東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1107号 決定 1980年12月18日
抗告人
栗原昭治
右抗告人代理人兼抗告人
岡部勇二
相手方
国
右代表者法務大臣
奥野誠亮
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
理由
一抗告人らは、抗告の趣旨として、「一 原決定を取り消す。二 東京地方裁判所昭和五三年(ル)第三一二二号、同年(ヲ)第六〇四七号債権差押取立命令執行事件において、同裁判所が債務者(抗告人)岡部勇二に対しなした、東京地方裁判所昭和五〇年刑(わ)第一一三二号贈賄被告事件に係る保釈保証金一〇〇万円の返還請求権(進行番号昭和五〇年度第六八号)に対する債権差押取立命令を取り消す。三 相手方の東京地方裁判所昭和五〇年刑(わ)第一一三二号贈賄被告事件に係る保釈保証金一〇〇万円の返還請求権(進行番号昭和五〇年度第六八号)に対する債権差押取立命令の申立を却下する。」との裁判を求めたが、抗告の理由は、要するに、「債権者を相手方、債務者を抗告人岡部勇二(以下「抗告人岡部」という。)とする抗告の趣旨第二項掲記の本件債権差押取立命令執行事件において、同裁判所が差し押えて相手方にその取立てを命じた抗告の趣旨第二項掲記の贈賄被告事件に係る同掲記の保釈保証金(以下「本件保釈保証金」という。)の返還請求権は、抗告人岡部に帰属するものではなく、抗告人栗原昭治(以下「抗告人栗原」という。)に帰属するものである。なんとなれば、本件保釈保証金は、抗告人岡部が右贈賄被告事件の被告人であつた抗告人栗原の弁護士として、またその代理人としてこれを納付したものであるからである。それゆえ本件債権差押取立命令執行事件において東京地方裁判所が抗告人栗原の相手方(第三債務者)に対する本件保証金の返還請求権を差し押えて、相手方(債権者)にその取立てを命じたのでは違法である。」というにある。
二よつて、抗告の理由について案ずるに、一件記録によれば、本件債権差押取立命令執行事件は、債権者たる相手方が、東京高等裁判所が昭和五一年一月一四日に抗告人岡部に対してなした保釈保証金没取(保証書)の裁判(同年同月二〇日確定)につき、東京高等検察庁検察官検事森高彦が昭和五三年六月三〇日付でなした徴収命令(執行力ある債務名義と同一の効力を有する。刑事訴訟法第四九〇条第一項参照)の執行のため、昭和五四年法律第四号による改正前の民事訴訟法(以下、単に「民事訴訟法」という。)の準用により(同年法律第五号による改正前の刑事訴訟法第四九〇条第二項参照)、抗告人岡部を債務者として、第三債務者としての相手方に対する本件保釈保証金ほか一口の保釈保証金の各返還請求権について差押取立命令を得たものであることが認められる。ところで民事訴訟法上、債権者が、債務者の第三債務者に対する債権についての強制執行として、差押命令を申請するには、差し押えるべき債権の種類及び数額を開示しなければならないが(同法第五九六条第一項)、その当然の前提として、右債権が債務者に帰属するものであることを開示しなければならないことはいうまでもない。しかし右開示については、これを裏付ける証拠は不要であり、というよりも右開示自体が差押えるべき債権の存在とその帰属についての法定の徴憑ともいうべきものであつて、執行裁判所としては、予め第三債務者及び債務者を審尋することなく、債権者の開示のとおりの執行対象債権について差押命令を発しなければならないこととされている(同法第五九七条)。差押えられた債権が債権者の開示したところと異なり、債務者に帰属しないものであつたときは、当該差押命令がその執行対象を欠くものとして無意味に帰するだけのことである。ところで本件差押取立命令執行事件において、相手方は本件保釈保証金の返還請求権が債務者である抗告人岡部に帰属するものと開示して本件差押取立命令の申請をしたものであることは一件記録上明らかであるから、原裁判所が本件差押取立命令執行事件において、本件保釈保証金の返還請求権を抗告人岡部の相手方(第三債務者)に対する債権として差し押えて相手方にその取立てを命じたのは適法な執行行為であつて、なんら違法ではなく、抗告人の前記抗告理由の主張は、その余の判断をなすまでもなく失当である。ちなみに本件保釈保証金については、原決定理由に説示の理由により抗告人岡部がその提出者と推認されるので、本件保釈保証金の返還請求権は、客観的にも、同抗告人に帰属していたものと考えられる。
なお、一件記録を精査するも、他に本件差押取立命令を取り消さなければならないような違法な点は発見できない。
三以上のとおりであつて、原審が抗告人らの本件執行方法に関する異議申立てを棄却したのは、結論において相当であるから、抗告人らの本件抗告はいずれも理由がなく、棄却を免れないものである。
よつて主文のとおり決定する。
(宮崎富哉 高野耕一 石井健吾)