東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)356号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び本件審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
前記当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三(第一図ないし第三図)、甲第二一号証(昭和三一年五月一一日付全文訂正明細書)、甲第二四号証の二(昭和四三年三月一三日付訂正書)及び甲第二五号証の二(昭和四三年三月一四日付再訂正書)を総合すると、本願明細書には、本件審決が指摘するとおり一般に使用されていないところの出願人独自の理解もしくは用法に基づく難解な用語もしくは表現形式が用いられており、かつ、それぞれの用語もしくは表現も統一的に使用されていないうえに、文章自体に難解で不明瞭な点が多いので、本願明細書の記載内容を正確に理解することは極めて困難であるといわざるを得ないが、この点はさておき、本願発明は、少なくとも、同一形状のらせん体を、そのらせん翼が互いに入りこむごとくに並列し、両らせん体を同一方向に同一回転数をもつて回転させるようにして、導水口11から流入された流下水をらせん翼で回転させ、遠心力を伴つた流下水を相手らせん体のらせん翼斜面の正面部に作用させて押下げの圧力等を利用してできるだけ大きな出力を回収できるような「ねじ水タービン」を実現しようとするものであると認められる。しかしながら、本願発明の特許請求の範囲に規定された構成によつては、本願発明が目的として意図したような遠心力を伴つた流下水の効率的な利用は到底期待できないものと認めざるを得ない。すなわち、前掲各証拠によると、導水口11から外筒内に導入した流下水をらせん翼によつて回転させると、遠心力が作用してらせん翼の上下面から流下水が両らせん体のらせん翼が互いに入り込む部分に放出されるとしても、両らせん翼間には流水が充満しており、かつらせん翼が互いに入り込む部分においては、外筒内に放出された後の流下水の旋回は互いに逆方向となるために、その逆方向の旋回流、遠心力で流出する流水及びらせん翼間の流水などが衝突して相互に激しく混ざり合い、流下水の有する速度エネルギは直ちに圧力エネルギに変換され、流下水の有する粘性によつて互いに逆向きの摩擦力が作用して、激しい渦となつてエネルギ損失を生じるものと考えられる。そうすると、衝突によつて圧力の上昇した流下水は低圧部分に漏洩してしまうこととなり、相手らせん翼の正面部に押下げの圧力を作用させることなく比較的低圧な相手らせん翼の背面に回り込むようになり、導水口ll側(高圧側)から放出口12側(低圧側)へと大きく漏洩してしまうことが容易に予測される。したがつて、本願明細書の特許請求の範囲に規定されたごとき本願発明には、構成上、エネルギの損失とともに流下水自体の大きな内部漏洩という基本的な欠陥が存することは明らかである(原告主張のようにエネルギー損失や内部漏洩が許容範囲に止どまるものとは考えられない。)。このような基本的な欠陥が存するが故に、本願発明においては、らせん翼の上下面から放出される遠心力を伴つた流下水の運動量を相手らせん翼に作用させ、これによる押下げの圧力等を水タービンとして有効に働かせることは到底できないものと認めざるを得ない。結局、本願発明は、流水の効率的利用が実現できないばかりか、水タービンとしての基本的な機能をも奏し得ないものであるといわざるを得ない。原告は、本願発明がねじ水タービンとして有効に機能するものであるとしてるる主張するが、原告の主張を勘案しても、右の基本的な欠陥についての認定判断を否定することはできない。そして、本願発明が、特許請求の範囲に記載された構成によつて、これらの欠陥を解消ないし解決し、有効な作用効果を奏するねじ水タービンとして実施できるものを実現したことを認め得る証拠は全く見いだせない。
したがつて、本願発明は旧特許法第一条の規定する発明と認めることができないとした本件審決の判断は正当であつて、何ら違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。
よつて、これを棄却することとする。
〔編注〕本願発明に係る特許請求の範囲の記載は左のとおりである。
本文記載の目的において本文に詳記しかつ図面に一例を示すごとく、同一方向に回転するらせん体をらせん翼が互いに入りこむごとくに並列し、外筒内に収容するらせん体のらせん翼外周と相手らせん体の胴車外周との間の間隙を小さくするように並列し、らせん翼の半径を次第に大きくするように胴車の半径を次第に小さくするようにし且該らせん翼中央部におけるピツチを次第に小さくするようにしその外形に沿う形状の室内を形成する外筒内にこれらを収容し両らせん体を同一方向に同一回転数をもつて回転するようにそれぞれ形成した先細軸胴漸減ピツチらせん体を並列に用いた二次遠心合力調和容積減速軸流型ねじ水タービン。