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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)233号 判決

【事実】

第二 請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、特許第六九五四〇五号(発明の名称を「精穀機の自動停止装置」とし、昭和四〇年一一月二五日に特許出願、昭和四六年四月三日に出願公告、昭和四八年六月二七日に設定の登録がされたもの。以下、この発明を「本件発明」、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。原告は、昭和五一年八月三一日、被告を被請求人として本件特許を無効にすることについて審判を請求し、特許庁昭和五一年審判第九六二九号事件として審理されたが、昭和五五年六月二一日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その謄本は同年七月一〇日原告に送達された。

二  本件発明の要旨

精穀機の排穀口に設けられた圧迫板の開閉作用を伝達する連結杆を設け、該連結杆でもつて開閉作動する回路スイッチを設け、該回路スイッチより電磁開閉器の電磁石に電気回路を連結せしめて、精穀機の電動機を自動的に停止せしめる様に成した精穀機において、前記回路スイッチを操作することなく、精穀機の電動機を起動せしめる起動スイッチを別個に設けたことを特徴とする精穀機の自動停止装置。

三  本件審決の理由の要点

本件発明の要旨は、前項記載のとおりである。

請求人(原告)は、本件特許を無効にする理由として、①本件発明は、その特許出願前日本国内において公然知られた発明又は公然実施をされた発明であるから、特許法第二九条第一項第一号又は第二号に該当し特許を受けることができないものである、②本件発明は、その特許出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明及び日本国内において公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないものである、と主張し、①に関する事実の証拠として甲第一号証を提出し、②に関する事実の証拠として甲第二号証ないし第五〇号証を提出した。

(①の主張について)

甲第一号証の(イ)(有限会社相模屋長谷川商店代表取締役長谷川敬造の作成した証明書)に添付した実体配線図、取扱説明書、実体配線図を簡略化した同一電気回路図に記載された装置は、本件発明の構成に欠くことができない事項である、「精米機の排穀口に設けられた圧迫板の開閉作用を伝達する連結杆により開閉作動する回路スイッチを設け、この回路スイッチより電磁開閉器の電磁石に電気回路を連結させて、精穀機の電動機を自動的に停止させるようにした精穀機において、回路スイッチを操作することなく精穀機の電動機を起動させる起動スイッチを別個に設けた」点を全く具備していない。

したがつて、本件発明が、その特許出願前日本国内において公然知られた発明又は公然実施をされた発明であるとすることはできない。

(②の主張について)

甲第二号証ないし第七号証、第九号証ないし第二八号証、第三三号証ないし第五〇号証には、本件発明の構成に欠くことができない事項である、「精穀機の排穀口に設けられた圧迫板の開閉作用を伝達する連結杆により開閉作動する回路スイッチを設け、この回路スイッチより電磁開閉器の電磁石に電気回路を連結させて、精穀機の電動機を自動的に停止させるようにした精穀機において、回路スイッチを操作することなく精穀機の電動機を起動させる起動スイッチを別個に設けた」点について全く記載されていないばかりでなく、これを示唆する記載も見当らない。

甲第二九号証ないし第三二号証に記載されている精米機は、いずれも本件発明の構成に欠くことができない事項である前記の点を全く具備していない。

甲第八号証(昭和四〇年六月一〇日付実用新案登録願)は本件発明の特許出願前の出願にかかるものであるが、この考案(穀粒出口閉塞報知装置)の要旨とする構成を具備した精穀機が本件発明の特許出願前日本国内において公然知られ又は公然実施されたことの立証はない。

したがつて、甲第二号証ないし第七号証、第九号証ないし第五〇号証をもつてしては、本件発明が、その特許出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明及び日本国内において公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(結論)

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及びその提出にかかる証拠をもつてしては、本件特許を無効にすることはできない。

四  本件審決の取消事由

本件審決には、次のとおり、これを違法として取消すべき事由がある。

1  本件発明の特許出願前に原告が日本国内において製造販売していた精米機「モーリーモーターマスター」(甲第一号証の一参照)と本件発明を比較すると、本件発明においては排穀口に圧迫板を設置しているのに対し、「モーリーモーターマスター」では山型弁の設置位置が給穀路である点とタイマーを設けている点で相違しているにすぎない。

しかしながら、甲第二号証に示された排穀口に設けられた蓋は本件発明の圧迫板に相当するものであつて、本件発明は、公知の精米機「モーリーモーターマスター」の技術と公知の甲第二号証記載の技術とから、当業者が容易に発明をすることができたものであるところこれと異なる審決の判断は誤つている。

なお、原告は、特許庁における本件特許無効審判請求事件で、本件発明は甲第一号証と甲第二号証ないし第五〇号証とを綜合したものに基づいて容易に推考することができたものである旨の主張をしたものであり、甲第一号証を右の容易推考を証する証拠としても提出したものである。

2  本件発明は甲第二号証、甲第九号証及び甲第五〇号証に記載された発明に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものと認定すべきである。

3  甲第三二号証及び検甲第一号証の一ないし四によれば、シングルモーリー10型精米機は、本件発明の構成要件的特徴たる連結杆、圧迫板、回路スイッチ及び起動スイッチの諸特徴を具備しており、ただ、本件発明が「回路スイッチは電磁開閉器の電磁石を介して電動機に連結されている」のに対し、シングルモーリー10型精米機は「回路スイッチは警報ブザーの電磁石に連結されている」点のみが相違するにすぎない。

ところで、甲第五号証、第九号証及び第二五号証には、本件発明の右と同一の電気回路が開示されている。

そうすると、本件発明は右の証拠に開示されている発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものというべきである。

4  本件発明は、昭和四六年四月三日に出願公告されたものであるが、本件発明の明細書の特許請求の範囲の記載は、出題公告後の補正によつて請求の原因二のとおりに補正されたものであるところ、右補正は出願公告明細書における発明の課題を変更するものであつて実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、特許法第六四条に違反し、本件発明は、同法第四二条に基づき、右補正がされなかつた特許出願、すなわち出願公告明細書記載の発明について特許されたものとみなされることになる。

ところで、昭和四〇年六月一〇日付実用新案登録願(甲第八号証)に係る考案は、右出願公告明細書記載の本件発明と実質的に同一とみるべきものである。

そうすると、右甲第八号証に係る考案は本件発明に対して先願の関係にあり、本件発明は特許法第三九条の規定に違反して特許されたものであり、同法第一二三条第一項第一号により無効とされるべきものであるから、本件特許を無効にしなかつた本件審決は誤つている。

第三 被告の陳述

一  請求の原因一ないし三の事実は、いずれも認める。

二  同四の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。

1  (原告主張の審決取消事由1について)

原告が主張するモーリーモーターマスターには、本件発明の本質的思想である再起動に関する進歩的技術が存しない。しかも、本件発明の特許出願前において、モーリーモーターマスターの技術が公知であつた事実はなく、モーリーモーターマスターが原告により製造又は販売された事実もない。

甲第二号証は、排出口の蓋全閉阻止警報装置に関するものであり、そこにはそもそも電動機を停止せしめる技術思想すら現れていない。

したがつて、モーリーモーターマスターに甲第二号証の技術を組合わせることは困難であり、たとえ組合わせたとしてもこれから本件発明の技術思想に到達することは不可能である。

なお、原告が、特許庁における本件特許無効審判請求事件で、本件発明は甲第一号証と甲第二号証ないし第五〇号証とを綜合したものに基づいて容易に推考することができたものである旨の主張をし、甲第一号証を右の容易推考を証する証拠としても提出したことは、認める。

2  (審決取消事由2について)

甲第二号証のものは警報装置にすぎず、そこには自動停止及び起動スイッチは記載されていない。

甲第九号証は、粉箱に推積した粉の量によりスイッチの作動を行つているものであり、スイッチを圧迫板に連動させていないから、本件発明のように減圧時に停止させることができないものである。

甲第五〇号証は、通常の起動スイッチを説明したものであり、精穀機の自動停止装置に用いる点については全く記載がない。

そうすると、甲第二号証、第九号証及び第五〇号証を組合わせたとしても、本件発明に到達できるものではない。

3  (審決取消事由3について)

シングルモーリー10型精米機は、自動停止機能を有さず単に警報機能を有するのみであり、起動スイッチも起動以外に格別の作用効果を有しない。したがつて、シングルモーリー10型は、自動停止後の再起動を大きな特徴とする本件発明とは技術思想が全く異なる。しかも、本件発明の特許出願前において、シングルモーリー10型の技術が公知であつた事実はなく、右精米機が原告により製造又は販売された事実もない。

甲第五号証に示されているのは、糠の発生量によつて自動停止させるものである。したがつて、本件発明とは異なるものである。

甲第九号証に示されているものは、前記のとおり、粉箱に推積した粉の量によつて自動停止させるものであり、本件発明とは異なるものである。

甲第二五号証に示されているのは、電磁振動精米装置であり、本件発明の精穀機とは種類の異なる精米装置である。また、この装置ではスイッチは給穀口に取付けられているから、給穀口の穀物の無くなつた時点で自動停止させることはできるが、搗精室内での故障などの際は、給穀口に穀物が存在したままであるから、自動停止できない。

そうすると、シングルモーリー10型精米機に甲第五号証、第九号証及び第二五号証の技術を適用したとしても、本件発明に到達できるものではない。

4  (審決取消事由4について)

審決取消訴訟における判断の対象は、審決における判断が違法であるか否かであり、審決において判断されなかつた新たな無効事由を審決取消訴訟に持ち出し、判断を求めることは許されないところである。

原告主張の審決取消事由4は、本件無効審判においては原告が主張しなかつたところであり、審決もこの点については判断をしていない。

したがつて、本訴において、原告が審決取消事由4を主張することは許されない。

【理由】

請求の原因一ないし三の事実及び原告は、特許庁における本件特許無効審判請求事件で、本件発明は甲第一号証と甲第二号証ないし第五〇号証とを綜合したものに基づいて容易に推考することができたものであるから無効とされるべきである旨を主張し、甲第一号証を右の容易推考性を証する証拠としても提出したものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、<証拠>によれば、審決は、原告が本件特許無効審判請求事件において提出した甲第一号証(本件甲第一号証の一なしし七)は、原告がこれを本件発明はその出願前日本国内において公然知られた発明又は公然実施をされた発明であるとの主張を証する証拠としてのみ提出したものであると速断し、甲第一号証をもつてしては本件発明がその特許出願前日本国内において公然知られた発明又は実施をされた発明であるとすることはできないとのみ判断し、甲第一号証を原告の本件発明容易推考性の主張の判断には全然これを用いていないことを認めることができる。

そうすると、審決は無効審判請求人たる原告の主張に対する判断を遺脱したものであつて、その点で違法であるというべきである。

右のとおりであり、原告主張の本件審決取消事由について判断するまでもなく、本件審決は違法として取消しを免れず、その取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容す<る。>

(高林克巳 杉山伸顕 八田秀夫)

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