東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1178号 決定 1980年12月23日
抗告人
山口鉄美
相手方
藤井十三
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙のとおりである。
記録によると、相手方(本件担保取消決定申立人)は、抗告人に対して昭和四七年一一月二七日、東京都新宿区大久保一丁目一六番一三号所在家屋番号一七五番三の一鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付七階建店舗事務所共同住宅のうち六階六〇五号室39.66平方メートル(以下「本件建物」という。)を賃貸したが、抗告人が賃料等の支払を怠つたので、昭和五三年六月ころ、抗告人に対し同年二月分以降の賃料等を支払うよう催告し、東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第九三六三号建物明渡請求事件を提起し、昭和五四年二月二日に送達された訴状(副本)をもつて、抗告人に対し、賃料不払を理由に本件建物賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、他方、右明渡の執行を保全するため、昭和五三年一二月二二日に原裁判所に対して不動産占有移転禁止の仮処分の申請をしたので、原裁判所は、保証金三〇万円を立てさせて、昭和五四年一月五日に「抗告人の本件建物に対する占有を解いて同裁判所の執行官に保管させる。執行官は、抗告人にその使用を許さなければならない。抗告人は、その占有を他人に移転し又は占有名義を変更してはならない。」等の内容の仮処分決定をした。ところが、相手方は、本案事件たる前記の建物明渡請求事件において原告勝訴の判決(主文は、被告(抗告人)は原告(相手方)に対し本件建物を明渡せ。)を受け、抗告人が控訴したが東京高等裁判所(昭和五四年(ネ)第一八四八号事件)において控訴棄却の判決を受け、更に上告したが最高裁判所(昭和五五年(オ)第三五六号事件)において上告棄却の判決を受け、同年七月一七日確定したので、担保の事由が止んだものとして本件の担保取消決定の申立をした結果、原裁判所は担保の事由が止んだものとして本件担保取消決定をしたことが認められる。
ところで、本案事件において、担保取消申立人(相手方)の勝訴の判決が確定したときは、担保の事由が止んだものとして担保取消決定をなし得るものと解するのが相当であつて、前示のように本件の本案事件において相手方勝訴の判決が確定したことが認められるから、原裁判所がした本件担保取消決定は相当である。
もつとも、抗告人は、本案事件について再審の訴を提起(当庁昭和五五年(ム)第三四号事件)し、現在審理中であると主張し、本件記録によると、当庁に右事件が係属中であることが認められるけれども、再審の訴を提起したことによつて確定したと取扱われている裁判の効力を妨げるものではないと解すべきであるのみならず、その他に抗告人主張事実を認めるに足りる資料はないから、抗告人の主張は採用できない。
よつて、抗告人の本件抗告を理由がないとして棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(倉田卓次 井田友吉 高山晨)