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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1649号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一<証拠>によると、被控訴人は、次の交通事故(以下、「本件事故」という。)により、傷害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない(本件事故の発生日時、発生場所、加害車両、加害車両の運転者については当事者間に争いがない。)。

1 発生日時 昭和五二年一一月五日午前七時五五分ころ

2 発生場所 横浜市港北区綱島西二丁目二三番二四号先市道上の道路端

3 加害車両 自動二輪車

車両番号 横浜み四三一〇

4 加害車両運転者 控訴人満英

5 事故の態様 右日時場所において、道路端を被控訴人が歩行していたところ、進路後方から走行してきた控訴人満英運転の加害車両により衝突された。

6 受傷の内容 右足関節脱臼骨折、頭部外傷、右拇指打撲

二<省略>

三控訴人らは、本件事故は、控訴人満英が突如進路を変更して同控訴人の進路に入つて来た自転車に接触したため、加害車両を滑走させて被控訴人に衝突させたというものであるから、右自転車の運転者の過失に起因するものであり、同控訴人は、加害車両の運行に関し注意を怠らなかつたものであつて、かつ、加害車両の構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた旨抗弁するので判断するに、

1 <証拠>によると、前記道路は、アスファルト舗装の平坦な幅員7.1メートルの市街地道路で、片側にガードレールによつて区分された幅員1.8メートルの歩道が設けられており、車道部分は5.3メートルであつたこと、最高速度は、毎時三〇キロメートルに制限されていたこと、被控訴人は、昭和五二年一一月五日午前七時五五分ころ、右道路車道部分の右側端を青山学院グラウンドから綱島ユニ方向に歩いていたこと、控訴人満英は、被控訴人の後方から加害車両を運転して時速約五〇キロメートルの速度で右車道部分の中央よりやや左側寄りを走行していたこと、同控訴人の前方には右車道部分左側を同一方向に進行する自転車があつたが、対向車はなく、歩行者は右歩道内を歩く者が少しいた程度であつたこと、同控訴人は、本件事故発生まで被控訴人に気付かなかつたこと、同控訴人は、右自転車の後方約14.3メートルの距離に接近したところ、右自転車に変つた様子がなかつたので、前記速度と進路のままこれを追い越そうとして約一〇メートルの距離に接近したところ、突然右自転車が右方斜前方に出て来たため、危険を感じてハンドルを右に切りながらアクセルを戻してブレーキを掛けようとしたが間に合わず、右自転車に加害車両の左ハンドルを接触させて安定を失い、右側に倒れながら加害車両を前方に滑走させ、進路右前方約16.5メートルの位置を歩いていた被控訴人に背後から衝突させて被控訴人を転倒させたことの各事実が認められ<る>(前記道路がガードレールにより歩・車道に区分されていること及び被控訴人がその車道部分を歩行していたことは、いずれも当事者間に争いがない。)。

2 ところで、道路交通法は、自動車はもとより足踏式自転車の運転者に対しても、同一方向に走行しながら進路を変えるときは、手などにより合図をすべきことを命じている(五三条一項)のであるが、足踏式自転車は、自動車や原動機付自転車と異なり、運転免許を必要とせずに老若男女を問わず何人も運転できるものであるうえ、その運転者は交通法規にも精通していないことが通例であると考えられるから、これに対して適式な進路変更の合図をするよう期待することは困難であるところ、追い越しをしようとする車両は、反対の方向又は後方からの交通及び前車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車の速度及び進路並びに道路の状況に応じてできる限り安全な速度と方法で進行しなければならないこととされている(同法二八条四項)のであるから、足踏式自転車がその構造上極めて不安定な車両であることをも考えると、これを追い越そうとする車両の運転者としては、自転車が不意に進路を変更したりすることも十分予見し得るところであるから、その動静に十分注意しつつ、単にこれと接触しないように進行するというにとどまらず、その右側に十分な間隔をとり、場合によつては減速するなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、右認定の各事実によれば、控訴人満英は、前記道路の車道部分の中央よりやや左側を制限速度を二〇キロメートル毎時越える時速五〇キロメートルの速度で前記自転車に接近し、そのままの速度と進路で追い越そうとしたため、約一〇メートルの距離に接近したとき突然右方斜前方に出て来た右自転車を回避することができず、これに接触し、そのため加害車両を滑走させて被控訴人に衝突させたものであるから、同控訴人には右注意義務を怠つた過失があるというべきである。したがつて、控訴人らの右主張はその余の点について判断するまでもなく採用することができない。

四次に、控訴人らは、控訴人満英の過失は小さなものであり、それに比べて右自転車の運転者の過失は極めて大きいところ、共同不法行為の場合は、各行為者は、その過失の割合に応じた範囲での損害賠償責任を負うに過ぎないと解すべく、本件事故において、同控訴人の損害賠償責任は、損害額の三分の一を越えるものではない旨主張する。しかし、先に認定した本件事故の具体的態様を考えると、右自転車の運転者にもその進路を変える際に要求される注意義務を怠つた過失があると推認するのが相当であるが、本件事故は同控訴人の過失と右自転車運転者の過失が原因となつて惹起された事故であるから、右両名は、各自これにより被控訴人に生じた損害の全部について賠償義務を負うものと解するのが相当である。控訴人らの右主張も採用し難い。

五そこで、過失相殺の主張について判断するに、歩行者は、歩道と車道の区別のある道路においては、歩道を通行しなければならないものとされているから(道路交通法一〇条二項)、被控訴人は、前記道路を通行するに当たり、右法規を遵守して歩道を通行すべき義務があるのに、これを怠り車道右側端を通行した過失があつたというべきである。そして、被控訴人の右過失は、被害者の過失として被控訴人の損害額を算定するに際し、斟酌するのが相当であるところ、先に認定した本件道路と交通の状況、控訴人満英及び被控訴人の過失の内容、本件事故の態様などを併せ斟酌すると、被控訴人の過失による減額の割合は二割とするのが相当である。

六(控訴人武盛、同ウメの責任について)

未成年者が責任能力を有する場合においても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係があるときは、監督義務者について民法七〇九条の規定に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、控訴人武盛が同満英の父であり、同ウメが同満英の母であることは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、控訴人満英は、本件事故当時満一六歳(昭和三五年一一月一六日生)の高校二年生で、両親及び兄姉三名と同居していたこと、同武盛は、大工として稼働し、同ウメは、主婦として家事に従事していたこと、同満英は、同武盛の許可を得たうえ、昭和五一年一一月二七日に原動機付自転車の運転免許を取得し、その後昭和五二年三月四日には自動二輪車の運転免許を取得したこと、同武盛は、同満英がオートバイを買うことを許可しなかつたこと、そのため、同満英は、昭和五二年五・六月ころ、同武盛に無断で兄の友人から本件加害車両(排気量三五〇cc)を金一七万円で譲り受け、代金は自分が新聞配達のアルバイトをして得た金で支払つたこと、同武盛は、加害車両が自宅に届けられて初めてこの事実を知り、同満英に返品するよう命じたが同人はこれに従わなかつたので、仕方がないと考えてそれ以上の指示、監督をしなかつたこと、その後の控訴人武盛の同満英に対する監督は、制限速度を守り、事故を起こさないようにと注意をする程度であつたこと、控訴人満英の進学していた高校ではオートバイによる通学が禁止されていたが、同控訴人は途中の東急東横線綱島駅まで加害車両で通い、同駅で電車に乗り換えて通学していたこと、控訴人武盛は、これを積極的に止めようとはしなかつたこと、本件事故は、通学途上に起こしたものであること、控訴人満英は、運転免許取得後他に事故を起こしたことはなく、違反歴は進入禁止場所に進入した違反により反則金を支払つたことが一回あること、その他に非行歴はなかつたことの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし、右認定の各事実をもつてしては、控訴人武盛及び同ウメにつき同満英に対する監督義務違反があり、そのために本件事故が惹起されたとの事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがつて、被控訴人の控訴人武盛及び同ウメに対する本訴請求は、いずれも理由がない。

(園部秀信 川上正俊 渡邉等)

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