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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)159号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 原告は、本願発明では定着剤が溶媒に溶解しているのに対し、第一引用例に記載の発明では定着剤が分散媒に分散されており、この点で両者は相違するが、審決はこの相違点を看過していると主張する。

(一) 本願発明も第一引用例記載の発明も、共に電子写真用液体現像剤に関するものであり、定着剤に水素添加ロジンが使用されうることについては、当事者間に争いがない。

(二) 成立に争いのない甲第二号証の一・二によれば、本願発明の電子写真用現像液における液担体として用いられる石油区分のパラフイン系の溶媒について、本願明細書は、「石油区分は低いK・B〔コウリーブタノール(kauributanol)〕数、すなわち三五以下のものがよく、好ましくは二六と三五の間のものがよい」(甲第二号証の二、第八頁第五行ないし第八行)とし、具体的な例として、シエルゾル七一(K・B数二六・五)、「イソパーH」(K・B数二六・九)、「イソパーK」(K・B数二六・五)、「イソパーL」、「アムスコOMS」(K・B数二七・〇)、「アムスコ四六〇溶剤」(K・B数三四・五)、「アムスコ無臭殺虫剤ベース」(K・B数二六・五)及び「無臭灯油」があげられている(同上第一〇頁第一行ないし第九行、第一一頁表)。

他方、成立に争いのない甲第五号証によると、第一引用例には、「トーナー媒質を結合剤媒質としての水素添加ロジンエステルと混合してペーストを生成すること、及び二八以下のK・B価を有する分散媒液中にそのペーストを分散させることからなるところの電子写真用改良トーナーの生成法」(甲第三号証第三頁右欄第三〇行ないし末行)が記載され、分散媒液の具体的な例として「シエルソルT」(K・B価二六)、「イソパーH」(K・B価二六・九)、及び「ソバソル三五」(K・B価二六)、(同上、第一頁右欄第四〇行ないし第二頁左欄第九行)があげられている。

従つて、本願発明における液担体と第一引用例記載の発明における液担体とは、前者が「溶媒」とし、後者が「分散媒液」とする表現上の相違はあるものの、両者は、K・B数において一致する場合があり、また共に「イソパーH」を用いているから、両者の間に差異がない場合が存在することが認められる。

この点に関し、原告は、第一引用例記載の発明における「シエルソルT」「イソパーH」及び「ソルバル三五」は分散媒液であり、定着剤を溶解する溶媒として示されるものでないと主張する。

前掲甲第二号証の一・二、第五号証、及び成立に争いのない甲第四号証、第六号証、並びに弁論の全趣旨によれば、一般に電子写真用の現像液には定着剤と共に顔料が必須の成分として微粒子状になつているのであつて、現像液自体は顔料粒子の分散液とみることができる。そして第一引用例においても、「上記のミクロリスブラツクCTとミクロリスブルー四GTとを高速攪拌器中にて混合してペーストを作り、このペースト〇・五~一〇g対分散媒液一〇〇gの比率になるように上記ペーストをシエルソンTと混合し、分散させる。」(甲第五号証第二頁左欄第二七行ないし第三一行)と記載されているように、顔料のみを分散させる場合に分散媒液として記述されていること、及び「スタイべライトエステル一〇の五〇%溶液(イソパーH中)」(同上第二頁左欄第三六行ないし第三七行)と記載され、スタイベライトエステル一〇としての水素添加ロジンのグリセロールエステルが溶媒であるイソパーHに溶解している溶液が示されていることからして、顔料を対象としたときには分散媒液として例示されたものが定着剤に対しては溶媒であることを意味する記述がされていることからみてその発明における「分散媒液」の語は、顔料粒子を対象として用いた用語であつて、定着剤を対象としたものではないとするのが技術常識と認められる。ちなみに、本願発明における電子写真用の現像液においても、液担体として用いる溶媒は、顔料粒子に対しては、「分散媒液」といえる。

(四) そうすると、本願発明と第一引用例記載の発明においては、定着剤及び液担体において差異のない場合が存在するから、本願発明において定着剤が液担体に溶解している以上、第一引用例記載の発明においても定着剤が液担体に溶解している場合が存在するといわざるをえない。

(なお前掲甲第四号証によれば、第二引用例においても、定着剤であるターフエニル又は水素化したターフエニルは液担体に溶解して存在することが記載されているから、定着剤が液担体に溶解していることは、新規ではない。)

(五) 原告がその主張に副うものとする成立に争いのない甲第一〇号証及び第一一号証によれば、そこに示されたそれぞれの実験においては、第一引用例に記載された前記「スタイベライトエステル一〇の五〇%溶液(イソパーH中)が得られなかつたことは認められる。

しかしながら甲第一〇号証における実験は、スタイベライトエステル一〇を一九g、イソパーH八一gに加えた場合に透明な溶液が得られなかつたことを、また甲第一一号証における実験は右のものに更にイソパーH八一gを加えた場合に透明な溶液が得られなかつたことを示すのみでこれらの実験を以て第一引用例記載の発明における現像液において水素添加ロジンエステルが液担体である分散媒液に溶解しないと断定する資料とはし難く、右認定を左右するものではない。

したがつて審決には原告の主張1のような相違点の看過はなく、その主張は採用できない。

2 原告は、審決が本願発明の顕著な作用効果を看過していると主張する。

(一) まず、皮膜形成性定着剤が液担体に可溶なため、定着剤は複写物全体を安定して保護し、よごれを防止し、基体への画像の結合を強固にする点については、前2項認定のとおり、本願発明と第一引用例記載の発明とは、共に、定着剤及び液担体を同じくする場合が存在する以上、第一引用例記載の発明においても定着剤が液担体に可溶の場合が存在することになるので、右効果につき、両者間にとりたてて差異があるものとすることはできない。

(二) 一部が可溶性で一部が不溶性の異なる四種の成分を特定の割合で液担体中に配分使用することにより、分解能の良い濃い画像が得られる点は、本願発明における電子写真用現像液としての構成成分から予測されるところであつて格別のものではない。

すなわち前掲甲第二号証の一・二によれば、本願発明の電子写真用現像液には液担体中に顔料及び定着剤の他に分散剤及びチヤージデイレクターが配合されている。しかしながら、分散剤は一般に固体微粒子を液中に分散させて安定な分散液を得るために用いられるものであることは自明の事柄であるから、本願発明の電子写真用現像液において分散剤を配合すれば顔料粒子の分散性が良好になり、従つて分解能の良好な画像が得られることは容易に予測されるところである。

またチヤージデイレクターは、原告も本件第六回準備手続で認めているなど弁論の全趣旨により、電子写真用現像液の添加剤として周知のものであり、前掲甲第六号証によれば、第三引用例にも「陰極静電場の存在下で上記粒子に陽極を与える極性安定剤」(同号証第六欄第一八行ないし第二〇行、訳文第八頁、第七行、第八行)と記載され、前掲甲第二号証の二によれば、本願明細書にも「サブーミクロン級の顔料粒子上に静電電荷を発生するかまたは増加するもの」(同号証第二四頁第二〇行ないし第二五頁第一行)と記載されているように、顔料粒子の荷電特性を改善する作用を有するものであるから、本願発明の電子写真用現像液においてチヤージデイレクターを配合すれば、顔料粒子の荷電特性が改善され、従つて濃い良質な画像が得られることは、当然に予測されるところである。

(三) そうすると、本願発明の奏する効果は、何れも顕著なものと認めることができず、この点に関する原告の主張も採用することができない。

3 原告は、第一引用例ないし第三引用例のいずれにも、本願発明の最大の特徴である定着剤と液担体との関係を示唆する記載は全く認められないから、本願発明がこれらに記載された発明から容易に推考することができるものではないと主張する。

しかしながら前示1項認定のとおり、第一引用例には定着剤と液担体との関係において差異のない場合が存在する。そして前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、電子写真用現像液において分散剤として「オクタデセニルメタアクリレート五〇部、スチレン四〇部及びジエチルアミノエチルメタクリレート一〇部の相互重合体」を用いることが記載され(同号証第一頁右欄第二八行ないし第三一行)、また電子写真用液体現像剤にチヤージデイレクターを用いることは前示のとおり周知であり、前掲甲第六号証によれば、第三引用例にも金属石けんを用いることが記載されている(同号証第六欄第一六行ないし第二九行、訳文第八頁第八行ないし第九頁第七行)。しかも前2項認定のとおり、本願発明の奏する効果は顕著なものとすることはできない。

したがつて本願発明は第一引用例ないし第三引用例記載の発明から容易に発明をすることができたものとせざるをえず、その進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。

三 以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、本件審決を違法としてその取消を求める本訴請求は、失当として棄却すべきものである。

〔編註〕本願発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四五年二月一四日、名称を「電子写真用の現像液」とする発明(以下「本願発明」という。)について、特許出願をした(昭和四五年特許願第一三〇五〇号)ところ、昭和五〇年八月三〇日、拒絶査定があつたので、昭和五一年一月一三日、拒絶査定不服の審判の請求をし、昭和五一年審判第八六一号事件として審理されたが、昭和五五年一月一〇日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年二月二日原告に送達された。

なお出訴のため附加期間を三か月と定められた。

二 本願明細書の「特許請求の範囲」の記載

現像液が主として石油区分のパラフイン系溶媒と、前記溶媒に溶解している固体の皮膜形成の定着剤、上記溶媒により支持されている固体のチヤージデイレクター(charge director)、及び上記溶媒中に分散して不溶解のサブーミクロン級大の固体の検電性(electroscopic)の顔料材料とからなり;前記皮膜形成性の定着剤が、電子写真用のベースシート(基板)表面に静電的に吸引される検電性(electroscopic)の顔料が前記表面に固着するに十分な固体成分量の約三〇ないし六〇重量%存在し;前記分散剤が、溶媒中に検電性(electroscopic)顔料材料を分散するに十分な固体成分量の約五ないし三〇%の量存在し;前記チヤージデイレクター(charge director)が、検電性(electroscopic)顔料材料のチヤージデイレクシヨン(charge direction)を増すに十分な固体成分量の約〇・一ないし五重量%の量存在し及び前記検電性(electroscopic)顔料が固体成分の約五ないし四〇重量%の量存在し、定着剤と分散剤が固体成分の多数割合を占め;前記溶媒が少なくとも灯油よりも早く、ヘキサンよりも遅い蒸発比、約二六ないし三五のK・B数、<省略>以下の誘電率、少なくとも一〇〇度Fの引火点、室温で〇・五と二・五センチポイズの間の粘度をもち、毒性がなく、臭いが少なく、高い固有電気抵抗のもので、非極性で、実質的に芳香族液体を含まず、紙の炭化点より少し低い温度で迅く蒸発する性質を有するものであり、;前記皮膜形成剤が非粘性で、丈夫な固形の皮膜をつくり、溶媒駆逐性に富み、電子写真用の表面によく固着する密着した膜をつくる性質をもつものであり、前記固体成分のすべてが互いに両立しえて、周囲の温度では互いに化学的に不活性であり;定着剤が水素添加と重合した木のロジン、水素添加した木のロジン、変成した木のロジンのグリセリンエステル、木のロジンのペンタエリスリトールエステル、重合した木のロジンのペンタエリスリトールエステル、木のロジンのペンタエリスリトールエステルの変成物、水素添加した木のロジンのペンタエリスリトールエステル、樹脂酸二量体のペンタエリスリトールエステル、重合した木のロジンのグリセリンエステル、粗石油から得られたジエン類オレフイン類の重合物からの石油炭化水素、変成木のロジンのペンタエリスリトールエステル及び重合体の単位が圧倒的に芳香族及び環状化合物の単位からなる群から選ばれたものからなる熱可塑性の石油炭化水素樹脂からなる群からなるものから選ばれたものであり、;チヤージデイレクター(charge director)がステアリン酸アルミニウム、ドレジン酸アルミニウム(alminum dresinate)、ドレジン酸バナジウム(Vanadium dresinate)、ドレジン酸錫(tin dresinate)、2―エチルヘキソン酸のコバルト塩、2―エチルヘキソン酸の鉄塩、2―エチルヘキソン酸のマンガン塩、リノレイン酸マンガン、1―〔2―オキシエチル〕―2〔ペンタデシルとヘプタデシルの混合〕―2―イミダゾリン及び脂肪族アミド縮合物からなる群から選ばれたものであり、;分散剤がメタクリル酸オクタデセニル五〇部、メタクリル酸ジエチルアミノエチル一〇部、スチレン四〇部の重量部の三重合体、メタクリル酸塩重合体、メタクリル酸アルキル無水マレイン酸重合体、マレインイミド重合体、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸ポリエチレングリコール及び無水マレイン酸の反応生成物の重合体、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸ポリエチレングリコール及び無水マレイン酸イミドの反応生成物からなる重合体、テトラエチレンペンタミン、ポリグリコールで置換したポリエステル類、及びポリグリコールで置換したポリアミド類からなる群から選ばれたものであるものよりなる酸化亜鉛の皮膜結合剤をもつたベースシート(基板)用の電子写真(Electro statography)用の現像液。

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