東京高等裁判所 昭和55年(ラ)398号 決定 1980年7月25日
第三九八号事件抗告人 金仁玉
右代理人弁護士 大隅乙郎
第四〇二号事件抗告人 松本旦
右代理人 伊東勝
主文
抗告人金仁玉の抗告を棄却する。
抗告人松本旦の抗告を却下する。
理由
一 第三九八号事件について
本件抗告の趣旨は「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、抗告の理由は別紙抗告人金仁玉の抗告理由書記載のとおりであるが、その要旨は、(一)本件競売申立当時から別紙物件目録一記載の建物(以下本件建物という。)には抵当権者従って競落人に対抗しうべき同抗告人の賃借権が存在しているのであるから原裁判所は本件競売期日の公告にあたり右賃借権の存在を公告すべきであるにもかかわらず、これをしていない。(二)さらに原裁判所は、別紙物件目録一ないし三記載の本件各物件を一括競売に付し、従って法定地上権の発生する余地がないにもかかわらず、本件建物には法定地上権が付着しているとして、これを不当に高く一九六八万円と評価し、同目録二記載の土地には右地上権の負担があるとして不当に低く五九〇万円と評価し、さらに同目録三記載の土地の持分を七〇万円と評価して公告したものであって本件公告は適法な最低競売価額の記載を欠くものである。従って本件競売は民訴法六七二条四号、六五八条三号、六号に該当し本件競落許可決定は取消を免れないというのである。
抗告の理由(一)について
競売期日の公告に賃借権の存否、内容の記載を要するのは競落人が承継すべき賃借権を明らかにして競買希望者に競買申出の資料を提供しもってこれらの者に不測の損害を与えることを防止しようとするためであって公告の有無が賃借権の存在及びその対抗力に何らの影響を及ぼすものではない。従って、抗告人がその主張のとおり抵当権者に対抗しうる賃借権を有しているとすれば、賃借権に関する公告の有無にかかわらず、右賃借権をもって本件建物の競落人に対抗しうるものであるから、仮に本件競売手続において右賃借権の公告を欠く(もっとも記録によれば本件建物については競売期日の公告に「賃貸借関係不明」と記載されており、右公告に違法の廉があるとは必ずしも言えないのであるが、この点は暫く措く。)としても賃借人たる抗告人はそれによって何らの損害も蒙るものではないといわなければならない。この主張は適法な抗告理由といえない。
抗告の理由(二)について
本件記録によれば、本件競売手続においては当初本件建物のみが競売に付されたが、その後債権者西武信用金庫及び債権者東京信用保証協会よりそれぞれ本件各物件につき任意競売の申立がなされたため、あらためて本件各物件を一括して最低競売価額を二五二八万円として競売に付されていることが明らかであるから本件建物及び前記目録二の土地の最低競売価額の評価が不当であるという抗告人の主張は失当であるのみならず、仮に本件各物件の最低競売価額の決定に関し抗告人主張のような瑕疵があるとしても、賃借人たる抗告人はこのことにより何ら損害を蒙るものではないから、いづれにしてもこの主張もまた適法な抗告理由とはいえない。
以上のとおり抗告人の前記各主張はいずれも適法な抗告理由とはなし難いものであり、その他本件記録を精査するも本件競落許可決定を取消すにたる事由は存しない。よって本件抗告を棄却することとし主文のとおり決定する。
二 第四〇二号事件について
本件即時抗告の申立書によれば、本件抗告は抗告人(債務者)松本旦の代理人伊東勝によりなされているが、本件記録を精査するも抗告人が本件抗告の申立を右伊東に適法に委任したことを認めるにたる資料は何もないから本件抗告は抗告権者である松本の意思に基づかない不適法なものであって却下を免れない。
よって主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 賀集唱 福井厚士)
<以下省略>