病院整形外科に同年一〇月一九日から昭和五一年一〇月七日まで通院(《証拠省略》によると実日数は四二六日であることが認められる)、この間昭和五〇年一〇月一五日から二九日間入院、横須賀共済病院に昭和五一年一〇月五日から昭和五二年一〇月二六日まで通院(《証拠省略》によると実日数は二三九日であることが認められる)、関東労災病院に昭和五二年一〇月二六日通院して治療ないし診断を受けたものであり、実通院日数は合計六七一日、入院日数は合計四七日である。

三  つぎに、控訴人が受けた損害の額について検討する。

1  治療費関係

まず、《証拠省略》によると、控訴人は診断書代として合計金七五〇〇円を超える金員を支出したことが認められ、つぎに《証拠省略》を総合すると、控訴人は通院のための交通費として合計金一三万六五六〇円(山口医院往復金三〇〇円三回、同金三四〇円二回、国立横須賀病院往復金二二〇円四二六回、横須賀共済病院往復金一四〇円五九回、同金一八〇円一八〇回、関東労災病院往復金六〇〇円一回)を支出したことが認められ、これに反する証拠はない。従って、治療費関係の損害額は総計金一四万四〇六〇円である。

2  慰藉料

前記認定の事実によると、控訴人は本件事故による傷害のため精神上の苦痛を蒙ったことが認められるが、右事実及び本件に現われた諸般の事情を総合して考えると右苦痛を金銭を以て慰藉するとすれば金一三〇万円を以て相当と認める。

3  弁護士費用

控訴人が弁護士伊藤幹郎に本件訴訟の遂行を委任したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、前記認定の事実に本件訴訟の経過を合わせ考えると、控訴人が支出すべき弁護士費用のうち金一五万円が本件事故と相当因果関係がある損害と認めるべきである。

四  最後に、時効について判断する。

本件事故が発生した昭和四九年九月二〇日当時控訴人が加害者が訴外林田高であると知っていたことは、控訴人の自認するところであり、本件事故直後控訴人が頸椎捻挫の傷害を受けたことを知ったことは、《証拠省略》により認められるので、控訴人の有する本件事故による損害賠償請求権の消滅時効は昭和四九年九月二〇日直後から進行するものである。そして、右時期から三年を経過しない昭和四九年一二月末頃被控訴人が原審相被告藩野明弘を代行して自賠責保険金を請求したうえで控訴人に対し一部弁済をしたことは、当事者間に争いがなく、右事実から被控訴人はその際控訴人に対し本件事故による損害賠償義務を承認したことが推認され、右推認を動かすに足りる証拠はない。従って、消滅時効は右承認によって中断され、右時期からあらためて進行するものである。更に、右時期から三年を経過しない昭和五二年一〇月一二日被控訴人の代理人武真琴が控訴人の代理人伊藤幹郎と本件事故につき示談交渉をしたことは、当事者間に争いがなく、右事実から被控訴人の右代理人はその頃控訴人の右代理人に対し本件事故による損害賠償義務を承認したことが推認され、右推認を動かすに足りる証拠はないので、消滅時効は右承認によって再度中断され、右時期からあらためて進行するものである。そうとすれば、右時期から三年を経過しない昭和五三年八月八日本件訴訟が提起されたことは記録上明らかであるので、被控訴人の消滅時効の主張は失当である。

五  してみれば、控訴人の本訴請求は、前三で認定した損害額の合計金一五九万四〇六〇円及び内金一四四万四〇六〇円(右三の1及び2の合計額)に対する本件事故の翌日である昭和四九年九月二一日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきものである。よって、原判決中右と趣旨を異にする部分を取消し、本件附帯控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九五条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 橘勝治 大島崇志)

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