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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2745号 判決 1981年9月02日

控訴人 三石武夫

右訴訟代理人弁護士 千野款二

被控訴人 今井英雄

右訴訟代理人弁護士 五味正明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。原判決添付目録記載の土地、建物(以下「本件土地、建物」という)が控訴人の所有であることを確認する。被控訴人は控訴人に対し、本件土地、建物につき、長野地方法務局茅野出張所昭和五四年一〇月六日受付第一〇六六二号をもってした、同年四月一二日競落を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の、事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、証拠として、控訴代理人が、甲第三〇号証(原本に代えて写)を提出し、被控訴代理人が、甲第三〇号証につき原本の存在成立とも認めると述べたことを付加するほか、原判決事実摘示(原判決一枚目―記録七丁―裏九行目から原判決四枚目―記録一〇丁―表五行目まで。原判決添付の目録を含む。)と同一である(但し、原判決二枚目―記録八丁―表六行目、末行、同裏一一行目、原判決三枚目―記録九丁―裏七行目「四七年」、原判決二枚目―記録八丁―裏八行目、原判決三枚目―記録九丁―表五行目「五一年」、原判決二枚目―記録八丁―裏末行「五二年」、原判決三枚目―記録九丁―表初行、同表六行目「五三年」、同表九行目「五四年」とある前にいずれも「昭和」を補う。)から、これを引用する。

理由

一  東京法務局所属公証人長谷川信蔵によって作成された昭和四四年第三〇二四号公正証書が存在し、同公正証書には、当事者の表示として、債権者村田君江、連帯債務者控訴人及び三石正樹、債権の表示として、昭和四一年三月一日貸付にかかる元本四五四万六〇〇〇円の貸金債権(利息年一割二分、毎月末日限りそれまでの分支払い、遅延損害金日歩三銭五厘、元金は昭和四四年九月以降毎月末日限り二〇万円但し最終回は三四万六〇〇〇円宛分割払い)の各記載、及び不履行の際は強制執行を受けても異議ない旨の記載があること、村田君江が、昭和四六年七月五日右公正証書の執行力ある正本に基づいて、控訴人所有の本件土地、建物について強制執行の申立をした(長野地方裁判所諏訪支部昭和四七年(ヌ)第四号不動産強制競売事件)こと、右強制競売事件において、昭和五四年四月一二日被控訴人が本件土地、建物を七九五万円で競落し、同競落許可決定が確定して、被控訴人がその競落代金を支払った結果、本件土地、建物につき、長野地方法務局茅野出張所昭和五四年一〇月六日受付第一〇六六二号をもって、右競落を原因として、被控訴人のために所有権移転登記がなされたこと、の各事実は《証拠省略》に照らして、当事者間に争いがない。

二  控訴人は、右公正証書の執行力ある正本上の債務は、その後裁判上の和解により一部債務の内容が変更されたうえ、昭和五四年一月中に完済されたので、その後に行われた本件土地、建物に対する前記強制競売手続は無効であり、競落を原因として、本件土地、建物の所有権が被控訴人に移転することはない旨主張する。

しかし、不動産強制競売手続において、競落許可決定が確定して競落代金が全額支払われた場合には、その以前に、債務名義上の債権が消滅しても、競落不動産の所有権は有効に競落人に移転すると解するのが相当である(大審院昭和一二年(ネ)第二二一九号昭和一三年四月六日判決・大民集一七巻七号六五五頁、最高裁判所昭和五〇年(オ)第八〇七号昭和五一年二月一七日判決・最高裁判所裁判集(民事)一一七号七一頁)。

さすれば、前記公正証書に記載された債務が控訴人主張のとおり競落以前に、弁済により消滅したか否かについて判断するまでもなく、本件土地、建物について競落の効力が生じないとの控訴人の主張は理由がなく、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

三  よって、民訴法三八四条に従い本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁所長裁判官 園部秀信 裁判官 村岡二郎 川上正俊)

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