東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1240号 決定 1981年9月07日
抗告人 浜矢甚一郎
抗告人 浜甚商事株式会社
右代表者代表取締役 浜矢みち
右両名代理人弁護士 坂上富男
相手方 株式会社新盛
右代表者代表取締役 高島文治
<ほか二名>
右相手方新潟プロセス印刷株式会社及び同小林作次郎代理人弁護士 木村哲
同 勝見洋人
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
一 抗告人らの本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。相手方らの破産申立は棄却する。申立及び抗告に関する費用は相手方らの負担とする。」というのであり、その理由は別紙破産宣告決定に対する即時抗告状「抗告の理由」欄記載のとおりである。
二 そこで判断するに、本件記録によれば、抗告人浜甚商事株式会社は青果物その他食料品等の卸及び小売販売を目的として昭和二七年一月一七日設立された会社であるが、事業不振のため昭和五五年三月二一日に弁済期の到来する債務の支払資金の手当ができず、同年三月一八日抗告会社の当時の代表取締役であった抗告人浜矢甚一郎、取締役浜矢ミチ子、同浜矢貴美子は辞任届を残して一時失踪したため、翌一九日より店舗を閉鎖し、債権者らに対する支払を停止したこと、同年三月二四日弁護士長谷川均、同鶴巻克恕の両名が抗告会社の取締役兼代表取締役職務代行者に選任されたが、もはや会社の業務を続行することはできず、抗告会社は債権者集会の了承を得て任意整理に移行し、同年四月一〇日従業員全員を解雇するとともに、抗告会社の在庫商品を売却しその売得金等をもって従業員に対する未払給与等を支払いかつ一般債権者に対する第一次配当を実施するなどその整理業務を遂行中であったこと、ところが、右代表取締役職務代行者と抗告会社の株主である浜矢一族との間に抗告会社所有不動産の処分方法をめぐり対立抗争を生じたので、相手方らは、抗告会社の資産の整理及び配当の実施の公平を期すため、同年一〇月初旬本件破産申立に及んだものであること、ところで、抗告会社の債務は同年四月末現在で申立人ら三名を含む一般債権者九七名に対する債務が合計金一億九四七六万〇六五三円、抵当権者である新潟信用金庫に対する債務が元本債務のみで金二億七三〇一万〇四四六円、その合計金四億六七七七万一〇九九円であり、その後同年一〇月二日までの間に一般債権者九七名中八七名に対して実施された一割八分の割合による前記第一次配当分合計金二一九九万五六〇〇円を差引いても、本件破産申立時における抗告会社の債務は合計金四億四五七七万五四九九円を下らないこと、これに対して抗告会社の資産としては新潟市桃山町二丁目一二二番二及び同市古町通一〇番町一六七〇番地所在の所有建物(店舗)の評価額が合計金一億三九一万一〇〇〇円であり、他に手持現金二〇五五万四三三七円あるほかはめぼしい資産はなく、債務超過の状態にあること、以上の事実を認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はない。
もっとも、抗告人らは、一般債権者のうち九名を除くその余の債権者(相手方新潟プロセス印刷株式会社及び同小林作次郎を含む)は右第一次配当を受けることを条件として残債務を免除しかつその配当を受領したものであるから、右相手方から二名を含む大部分の一般債権者の債権は消滅し、したがって、抗告会社は債務超過及び支払不能の状態にはない旨主張するが、本件記録によれば、一般債権者らが抗告会社に対してした残債務免除の意思表示は、第一次配当以外に配当原資が得られないときは残債務を免除するという条件付のものと解せられるところ、抗告会社が本件破産申立当時において約金二〇〇〇万円の現金を有するほかなお不動産などの資産を保有していることが認められるから、右条件は未成就であり、抗告人ら主張の残債務免除の意思表示は未だ効力を生じていないものというべきである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、抗告人らの右主張は理由がない。
次に抗告人らは、抗告会社の大口債権者である新潟信用金庫に対しては抗告人浜矢甚一郎が個人保証しかつ個人の不動産を担保提供しており、同じく相手方株式会社新盛に対しては抗告人浜矢甚一郎が個人保証しているのであり、その資力及び担保価値からみて右両名に対する債務の返済が十分に可能であることからすれば、債務超過の破産原因はない、旨主張するが、法人の破産原因としての債務超過の事実を確定するに際しては、その法人の財産をもって債務を完済することができるか否かを判断すれば足り(破産法一二七条一項参照)、代表者個人による保証ないし担保提供の事実までしん酌しなければならないものではないから、債務超過の状態にないとする抗告人らの主張は理由がない。
以上認定したところによれば、抗告会社は支払手段の欠亡の結果その債権者一般に対し履行期に債務の支払をすることができない状態にあり、またその財産をもって債務を完済することができない状況にあることは明らかであるから、抗告会社には破産法一二六条一項及び一二七条一項所定の破産原因が存するものといわなければならない。
三 よって、抗告人らの本件抗告は理由がないから、いずれもこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について破産法一〇八条民事訴訟法九五条八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 藤原康志 渡辺剛男)
<以下省略>