東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2901号 判決 1982年4月27日
控訴人
洪呉振治
右訴訟代理人
元林義治
被控訴人
国
右代表者法務大臣
坂田道太
右指定代理人
石川達紘
外一名
主文
本件控訴並びに当審においてした付帯請求についての拡張部分及び予側的請求はいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
被控訴人日本国がいわゆる日華事変において本件軍票を含む軍票を発行し、控訴人が本件軍票(額面一〇〇円六枚、額面一〇円八枚)を所持していること及び右軍票の裏面には「此票一到即換正面所開日本通貨」と記載されていることは、当事者間に争いがない。
そこで、被控訴人の本件軍票は無効無価値となつたとの主張について判断する。日本国が連合国による占領管理下におかれていた昭和二〇年九月六日連合国最高司令官が「法貨ニ開スル覚書」を発し、同月一六日被控訴人日本国大蔵省が軍票を無効無価値とする旨の声明を発したことは、当事者間に争いがない。また、<証拠>によると、右覚書には「日本政府、陸海軍ノ発行セル一切ノ軍票及ビ占領地通貨ハ無効無価値ニシテ、斯ル通貨ノ授受ハ一切ノ取引ニ於テ禁止ス」とあり、大蔵省の右声明は、右覚書に基づき、「日本政府及陸海軍ノ発行セル一切ノ軍票及占領地通貨ハ無効且無価値トシ一切ノ取引ニ於テ之ガ受授ヲ禁止ス」と定めたものであることが認められる。右声明は右覚書に基づき軍票の無効無価値化を宣言したものであり、このような宣言をされた以上、軍票の所持人が日本国民であると外国人であるとを問わず、軍票を無効無価値とする効果は絶対的に生じたものというべきである(右声明が軍票の裏面にある日本国通貨に交換する旨の記載を無効とする趣旨であることは明らかである。)。また、<証拠>によると大蔵省告示昭和二九年六月一二日第九四二号により軍票について日本円に対する換算率表が定められたことが認められるが、右換算率表は閉鎖機関の清算対象に含まれる在外預送金等にかかる債権債務を清算する手続上必要となつたため定められたもので、軍票がなお効力を有することを前提とするものでも、前記声明を変更して軍票の効力を復活する趣旨でもないので、前記判断に影響するものではない。)。
従つて、被控訴人の本訴請求中本件軍票がなお効力を有することを前提とする請求は、その余について判断するまでもなく、失当として棄却を免れず、趣旨を同じくする原判決は相当である。
また、被控訴人主張の予備的請求は、その原因として主張するところでは補償を求める根拠となる法令が明らかでなく、具体的な主張がないので、失当であつて同様に棄却を免れない。
よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、当審においてした付帯請求についての拡張部分及び予備的請求は失当であるから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する次第である。
(倉田卓次 高山晨 大島崇志)