東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)300号 判決
一 原告主張の請求の原因一ないし三及び同四の1の各事実(本件特許及び特許庁における手続の経緯、本件特許の明細書における特許請求の範囲の記載、審決の理由の要点並びに訂正審決に至る経緯)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
前記争いのない事実によれば、本件特許の明細書の特許請求の範囲の記載は、訂正審決の確定により請求の原因二の2記載のとおりに訂正されたもので、特許法一二八条により特許出願当初から右訂正された記載のとおりであつたものとみなされるものであるにもかかわらず、審決は、本件発明の要旨を、右訂正前の特許請求の範囲の記載である請求の原因二の1のとおりに認定したものであるところ、右二の2と同1とを対比すれば右訂正が特許請求の範囲の減縮にかかるものであることは明らかであり、審決は本件発明の要旨の認定を誤つたもので、その誤りは、審決の基礎にかかわり、特段の事情の認められないかぎり、審決の結論に影響を及ぼすべきものといわなければならないところ、本件においては右特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、審決は違法としてこれを取り消すべきものである。
被告は、審決が実質的には本件発明が送電線にかかるものであると認識して判断していることを前提として審決には取り消すべき違法がない旨主張し、前記審決の理由の要点によれば、審決は、本件発明の線条体を具体的には送電線であるとし(三丁表六行)、「延線装置における溝は、送電線がこの部分を通過する……」(同一四、一五行)及び「延線装置は送電線の架設の際に送電線に適当な張力を与えるためにその繰出し側に設けられ、該装置の溝に送電線を数回巻きつけることにより……」(同裏一〇ないし一二行)と述べており、これらの点のみによれば、被告主張のように、本件発明が送電線にかかるものであることを認識した上で各引用例からの容易推考性を判断しているともみられないではない。しかし、審決は、もともと送電線ではないロープに関する引用例四及び引用例五を送電線との相違についてなんら言及することなく引用したばかりでなく、成立に争いのない甲第二号証(本件特許の特許出願公告公報)4欄五ないし一二行によれば、本件特許の明細書には、右引用例四及び引用例五に示されているV字状溝の技術と引用例二及び引用例三に示されている溝を耐摩耗性の弾性物質とする技術とを送電線の延線装置に組み合わせ適用したことによる作用効果が記載されていると認めることができるにもかかわらず、これを「明細書の記載からは認められない。」として全く無視しているのであるから、審決が、本件発明は送電線の延線装置であるということを前提にして判断しているとは到底考えられない。
したがつて、被告の右主張は、審決を違法とする前記判断を左右するに足りるものとはいえない。
三 よつて、審決の取消を求める原告らの本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件における特許請求の範囲の記載は左のとおりである。
1 前記訂正審決による訂正認可前の記載
架台とこの架台に回転自在に取り付けられた延線輪と該延線輪に適当回数巻付けられた無端チエーンとよりなる延線装置においてチエーン本体には、線条体が嵌合する側にV字状の溝を形成せしめた耐摩耗性の弾性物質を設けてなることを特徴とする延線装置
2 右訂正認可後の記載
架台とこの架台に回転自在に取り付けられた延線輪と該延線輪に適当回数巻付けられた無端チエーンとよりなる延線装置においてチエーン本体には、送電線が嵌合する側にV字状の溝を形成せしめた耐摩耗性の弾性物質を設けてなることを特徴とする送電線用延線装置