東京高等裁判所 昭和55年(ネ)915号 判決
四 監査役解任による損害賠償請求について
被控訴会社が、昭和五二年三月二九日、控訴人を被控訴会社の監査役から解任したこと、その際株主総会において控訴人に対し意思陳述の機会を与えなかったことは当事者間に争いがない。
そこで、正当の事由の存否について検討する。
≪証拠≫によると、次のような事実が認められる。
被控訴会社が控訴人を監査役から解任した主な理由は、控訴人が前記第二の主張二、9(一)ないし(四)記載のような税務処理上の過誤を犯したこと等によるものであるところ、控訴人が行った右税務処理の過誤及び被控訴会社の対応はおおむね被控訴会社主張のとおりであること、但し、右(二)の一時払いの不動産の売買の売上計上については、控訴人が手付金の支払われた時点、すなわち契約時点で計上するよう指導したが、被控訴会社は右(一)(四)の場合と同様、右指導に従わず、引渡時に計上する措置をとったこと、また、価格変動準備金の違法計上の問題についてみるに、控訴人は、荒井博一から被控訴会社の利益が増大したことを理由に節税の方法を相談されたことから、昭和四七年四月の決算にあたり、不動産売買を業とする被控訴会社については、価格変動準備金を計上することができず(租税特別措置法五三条)、これを計上するときは税務当局から否認されることを知りながら、あえて価格変動準備金として一〇七〇万円を計上したため、税務当局から否認され、右一〇七〇万円を利益処分とみなされて更正処分を受けたため、被控訴会社は延滞金及び重加算税等の支払を余儀なくされたことが認められ、右認定に反する原審及び当審における控訴人本人の供述はにわかに信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。控訴人は価格変動準備金の計上につき、自分がした処理の方が被控訴会社に有利であると主張する。なるほど、単に利益の観点からすれば控訴人主張のような結果となるとしても、それは法の認めない価格変動準備金を計上すればという前提に立つものであって、とうてい採用することができない。
ところで、監査役は善良なる管理者の注意を用いて事務を処理する義務を負い(商法二八〇条、二五四条三項、民法六四四条)、取締役の職務の執行を会計のみならず業務全般にわたって監査する権限(同法二七四条・二七五条)を行使するについても、これに必要な識見を有することが期待されるところであるから、監査役たる控訴人自身が前記のような明らかな税務処理上の過誤を犯したことは、被控訴会社に与えた実害の有無、程度にかかわらず、監査役として著しく不適任であるといわざるを得ない。
そして、≪証拠≫によると、控訴人は被控訴会社に対し、昭和五二年二月一五日付内容証明郵便をもって貸金九二〇〇万円及びこれに対する同月以降月五分の割合による利息並びに既存利息であるという二七六〇万円の各支払いを請求したが(控訴人が被控訴会社に対し月五分の利息で金員を貸し付けたこと、昭和五二年二月ころ、内容証明郵便でその返済を請求したことは当事者間に争いがない。)、これに対し、被控訴会社は、会社の業績に鑑み右貸金の利率として定められた月五分の割合は昭和五二年一月までこれを半分にし、かつ、当該半分の割合の利息の支払を猶予してもらい、昭和五二年一、二月ころになってからも、しばしば支払の猶予を懇請したにかかわらず、控訴人が唐突に支払請求の挙に出たとして、控訴人の前記請求に応じなかったという出来事があり、右出来事が直接のきっかけとなって、控訴人と被控訴会社との間に対立関係が顕在化するに至ったことが認められ、右当事者間の対立関係をも背景として斟酌すると、右貸金問題における双方の言分のいずれを最終的に是とすべきかは別として、前示のような税務処理上の過誤を犯した控訴人をそのまま被控訴会社の監査役の地位に留め置くべきであるとすることは無理であり、ひっきよう、被控訴会社が控訴人を被控訴会社の監査役から解任したことには正当な事由があるというべきである。
なお、監査役の解任に際し、相当の理由がないのに、株主総会において監査役に意見陳述の機会を与えないまま監査役の解任決議がなされた場合は、当該株主総会決議の取消事由となるとしても(但し、本件では商法二四八条所定の提訴期間をすでに徒過しているから右決議取消の可能性もない。)、右意見陳述の機会を与えなかった手続的瑕疵は、監査役の解任についての正当の事由を阻却するものではないこというまでもないから、右手続的瑕疵を理由に商法二五七条に基づく損害賠償を請求することは許されないと解するのが相当である。
よって、前記請求原因4の監査役解任による損害賠償請求は、その余の点について検討するまでもなく失当というべきである。
(蕪山 真栄田 塩谷)