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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)579号 判決 1981年7月14日

控訴人

東包商事株式会社

右代表者

渡部悌綱

右訴訟代理人

渡辺春雄

被控訴人

株式会社五大

右代表者

吉川清

右訴訟代理人

田中憲彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、左記のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

一  原判決三枚目表二行目「抗弁事実は認める。」の次に「期限後の手形も指図証券である(手形法一一条)から、その譲渡については手形の交付を成立要件とするところ、本件譲渡には手形の交付がなされていないから無効である。また、仮に指名債権譲渡の方法によつたものとしても、手形の交付を要する。」を加える。

二  同三枚目表四・五行目を次のとおりに改める。

「仮に、本件手形債権の譲渡が有効であるとしても、訴外港新商事株式会社は、昭和五一年一一月三〇日、被控訴人との間で、合意によつて前記債権譲渡契約を取り消し、翌一二月初旬、控訴人に対し口頭でその旨の通知をした。また、同訴外会社は、昭和五五年一二月二三日付同月二七日到達の内容証明郵便をもつて、控訴人に対し前記債権譲渡契約を取消した旨の通知をした。」

三  同三枚目表七行目を次のとおりに改める。

「訴外港新商事株式会社が、昭和五一年一一月三〇日、被控訴人との間で前記債権譲渡契約を合意のうえ取り消したことは不知、翌一二月初旬に控訴人に対し口頭で右取消の通知をしたことは否認する。同訴外会社が、昭和五五年一二月二三日付同月二七日到達の内容証明郵便で、控訴人に対し右取消の通知をしたことは認めるが、右通知は、本件訴訟が提起され、控訴人が右の通知のない旨の主張をしたあとの昭和五五年一二月二七日になされ、取り消されたとする日より長期間経過してからのものであるから、このように取消があつたとする時より長期間経つてからされた通知は、対抗要件を履践したことにはならない。」

四  <証拠関係省略>

理由

当裁判所も、被控訴人の本訴請求を認容すべきものと判断するものであるが、その理由は、左記のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

一原判決四枚目表六行目「甲第一号証の一」から九行目「甲第一号証の一」までを、「甲第一号証の一のうち、振出人の記名及び印影が控訴人の印章によつて顕出されたものであることは控訴人の自認するところであるから、右印影は控訴人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのが相当であり、右推定がなされる結果、民訴法三二六条の規定により、その文書全体が真正に成立したものと推定すべきである(最高裁判所昭和三九年五月一二日第三小法廷判決・民集一八巻四号五九七頁参照)。右甲第一号証の一、」に改める。

二同四枚目裏七行目「農水産加工品の販売を始め」を「農水産加工品の販売、」に改める。

三同五枚目裏二行中の「(」を「。」に改める

四同六枚目表六行目から同一〇行目までを、左記のとおりに改める。

「以上の事実を認めることができる。原審及び当審における証人斉藤一、控訴会社代表者の各供述のうち『昭和五一年一月中・下旬ころ、本件手形に第二裏書人と表示されている訴外ワールドの代表取締役鈴木実と取締役勅使河原俊明の両名が控訴会社代表取締役渡部悌綱の居宅を訪ね、当時たまたま同人が上京不在中のため留守番をしていた斉藤一に対し、渡部悌綱の了解指示を得たごとき虚偽の事実を告げ、机の上に置いてあつた手形用紙二通(控訴会社名のゴム印のみが押捺され、額面金額や支払期日等の手形要件の記載が白地になつているもの。)を提出させてこれを持ち帰り、後日、勝手に額面金額その他の手形要件を記入し、そのうちの一通である本件手形を偽造したものである。』旨の供述部分及び甲第二号証(控訴会社作成の通告書)、乙第一号証(渡部悌綱作成の告訴状)のうち同趣旨の各記載部分は、前掲各証拠と対比してにわかには措信することができない。」

五同六枚目裏八行目「抗弁事実は当事者間に争いがない。」を「抗弁事実は当事者間に争いがなく、原審における被控訴会社代表者尋問の結果によれば、控訴人が昭和五一年六月一〇日訴外港新商事株式会社に対して本件手形を交付したことが認められる。」に改める。

六  同七枚目表二行目「取り消す旨の合意をし」を「合意のうえ解約し、同訴外会社が被控訴人に本件手形を返還し、」に改め、同三行目の次に、行を改めて、左記のとおり加える。

「被控訴人は、訴外港新商事株式会社が昭和五一年一二月初旬、控訴人に対し口頭で前記債権譲渡契約が取り消された旨の通知をしたと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。

右訴外会社が、昭和五五年一二月二三日付同月二七日到達の内容証明郵便をもつて、控訴人に対し前記債権譲渡契約が取り消された旨の通知をしたことは、当事者間に争いがない。控訴人は、右通知は、本件訴訟が提起され、控訴人が右の通知のない旨の主張をしたあとの昭和五五年一二月二七日になされ、取り消されたとする日より長期間経過してからのものであるから、このように取消があつたとするときより長期間経つてからされた通知は、対抗要件を履践したことにはならない、と主張するので、検討する。手形金債権の讓渡契約を締結し、該手形を譲受人に交付し、手形債権者(譲渡人)が、右手形金債権譲渡の事実を手形債務者に通知したが、その後、譲受人と譲渡人との間で右譲渡契約を合意解約し、一旦交付された右手形が譲受人から譲渡人に返還された場合には、民法四六七条一項の規定を類推適用し、譲受人から、先に譲渡通知を受けた手形債務者に対し、右合意解約の事実を通知し又は該手形債務者がこれを承諾するのでなければ、これをもつて該手形債務者に対抗することができないものと解するのが相当である。本件において、前記認定した事実によれば、訴外港新商事株式会社は、昭和五一年一一月三〇日、被控訴人との間で、本件手形金債権の前記譲渡契約を合意のうえ解約し、一旦交付を受けた本件手形を被控訴人に返還し、昭和五五年一二月二七日手形債務者たる控訴人に対しその旨の通知をしたのであるから、被控訴人は控訴人に対する本件手形金債権を回復したものというべきであり、特段の事情の認められない本件においては、前記合意解約の日から約四カ年経過後にその旨の通知がなされたとの一事のみから、右通知に対抗要件としての効力がないと解することはできない。従つて、控訴人の前記主張は採用することができない。」

よつて、被控訴人の本件請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(鈴木重信 井田友吉 高山晨)

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