東京高等裁判所 昭和55年(ラ)19号 決定 1980年3月28日
抗告人
奥谷たき
外四名
右五名代理人
山本政喜
相手方
奥谷漁業株式会社
右代表者
奥谷一春
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
理由
抗告代理人は、「原決定を取り消す。相手方の移送の申立を却下する。」との裁判を求め、抗告理由として主張するところの要旨は、(一)前記横浜地方裁判所昭和五四年(ワ)第五四七号事件は同地方裁判所の専属管轄に属する事件であり、調停、審判も横浜家庭裁判所に係属しているのであるから、右昭和五四年(ワ)第五四七号事件は横浜地方裁判所で審理すべきである。(二)原決定は、右昭和五四年第五四七号事件については、同裁判所昭和五三年(ワ)第七八四号事件におけると同様に、右事件の被告側申請の証人は北海道在住のものが多いこと、右昭和五四年(ワ)第五四七号事件を釧路地方裁判所網走支部に移送する理由としているが、右被告側はいやがらせに北海道在住の証人を羅列したにすぎず、右証人は事件の本筋や争点に関係しないものばかりである。そして、単純に訴訟経済における経費計算をしても、網走支部で審理する場合はその都度弁護士の旅費が必要となり、それに関東以西在住の証人の旅費を加えると、横浜地方裁判所で審理する(この場合は北海道在住の証人の出頭のための旅費等を考慮すればよい。)場合よりも費用がかかり、結局横浜地方裁判所で審理する方が経済的である、というのである。
そこで考えるに、抗告理由(一)について。本件昭和五四年(ワ)第五四七号事件が相続回復請求等相続権に関する訴であるとしても、それについては民訴法一九条による特別の物的裁判籍が認められているが、その裁判籍は民事訴訟法上認められる他の人的・物的裁判籍との関係上任意的選択的なものである。従つて、これが横浜地方裁判所の専属管轄に属するものではなく、抗告代理人主張のように、仮に調停、審判が横浜家庭裁判所に係属しているとしても、右事件を横浜地方裁判所以外の任意的管轄権のある裁判所で審理裁判することが許されないものではない。以上に説示したところによりこの抗告理由は理由がないものといわなければならない。
次に抗告理由(二)について。本件昭和五四年(ワ)第五四七号事件は横浜地方裁判所昭和五三年(ワ)第七八四号事件と同様に、亡奥谷悠一の相続財産につきその相続人間ないし相続人から右財産を譲り受けた者間における所有権の帰属等が争われているものであり、両事件は関連性を有するものとして、同裁判所第三民事部で平行して審理されているものである。従つて、右昭和五三年(ワ)第七八四号事件につき、これを釧路地方裁判所網走支部に移送すべき理由のあるときは、本件昭和五四年(ワ)第五四七号事件をも網走支部に移送するのが相当であるというべきものである。ところで、右昭和五三年(ワ)第七八四号事件記録によれば、原告ら申請の人証は七名でうち北海道在住四名(うち証人二名)、被告奥谷一春申請の人証は一八名でうち北海道在住一二名(うち証人一一名)であることが認められ、本件昭和五四年(ワ)第五四七号事件で争われているものはいずれも網走市その他北海道所在の土地であり、また右昭和五三年(ワ)第七八四号事件で争われているものは網走市内にある土地三三筆、建物四棟のほかは網走市その他北海道所在の会社の株主権、社員権に関し、右両事件の原告奥谷たき、同竹本敏子、奥谷雍子、昭和五三年(ワ)第七八四号事件の被告奥谷一春、同奥谷稔、昭和五四年(ワ)第五四七号事件の被告奥谷漁業株式会社(その代表者は右奥谷一春)の住所ないし所在地がいずれも北海道にあり、右被告奥谷一春申請の人証の尋問事項はいずれも事件の争点に関するものであることをあわせ考えると、右両事件の原告訴訟代理人がいずれも東京在住の弁護士であることを考慮しても、右土地等につき任意管轄権を有する釧路地方裁判所網走支部で右昭和五三年(ワ)第七八四号事件につき、従つて本件昭和五四年(ワ)第五四七号事件について審理裁判することが民訴法三一条にいう「著キ損害又ハ遅滞ヲ避クル為必要アリ」と認める場合にあたり、本件を同支部に移送するのが相当であると考える。従つて、抗告代理人のこの抗告理由も理由がないものといわなければならない。
よつて、前記事件を釧路地方裁判所網走支部に移送すべきものとした原決定は相当で、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(渡辺忠之 鈴木重信 糟谷忠男)