東京高等裁判所 昭和55年(ラ)47号 決定 1980年4月08日
抗告人 ナンシー・コモリ・スタンレー 外一名
相手方 小森貞之 外一名
主文
原審判をそれぞれ取消す。
本件をそれぞれ静岡家庭裁判所沼津支部に差戻す。
理由
一 本件各抗告の趣旨及び理由
別紙各即時抗告申立書記載のとおり。
二 当裁判所の判断
1 本件各即時抗告の申立は昭和五四年一〇月二三日にそれぞれなされているが、原審判の各正本は抗告人ナンシー・コモリ・スタンレー(以下抗告人ナンシーという)に対しては昭和五四年八月二三日に、抗告人サリー・コモリ・ホワイト(旧姓コルドウェル、以下抗告人サリーという)に対しては同年一二月一〇日にそれぞれ送達されているので、まず、右各抗告の申立の効力について判断する。
本件各記録によれば、本件各遺産分割審判は昭和五四年三月一二日付(第二一七号)及び同年同月三〇日付(第二一二ないし二一四号)でなされたこと、右各事件の相手方である本件各抗告人両名及びアヤノ・コモリはいずれも米国国籍を有し、同国内に住所を有していること、原審は右三名に対し本件各審判期日の通知をしないまま審判をなし、米国内における同人らの各住所宛に本件各審判正本の送達をなしたこと、抗告人ナンシーは昭和五四年八月二三日に、アヤノ・コモリは同月三〇日にそれぞれ前記審判正本を受領したが、抗告人サリーについては不送達となつたこと、抗告人ナンシーは同年同月二四日付不服申立書を米国ヒューストン市在勤日本領事○○○・○○○に提出したこと、その頃、抗告人サリーは抗告人ナンシーから本件各審判のなされたこと及びその内容を聞知したこと、同年一〇月一二日抗告人両名は本件各抗告代理人に本件各即時抗告申立を委任し、同月二三日同申立をしたこと、抗告人サリーに対する原審判各正本は同年一二月一〇日右抗告代理人に送達されたことが認められる。
右認定の事情のもとでは、抗告人ナンシーの本件各抗告申立は申立期間を経過した後になされているが、右期間不遵守は同人の責に帰すべからざる事由によるものと認められるから、原審判正本送達の日から二ヵ月以内になされた右申立は適法であり、また、抗告人サリーの本件各抗告申立は原審判正本送達前になされているが、同人は抗告人ナンシーが原審判正本の送達を受けた後間もなく自己に対する本件各審判のあつたことを諒知したと認められるから、右諒知後二ヵ月以内になされた右申立は適法である。
2 次に、遺産分割の審判は共同相続人全員を当事者として審判手続に関与させてなすべきものであるから、共同相続人の一人又は数人が右審判手続に当事者として関与する機会を奪われ、かつ、事実上も本人自身又は適法な代理権のある代理人が右審判手続に関与しなかつたときは、このような手続によつてなされた遺産分割の審判は違法というべきである。
原審判は被相続人小森貞吉の遺産及び被相続人小森忠治の遺産についてそれぞれ分割審判をなしたものであるが、本件記録によれば、抗告人らは右各審判に至るまで原裁判所から審判手続につき通知を受けたことがなく、また、右審判手続に抗告人ら又はその代理人が関与しなかつたことが認められるから、このような手続によつてなされた原審判はいずれも違法として取消を免れない。
よつて、本件各即時抗告は理由があるから、家事審判規則一九条一項に従い原各審判を取消し本件各件を静岡家庭裁判所沼津支部に差戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 手代木進 上杉晴一郎)
抗告申立書<省略>