東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)357号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件審決理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
成立に争いのない甲第二二号証の四(第四図)、甲第三〇号証(昭和四一年一一月一五日付全文訂正明細書)、甲第三一号証(第一図)、甲第三二号証(昭和四二年一月二〇日付訂正書)、甲第三二号証の二、三(第二図及び第三図)並びに甲第三五号証の二(昭和四三年三月二〇日付訂正書)を総合すると、本願明細書には、本件審決が指摘するとおり一般に使用されていないところの出願人独自の理解に基づく難解な用語もしくは表現形式が用いられており、かつ、それぞれの用語もしくは表現も統一的に使用されていないうえに、文章自体に難解で不明瞭な点が多いので、本願明細書の記載内容を正確に理解することは極めて困難であるといわざるを得ないが、この点はさておき、本願発明の基本的な目的ないし効果は、並列するらせん体のらせん翼の回転による遠心力を利用してノズルの出口より外筒内に移行する作動媒体を相手らせん体のらせん翼の迎え角斜面の正面部に作用させることによつてねじ原動機における逆転装置においてできるだけ大きな動力を回収しようとするところにあるものと認められ、そのために本願発明の特許請求の範囲に記載したとおりの構成を採用したものであることが認められる。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲に規定された構成によつては、本願発明が目的として意図したような遠心力を利用した作動媒体の効率的な利用は到底期待できないものと認めざるをえない。すなわち、前掲各証拠によると、まず、ノズル6、6´から外筒内に噴出する作動媒体にはらせん翼の回転によつて遠心力が作用し、らせん翼の斜面に沿う旋回成分を有することから、らせん翼の上下面から作動媒体が両らせん体のらせん翼が互いに入り込む部分に放出されるとしても、外筒内に放出された後の作動媒体の旋回は互いに逆方向となるために、その逆方向の旋回流、遠心力で流出する作動媒体及びノズルからの噴出流などが衝突して相互に激しく混ざり合い、作動媒体の有する速度エネルギは直ちに圧力エネルギに変換され、作動媒体の有する粘性によつて互いに逆向きの摩擦力が作用して、激しい渦となつてエネルギ損失を生じるものと考えられる。そうすると、衝突によつて圧力の上昇した作動流体は低圧部分に漏洩してしまうこととなり、比較的低圧な相手らせん翼の背面に回り込むようになつて、エネルギの損失とともに作動媒体自体の漏洩が生じることとなる。したがつて、本願発明においては、その構成に右のような基本的な欠陥が存するので、特許請求の範囲に記載されたように「相手らせん体のらせん翼の迎え角斜面の正面部に対し移行」することはできず、結局、作動媒体の効率的利用が実現できないばかりか、ねじ原動機における逆転装置としてもその機能を奏し得ないものであると認めざるをえない。この点、原告は、作動媒体の衝突によるエネルギ損失や作動媒体自体の漏洩の生じることを認めたうえで、エネルギ損失と作動媒体の漏洩は、いずれも許容範囲内にとどまる旨るる主張するが、「らせん翼相互のはめ合い箇所において両らせん翼斜面の回転方向の分力方向線群で互いに回転方向を消し合う」旨の主張に合理性のないことは、すでに説示したような作動媒体の運動の態様に照らして明らかなところであり、また作動自体の漏洩が、単に高速回転による、原告のいう「軸流容積滞在時間」の短縮によつて解消されるものとは考えられないから、原告の主張を勘案しても、右の基本的な欠陥についての認定判断を否定することはできない。そして、本願発明が、特許請求の範囲に記載された構成によつて、これらの欠陥を解消し、ねじ原動機における逆転装置として実施できるものを実現したことを認め得る証拠は全く見いだせない。
したがつて、本願発明は旧特許法第一条の規定する発明と認めることができないとした本件審決の判断は正当であつて、何ら違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。
よつて、これを棄却することとする。
〔編注〕本願発明に係る特許請求の範囲の記載は左のとおりである。
本文記載の目的において本文に詳記し且図面に一例を示すごとく、円筒形の中空胴車の前半中空部分と後半中空部分との中間に遮断隔壁を設けた中空胴車の外側に、らせんの回転による前後の進み方を相等しくし、且つ前後に進むらせん翼の高さを相等しくするらせん翼を設け、前半らせん翼内にはらせん軸の回転方向に対し後傾型に正回転用ノズルを多数設け、正回転用ノズルの軸側入口は中空胴車の前半中空部に連通し、後半部らせん翼内には正回転用ノズルとは逆の回転方向に傾けて逆転用ノズルを多数設け、逆転用ノズルの軸側入口は中空胴車の後半中空部に連通するように形成した同形のらせん体をらせん翼が互いに入り込む如くに且つらせん翼外周部分と相手らせん体の胴車外周部分との間の間隙を所定に狭くするように並列し、その外形に沿う形状の室内を形成する外筒内にこれらを収容し、両らせん軸を同一方向に回転できるようにし、中空胴車の前半中空部と後半中空部とに切替弁の切替運動によつて交互に作動媒体を送るようにし、その切替弁に作動媒体を送る蒸気ボイラー装置もしくはガス圧縮機装置等を関連させ、これによつて並列するらせん翼に設けたノズルにより反動部分を得て両らせん軸を正回転および逆回転を交互に行うようにし且つノズル出口より排出する作動媒体が並列する相手らせん体のらせん翼の迎え角斜面の正面部に対し移行するようにし、また外筒内で作動媒体が回転するらせん体のらせん翼の遠心力で該作動媒体自体の一部分が流出する流体の流出分の運動量を相手らせん体のらせん翼に与えた迎え角斜面の正面部に対し移行するようにそれぞれ形成した並列するらせん翼にノズルを設けたねじ原動機における逆転装置。