東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2622号 判決 1982年1月28日
控訴人 豊田茂
控訴人 豊田節子
右両名訴訟代理人弁護士 新井藤作
同 金子包典
被控訴人 鍛冶田泉
被控訴人 鍛冶田栄子
右両名訴訟代理人弁護士 菊池武
同 三木茂
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴人らは
「原判決を取り消す。
控訴人らに対し、被控訴人鍛冶田栄子は、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して、被控訴人鍛冶田泉は、右建物を退去して、被控訴人らいずれも同目録(一)記載の土地を明け渡し、かつ被控訴人らは、各自昭和五三年五月一九日から右土地明渡済みまで、一か月金一万八九二八円の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被控訴人らの負担とする。」
との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文第一項同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠関係は、原判決三枚目裏六行目の「被告ら」の下に「各自」を、同四枚目裏九行目の「旧建物」の上に「訴外真知子から」を、同五枚目表初行の「譲り受け」の下に、「その後昭和四五年初めころ旧建物を取り壊して本件建物を新築し」を加えるほかは、原判決の事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求を棄却すべきものと判断するものであり、その理由は次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるからこれをここに引用する。
(1) 原判決八枚目裏初行から二行目にかけての「及び被告両名各本人尋問の結果」を「、控訴人及び被控訴人各両名本人尋問の結果(ただし後記措信しない部分を除く。)」に改める。
(2) 原判決九枚目表五行目の次に次のとおり加える。
その後被控訴人栄子は、旧建物が古くなり倒壊の危険性を感じるに及び、昭和四五年四月ころ当時本件土地の賃貸人であり、かつ縁辺でもある先代淳一に対し事前にその旨意を通じて、確たる承諾を得ることもせず、旧建物を取り壊して本件建物を新築し、事後においてもその承諾を取り付けたり、通例授受されるべき承諾料の提供もしなかったため、先代淳一も被控訴人栄子の右建替えを内心快よからず思っていたものの、縁辺でもあることからこれを忍受して黙認し、別段異議を申し立てなかった。
(3) 原判決九枚目表六行目から七行目にかけての「右認定に反する原告両名各本人尋問の結果は信用できない。」を「控訴人及び被控訴人各両名本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに措信し難い。」に改め、同裏一〇行目の「再抗弁」の下に「及び再々抗弁」を加え、同一〇枚目表二行目の「採用できず」を「前顕証拠に照らして措信し難く」に改める。
(4) 原判決一〇枚目表八行目から同一一枚目表七行目までを次のとおり改める。
被控訴人栄子は昭和五三年ころに至り、婚姻した長女である訴外大谷真理と同居するため本件建物の増改築を企図し、近隣の者にはその旨仄めかしていたが、道路を距てて居を構えている控訴人らに対しては、本件建物の増改築につき、事前に通告ないし承諾を求めることをせず、同年四月ころ本件建物二階に設置された床面積約一七平方メートルのバルコニーを取り壊してその部分に、床面積約二三平方メートルの居室の増改築工事に着手し、相当程度その工事を進捗させるに至ったこと、そこで控訴人らは、被控訴人栄子が右増改築工事に着手したのを知るや、直ちに同被控訴人に対し口頭で異議を述べたが、同被控訴人は、これを無視して右工事を続行しようとする気配であったため、控訴人らは、本件土地賃借人として甲第一号証に記載された被控訴人泉が真正な本件土地賃借人であるとして、右工事の続行禁止の仮処分申請をなしたが、これを受けてそのころ同被控訴人から控訴人らに対し、借地法第八条ノ二第二項による右増改築許可の申立がなされたため、同年七月一〇日右仮処分申請事件において、同被控訴人と控訴人らとの間で右増改築許可申立事件の手続終了に至るまで、右工事の続行を中止する旨の裁判上の和解が成立したこと、ところで被控訴人栄子の企図する右工事は、本件建物の基礎である土台、主柱に改造又は変更を加えようとするものではないのであり、右増改築工事によって本件建物の耐用年数が特段延長されるというほどのものでもなく、その増築部分は同居する家族の使用に供しようとするものであり、近隣地域における土地の標準的使用方法が木造二階建一般住宅であって、本件建物も増築しようとする部分を含めてこれに合致し、結局本件土地の利用方法として通常予想される範囲内にとどまるものであることなどの諸事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
以上の事実関係によれば、被控訴人栄子は、本件土地賃貸借契約において、無断増改築禁止の特約がある以上、建替え、増改築をなす場合、先ず本件土地賃貸人である控訴人ら側にあらかじめその旨意を通じ、土地利用増進による応分の金員を提供するなどしてその了解を取り付ける努力をすべきであったものといわざるを得ず、被控訴人らは、控訴人ら側と縁辺につながることに甘えてこの点の配慮を欠いた結果、本件土地賃貸借契約において賃貸人である控訴人らに不信の念を懐かせ、その信頼関係を相当程度損うに至っているものといえなくもないが、そもそも本件建物の新築については、結局控訴人側で異議なく容認したものというべきであって、本件の増改築工事についても、その規模、程度、態様が前記認定のとおり本件土地の通常予想し得る利用方法の範囲内であり、右工事に着手するもその完成前に中止して、本件土地賃貸人である控訴人らの承諾に代わる許可の裁判を申し立て、適法手続に依拠している状況に徴して、本件土地の賃貸借契約における控訴人ら賃貸人の信頼関係を破壊するに至っているとまで見るのは困難であるといわざるを得ない。
二 よって原判決は正当というべきであり、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九三条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 髙野耕一 相良甲子彦 裁判長裁判官林信一は、退官につき署名捺印することができない。裁判官 髙野耕一)
<以下省略>