東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)265号 判決
一 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決に原告主張の違法が存するか否かについて検討する。
1 本願発明と第一引用例の発明との構成上の相違について
本願発明にかかる人工芝生の基布に係着した扁平状のカツトパイルがその長さに対し四分の一回以上の熱固定された捩れを有するものであることは、本願発明の要旨に含まれるところであるが、成立に争いのない甲第二、第三号証によると、本願発明の目的は耐疲労性に優れ、方向性がなく、外観、感触ともに天然芝生に近い人工芝生を得ることにあり、この目的は、右の要旨とする構成を採用することによつて達成されるものであつて、捩れの度合が四分の一回に満たない場合は効果が少なく、また、捩れの度合が余りに大きすぎる場合は芝生の外観がそこなわれるため、四分の一ないし一回程度が好ましいとされているものであることを認めることができる。
一方、第一引用例に審決認定のような人工芝生の記載があることは原告の認めて争わないところであり、成立に争いのない甲第五号証によると、第一引用例の発明の目的については、「草を真似した人工芝生の改良に関するものである。さらに詳述すると、この発明は、種々のレクリエーシヨンやスポーツ活動のための屋内、屋外の双方に使用しうる草に似た芝生に関するものである。」(第一欄第一一ないし第一四行)と記載されていることが認められ、また、本件口頭弁論の全趣旨に徴すれば、第一引用例の発明における三又は六プライのパイルは撚りを与えられていたものであることを否定するわけにはいかないけれども、この撚りを与える目的については、これを的確に認めるに足る証拠はなく、右甲第五号証によると、カツトパイルとされたのちも撚りが残存するか否か必ずしも明らかではなく、その実施例を示す第二図又は第五図に若干捩れたカツトパイルが数本記載されているほか、その第一図にはカツトパイルがいずれも扁平状のまま各面の方向を同じくしているように描かれているにすぎないことが認められる。してみると、第一引用例の発明は、本願発明と同じく人工芝生に関するものではあつても、本願発明のように、パイルに耐疲労性を与え、方向性がなく、外観、感触とも天然のものに近い芝生を得る目的で、カツトパイル長に対し四分の一回以上の捩れを与えてこれを固定しようとする技術思想の開示がみられないことはいうまでもなく、これを示唆するに足る技術事項の記載もないものといわざるをえない。
したがつて、審決が本願発明と第一引用例の発明とを対比してその相違点を検討した結果、「第一引用例のパイルも、少なくとも本願発明程度の撚り(捩れ)を有し、同様にパイルに方向性がなく、優れた耐疲労性を有する効果を奏するものと認められる。」と認定し、その相違点は「撚り(捩れ)が熱固定されているかどうかの違いに帰する。」としたことは誤りであるといわざるをえない。
2 第二引用例ないし第四引用例について
第二引用例ないし第四引用例にいずれも審決認定のような技術事項の記載があることは原告の認めて争わないところであり、成立に争いのない甲第六ないし第八号証によると、本願出願当時、通常カーペツト製造業界において、基布にタフテイングされるカーペツト原糸(パイル・フリーズ)の具備すべき条件として、反撥弾性が良いことや圧縮回復力が強いことが求められ、また、タフテイングの効率向上のため、これに先立つて原糸を硬く合撚したうえスチームによつて熱固定する方法が行われていたことが認められる。
しかしながら、右甲第六ないし第八号証によると、第二引用例ないし第四引用例は、いずれも通常カーペツトに関することのみが記載されており、原糸を合撚し、これに熱固定を施す目的についても、タフテイングの効率を高めることのほか格別のことを認めうる記載はないばかりでなく、人工芝生の製造において本願発明の如き目的をもつてそのパイルに捩れを付与したりこれに熱固定を施すことを示唆すべき記載は何ら存しないことが認められる。
3 以上のとおり、審決は本願発明と第一引用例の発明との相違点に関する認定を誤つたばかりでなく、本件各引用例を検討しても、本願発明の人工芝生におけるカツトパイルがその長さに対し四分の一回以上の熱固定された捩れを有する構成について、これを示唆すべきものはないといわざるをえないのであるから、本願発明をもつて第一引用例ないし第四引用例記載のものから容易に推考しうるとした審決は、その余を論ずるまでもなく、認定判断を誤つた違法があるといわざるをえない。
三 よつて、審決を違法としてその取消を求める原告の請求は理由があるからこれを認容することとする。
〔編註〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四六年一二月六日、名称を「人工芝生」とする発明の特許出願(昭和四六年特許願第九八五〇三号)をしたところ(以下この発明を「本願発明」という。)昭和五一年九月二九日拒絶査定を受けたので、同年一〇月二〇日審判を請求し、これが特許庁同年審判第一一三三九号事件として審理され、昭和五四年九月一一日、右出願につき出願公告(特公昭五四―二七六五〇号)がされたが、東レ株式会社他四社から特許異議の申立があり、昭和五五年七月一八日「本件特許異議の申立は理由があるものとする。」との決定と同時に、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)がなされ、その謄本は同月三〇日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
合成樹脂の線条を基布にカツトパイル状に係着せしめ、しかも該線条は、幅〇・二~三ミリメートル、厚さ〇・〇二~〇・一ミリメートルの扁平状であると共に、カツトパイル長に対し四分の一回以上の熱固定された捩れを有するものであることを特徴とする人工芝生。