東京高等裁判所 昭和55年(ラ)465号 決定 1980年12月25日
抗告人
重川和久
右代理人
吉原大吉
相手方
宮崎義則
主文
本件抗告を却下する。
理由
一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状(写)記載のとおりである。
二よつて審案するに、本件記録によると、原審判が本件審判事件の申立人である相手方に告知されたのは昭和五五年三月一一日であり、本件抗告が提起されたのが同年四月二五日であることが認められるから、本件抗告は即時抗告期間経過後に提起された不適法なものというべきである。この点について、抗告人は、原審判手続に抗告人は参加しておらず、抗告人が原審判のあつたことを知つたのは昭和五五年四月二一日であり、その時には既に即時抗告期間が経過していたとの事実関係を前提とし、このような場合には、家事審判法七条が準用する非訟事件手続法二二条にいう抗告人の責に帰すべからざる事由により即時抗告の期間を遵守すること能わざる場合に該当するものと解すべきであるから、本件抗告の追完は許されるべきである旨主張する。しかしながら、抗告人が原審判のあつたことを知つたのが抗告人主張の日であると認めるに足りる証拠はないのみならず、家事審判規則一二一条一項は遺言確認の審判について利害関係人に対し即時抗告権を付与しているが、同規則一七条は、利害関係人が審判の告知を受けないときであつても、その即時抗告期間は事件の申立人に対し審判が告知されたときから進行するとしているのであり、かかる規定が設けられたゆえんは、即時抗告権者毎に審判確定日が区々となつて不明確となり、ひいては法的安定性が害されるに至るのを避けるにあるところ、抗告人主張の事実関係の場合に即時抗告の追完を認めるときには、右審判規則の規定の趣旨を没却することになるから、抗告人の前記主張は、到底採用することができない。
よつて、本件抗告は、その理由の当否について判断するまでもなく、却下を免れないものというべきである。
(園田治 三好達 柴田保幸)
〔抗告状〕
〔抗告の趣旨〕
原審判を取消す。
本件審判申立を却下する。
〔行為の追完に関する主張〕
一、抗告人は遺言者の長男であり、法定相続人であつて、本件審判に利害関係を有する者である。
二、原審判は昭和五五年三月一一日になされ、申立人に告知され、同月二五日頃の経過により形式上確定したものとされている。
三、しかしながら抗告人は本件審判申立を全く知らず、この確認審判に基く遺言状の検認(東京家庭裁判所昭和五五年(家)第二二二六号遺言書検認審判事件)が行われた同年四月二一日に初めて右の申立と審判のなされた事実を知つたものである。勿論原裁判所では利害関係人としての抗告人を参加させてはいない。
従つて抗告人の責に帰すべからざる事由により即時抗告の期間を遵守することが出来なかつたものである。(家事審判法第七条、非訟事件手続法第二二条)
四、因みに相手方は、本件とは別に、遺言者に関する本件遺言状と同旨の危急時遺言の確認の申立を行つており(東京家庭裁判所昭和五五年(家)第六八五号)これは同年三月一九日却下され、相手方は抗告している。
五、原審判の理由2の(4)によれば、昭和五四年一二月二五日午後四時頃相手方外二名が遺言者のベッドの傍で危急時の遺言が作成されたと判断しているが、右日時には相手方はもとより他の証人二名も病室には来ておらず、又さような遺言書の作成もなかつたものである。
この事実は当日遺言者と同じ病室にいた患者とその看護人それに遺言者の看護人からの事情聴取によつて明らかである。
六、相手方と立会証人の内小笠原満子は共に、常日頃遺言者の夫亡重川佐一の遺言執行に不満をもつている重川治樹に肩入れし、抗告人に対しては根強い悪意と理由なき反感をもつているものである。
七、同一趣旨の遺言が二回も確認申立なされていること自体異常であるばかりか、審判の内一つは却下、一つは認容となつておる事案である。
慎重なる抗告審の判断を賜りたい。