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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)961号 判決 1980年9月03日

控訴人

亡原田セイ遺言執行者

吉村駿一

被控訴人

原田功

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

右部分につき、控訴人の訴を却下する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人は控訴人には本件求償権を行使する権限がないと主張するので、まず、この点につき検討するに、控訴人は

1  控訴人が昭和四八年六月二二日横浜家庭裁判所小田原支部から亡原田セイ(昭和四七年一一月五日死亡)の自筆証書遺言の遺言執行者に選任されて就職した。

2  亡セイは右遺言によつて、同人が平塚市中央農業協同組合に対して有する定期預金債権四〇〇万円及び被控訴人に対する貸金債権七五万円を、長女賀川ヨシ、二女小田冨美子、三女山崎松子、四女奥山君代、五女清水八重子に遺贈した。

3  右定期預金債権には、亡セイが生存中から被控訴人の右農協に対する借入金を担保するため質権が設定されており、弁済期にあたる昭和五〇年八月二六日ころ右質権の実行により三五六万円が右債権の弁済に充当された。

との事実関係にもとづき、受遺者である右五名の有する求償債権三五六万円及びこれに対する付帯請求を遺言執行者として被控訴人に対し請求するものであるところ、右事実関係によると、受遺者らが遺贈を受けた定期預金債権は、遺贈者である亡セイが死亡した昭和四七年一一月五日、右質権が設定された状態で当然に受遺者らに各五分の一ずつの割合で債権移転の効力が生じたはずであり、その後右定期預金債権は質権が実行されたため、受遺者らが被控訴人に対して各五分の一ずつの割合による求償権を取得するに至つたというべきである。一般に、遺言執行者は、相続財産又は特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有するものとされているが、既に受遺者に帰属した債権に関し後に発生した求償権の取立をすることまでの権限があると解すべき根拠はなく、前記求償権の行使は権利者である受遺者ら自らにおいて訴訟を追行すれば足りる。従つて控訴人に本件求償金請求訴訟の当事者適格はないと解するのが相当であり、被控訴人の主張は理由がある。

二よつて、控訴人の右求償金にかかる本訴は、当事者適格を欠くものとして却下すべきところ、原判決中本訴につき控訴人の請求を棄却した部分は失当であるからこれを取り消した上、控訴人の訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(石川義夫 寺澤光子 原島克己)

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