東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)305号 判決
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(一) まず、原告は、引用例第7図記載の突起27は、いぼ(こぶ)状のものであつて、審決がこれを山脈状のものと認定したのは誤りである旨主張する。
(1) 成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例記載の発明は、破断ブロツク及びその製造方法に関する発明であつて、実施例として第7図が示され、その説明として、「この明細書に記載したブロツクを作る方法は、若干の変更をすることができる。例えば、私は第7図におけるように異なつた材料からなるただ二つの層を用いて通常のコンクリート層10と外側層11とを示した。後者は、熟成後削り取られる(chipped off)突起(protuberances)27を有しており、破断面26は、他の形態のものと同様に種石12のところを通して裂く。この外側層11は、この図に示すように、側面と同様に端部にも成形してよい。」(第三頁第八〇行ないし第九〇行)と記載されていることが認められる。
成立に争いのない甲第五号証によれば、「protuberance」なる英語は、(丸い)隆起、突出、突起、こぶ、結節等の意味をもつ語であることが認められるところそれがいかなる形状であるかは、引用例記載の発明の技術内容との関連において理解すべきことであつて、その語自体から直ちに突起27がいぼ状であるのか、山脈状であるのかを認定することはできないといわなければならない。
(2) 前掲甲第四号証によれば、引用例第7図は、平面図であつて、ブロツクの上面と突起27の上面とが見えていることが認められるが、突起27が原告主張のようないぼ状であつて第7図にみられるような形状の回転体からできていると仮定すると、第7図における種石12はブロツクの上面と突起27の上面とに跨つて存在しており、そのような種石12が存在するためには、これらの両方の上面が少なくとも突起27の根元部分では同一平面になつていることが必要である。けだし、これらの上面の間に段差があるときは、段差の形状に丁度合致する形状の種石があれば格別、通常そのようなことは望めないし、型込めによる製造法から両上面に跨がる種石12は存在しないことになるからである。
そして、ブロツクと突起27とが少なくとも根元部分で同一平面になる場合としては、回転体の頂点を通り軸線に平行な面で切断した切断面を、ブロツクの上面に対し同一平面になるように配設し、したがつて突起27の断面が半円形となる場合と、ブロツクの上面と回転体形状である突起27の上面とが少なくとも根元部分で同一平面になるように面を揃えて突起27を配設する場合とがある。ところで、審決は、前者、すなわち半円形の突起27はブロツクの使用態様上から無意味であり、その必要性もないとしているが、そのような断面形状のブロツクを接合して円形を形成して建造物を構築することもその使用態様からみて意味がないとはいえないから、このことから直ちに審決のように突起27をいぼ状のものと解するのは相応でないと認定することはできない。
(3) 引用例には、実施例として第7図が示され、この第7図が平面図であることは前述のとおりであるが、第7図に示された実施例に関しては、この平面図のみであり、側面図等は存在せず、また側面部に関連した突起27の形状についての説明も存しない。そして、当業技術者であれば、通常物の形状が図面によつて明らかにされている場合に、側面図が省略されているならば、その物の形状は側面部に特徴がないためこれを省略したものと容易に理解できるところであり、一方、前掲甲第四号証によれば、引用例には、第7図以外の図面はすべて斜視図をもつてその全貌を示そうとしているのに対し、第7図に限つてそのような手法を取つていないのであるから、突起27は平面部分のみに特徴があつて側面部分には特徴がないものと認めるのが相当である。ところで、突起27がいぼ状であれば、側面部分にも特徴がでるものであるから、その場合には側面図を記載するか、その側面についての何らかの説明が必要であるのに対し、平面図に示された突起27が垂直方向に連続して山脈状に構成されているのであれば側面には何らの特徴もないから、これを側面図及び説明により示す必要はないことが明らかである。
したがつて、側面等の図示が省略されていることを理由に突起27は垂直方向にそのままの形状でつながつているものと解せるとした審決の認定には誤りはない。
(4) 審決は、建築資材であるブロツクは通常量産されており、その製法としてボツクス型の型枠が用いられ、突起27がいぼ状のものであるとすれば、ブロツクの脱型ごとに型枠を分解しなければならず、再び成形するときには型枠を組立てる工程が加わるので、量産に適しないと認定している。突起27がいぼ状のものであるとすれば、ブロツクの成形ごとに型枠を分解し組立てる工程を必要とすることは、審決の指摘するとおりであるが、前掲甲第四号証によれば、引用例には、コンクリートの部分10aを四つと該花崗岩層11aの十字形内側部分を一つと、更に必要があれば、溝15及び15aを作るべく斜角部分14及び14aを用いて成形することによつてコーナー・ブロツクを製造する方法が記載され、その成形工程として第8図に型枠を分解するものが示されていることが認められるから、突起27がいぼ状のものとした場合にこのような分解構造の型枠を用いることはできないではなく、したがつて審決指摘の右事実からは直ちに突起27がいぼ状のものでないと断定することはできない。
(5) 前掲甲第四号証及び成立に争いのない甲第六号証の一ないし六によれば、引用例は、米国ミシガン州アルペナのハーマン・ベツサーを発明者とする一九二五年の特許明細書であること、米国ミシガン州アルペナ所在のベツサー社は一九〇四年に設立されたコンクリート・ブロツク製品の製造会社であつて、垂直方向に連続した山脈状の突起を破断したブロツクを従前から製造販売していたことが認められる。
この事実からは、審決認定のように引用例第7図記載のブロツクは、ベツサー社の製造する山脈状の突起を有するブロツクの原型であるとまでは推認し難いが、少なくとも、破断ブロツクに山脈状の突起を有するものがあり、これが従前から製造販売され、したがつて、このような形状のものが破断ブロツクとして有効であることが認められ、前記(3)に認定したことから、引用例第7図記載の突起27が山脈状のものであると認定することを裏付けることができるというべきである。
したがつて、引用例第7図記載の突起27の形状は、引用例に側面図の記載及び説明が省略されていることと、その後に存在している破断ブロツクの形状からみて、山脈状と認定するのが相当であり、この点に関する審決の認定は結論において誤りがない。
(二) 原告は、引用例第7図記載の突起27が山脈状のものであるとしても、審決が引用例記載の発明は突起27を破断面26を貫通して破断することによりブロツクを製造すると認定したのは誤りであると主張する。
前掲甲第四号証によれば、「合成ブロツクを破断する好ましい方法は、通常ののみより幾分幅広の刃状用具16を当該ブロツクの側面に対して直角にかつ当該ブロツクの花崗岩層に向けて、その刃縁を、前記溝が設けられている場合は、当該溝に挿入しかつ当該刃状用具の取手17に強い一撃を加えることであつて、そうすると当該ブロツクは簡単に破断されて全く平らで、かつ滑かな面をもつに至るであろう」(第三頁第六行ないし第一四行)と記載され、第7図については、「破断面26は、他の形態のものと同様に種石12のところを通して裂く」(同頁第八六行ないし第八八行)と記載されているから、第7図記載のブロツクの分断には、第3図に示された刃状用具16が用いられるものと認められる。
ところで、引用例第7図記載のブロツクは、削り取られる(「chipped off)突起27を設けたものであるが、突起27を分断によつて完全に除去してしまうのであれば、突起27を設けた意味が全くないことになるのであつて、破断面26は、突起27の根元部分を残す面に形成され、したがつて刃状用具16を用いる分断は、突起の根元部分が残るように行うものと認めるのが相当である。
そして、分断作業においては、分断作業を受けるブロツクが分断作業中動かないように安定して固定されていること、及び分断の終わつた突起27の残留部分が次の分断作業の妨害になり又は危険を与えないように作業の安全を計れること等を考慮する必要があり、これらの条件を満たすことができるのは上下方向の分断のみであり、また、ブロツクはその材質からみて割れ易いものであるから、この上下方向の分断は、本件発明におけると同じく、破断面を貫通して破断するものというべきである。
したがつて、審決が引用例第7図においては、突起27を破断面26を貫通して破断することによりブロツクを製造すると認定したことに誤りはない。
(三) 成立に争いのない甲第三号証及び甲第八号証によれば、本件発明の明細書には、「本発明によれば、二つの破断面がなすかど(角)、すなわち稜は予めブロツクに設けてある第2、3図では孔1´……5´、第4、5図では欠部の6´……9´からなる空部で形成されるため直線状をなし、このため積み重ねた場合に角は一直線に揃うのである。したがつて二つの破断面によつて稜を形成したもののように稜が直線にならず、このため積み重ね状態で不体裁になることがない」(本件発明の特許公報第二欄第三四行ないし第三欄第四行)との記載があり、訂正図面第4図、第5図は、このことを明確にしたものと認められるから、本件発明は、訂正審判に係る審決によつてその要旨を実質上変更するものでないことは明らかである。
そして、前掲甲第三号証及び甲第八号証によれば、本件発明においては、稜は二つの破断面で形成されるものではなく、予めブロツクに形成されているものであつて、被告主張のように稜線を残して欠部の角ぎりぎりに破断を行うことは想定できても、破断による分断である以上、右想定されたものでは稜が二つの破断面によつて造られ勝ちであり、本件発明の特徴を期待しえないものとなるので、前もつて形成されていた稜線が残存するようにするためには、稜線の痕跡を明らかに残すようそれから少し離して破断するのが当然である。一方、引用例においては、破断面26は、突起27の根元部分を残す面に形成され、したがつて破断は突起27の根元部分が残るように破断面を貫通して行われることは、前述のとおりであり、また、前掲甲第四号証によれば、突起27は第7図に示されるように側面だけでなく端面にも形成されることが認められるから、側面と端面との隅角部に近接してそれぞれに存在する突起27について考えると、これらの突起27は二つの破断面を構成し、その角に稜を有し、この稜は予めブロツクに設けられたものであるから、本件発明における稜と変わるところがないというべきである。換言すれば、本件発明は、稜線を予めブロツクに形成し、その稜線を残すように貫通破断した結果、稜線が元のまま残るのに対し、引用例第7図記載のものは、側面と端面とに突起27の痕跡を残すように貫通破断した結果、二つの破断面になるものの角に予めブロツクに形成された稜が稜線として残ることになるのであつて、両者の課題に一応の相違があるが、前掲甲第四号証によれば、引用例の、例えば第1図の斜面部分又はブロツク縁20をみれば、破断に際して、一つの破断面しかないが、その破断面の周縁に、ブロツクに予め形成している稜が残るように工夫してあり、このブロツク縁20は本件発明でいうところの欠部の一種であると認められることからすれば、引用例第7図記載のものも欠部を設けることを積極的に考えているとすることができ、本件発明と引用例記載の発明とは、いずれも欠部からなる空部を備えている点で一致しているとするのが相当である。
したがつて、審決が引用例第7図記載のブロツクは空部を含ませて二つの面で破断されると認定したことに誤りはない。
(四) 以上の理由により、本件発明と引用例記載の発明とは、共に破断ブロツクの製造法に関し、引用例記載の発明は本件発明の構成要件をすべて具備するものと認められるから、両者は実質上同一であるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法はない。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
少なくとも二つの破断面によつて一つの稜を形成する破断ブロツクの製造法において、形成すべき稜に沿いブロツクには予め空部を設けて置き、前記空部を含ませて二つの面でブロツクを破断することを特徴とする積み重ね用破断ブロツクの製造法。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
(一)
<省略>
<省略>
(二)
<省略>