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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)36号 判決

原告の請求の原因及び主張の一、二に記載の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

成立について争いのない甲第二号証(手続補正書)の添附図面並びに甲第八号証(実用新案公報)によれば、本件意匠及び引用意匠の構成は、ともに審決の認定するとおりであることが認められる。

ところで審決(成立について争いのない甲第七号証)は、本件意匠と引用意匠は支持溝とスプリングの形状が類似しており、支持溝及びスプリングは、本件意匠に係る物品であるシートの止め具においては最も目立つところであるから、意匠の主要部であると認められ、両意匠は主要部が類似するから互いに類似する意匠であるとの趣旨の認定をする。

しかしながら、引用意匠においては、押え板が支持溝の底部へ挿入嵌着されていてほとんど目立たないから、その他の部品である支持溝とスプリングが意匠の主要部であるということはできるが、本件意匠では、押え溝はその側板部において支持溝に圧着状態で嵌着され、側板部は支持溝の屈折した頂部を越えてさらに外側に延びているため、物品を平面、正面からみても、押え溝と支持溝とが側板部において重ね合わさつていることがよく観察でき、従つて本件意匠においては支持溝及びスプリングのみでなく押え溝も存在することが明瞭に認識され得るものと認められるから、支持溝とスプリングが主要部であつて、押え溝の存在は主要部を構成しないとはいい得ない。

のみならず、仮に本件意匠においても引用意匠と同様支持溝とスプリングが主要部であると認められるとしても、意匠は部分的な構成が他の部分と有機的に結合して全体的に美感を生み出すものであるから、両意匠を比較するに当つて、主要部と目されるところに類似する点があるとしても、これを全体的に観察した場合、両意匠はなお非類似とすべき場合がある。本件意匠と引用意匠とは、支持溝とスプリングの形状が類似していることは審決認定のとおりであるが、引用意匠において押え板はほとんど目立たず、その存在はあまり認識されないのに対して、本件意匠においては押え溝の存在はよく認識され得ることは前認定のとおりであつて、この点から、本件意匠及び引用意匠を全体として観察するときは、両意匠から受ける美感はそれぞれ異なるものといわなければならない。

なお、原告は、本件意匠を左右側面から見た場合、支持溝と押え溝間には空間があり、看者に対してあたかも二つのシート支持溝を重ねたような印象を与えるのに対し、引用意匠は押え板が支持溝の底面に当接していて空間がなく、本件意匠とは外観において全く異なる印象を与える旨の主張をする。しかしながら、本件意匠に係る物品は、被告主張のとおり長手方向に連続する長尺材であり、各部品を嵌着した状態でも空間部分の有無は左右側面から観察すればこれを認識することができないことはないが、長尺材である関係で、通常はほとんど人の目につかないものと考えられるから、この点の差異は両意匠の類否を判断するに当つて、さほど重視すべきものではない。

被告は、本件意匠のように、押え溝の上端付近の見えるものは乙第一号証にみられるように、この種業界では公知の状態にあり、意匠上の形態において新規性にも乏しいと主張するが、右乙号証は審決において挙示されなかつたものであり、かつ、審決は本件意匠は意匠法第三条第二項に基づいて登録できないとしたものでないことは明らかであるから、乙第一号証を挙げて本件意匠は新規なものでないと主張することは許されない。

以上のとおりであつて、本件意匠は引用意匠と類似するから意匠法第三条第一項第三号により登録することができないとした審決は違法であるから、これを取消す。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 原告の請求の原因及び主張

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四九年一一月一九日特許庁に対し、意匠に係る物品を「シートの止め具」とする意匠(別紙第一図面参照。以下、この意匠を「本件意匠」という。)につき意匠登録出願(昭和四九年意匠登録願第四〇四九三号)したところ、昭和五四年三月三〇日拒絶査定を受けた。そこで、原告は、昭和五四年五月一日審判を請求し、昭和五四年審判第五一二九号事件として審理されたが、特許庁は、昭和五四年一二月一八日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は昭和五五年一月二三日原告に送達された。

二 審決理由の要旨

本件意匠は、シートの支持溝、シートの押え溝、スプリングの三個の部品からなり、その各部品は長手方向に一定形状の長い棒状体からなり、まず、シートの支持溝(以下、支持溝と略称)は、ハツト形鋼状のその鍔及び側板に当る部分を、左右対称として中央に向け傾斜屈折させた態様からなり、支持溝を長手方向の直交端面から詳細にみると、支持溝の底部を水平とし、その左右両端で前記のように側板部として弧状で屈折させ、側板部の高さは底部の<省略>であり、その側板部の頂部から鍔部に当る部分をさらに下外がわへ、高さの<省略>弱折り重ねる態様として弧状で屈折させており、屈折した板の重なりの内がわは、板厚程度の水滴状空洞となつている。次にシートの押え溝(以下、押え溝と略称)は、支持溝の中へ底部を浮かした懸子の態様で支持及び押えの各溝の側板部が互いに圧着状態で嵌着されているものであり、これを長手方向の直交端面から詳細にみると、押え溝の側板の部分を、支持溝の頂部から側板の中ほどまでとし、側板部の左右両下端を弧状として屈折させ、底部は水平状である。

さらに、押え溝の上には、一本の細丸棒を、長手方向に天地が交互に繰返される同一な扁平台形に屈折させて形

成(台形の波形)したスプリングを、押え溝の中へ一杯に嵌入しているものであることが認められる。

これに対し原査定で引用した意匠は、本出願前に国内に頒布された昭和四九年新用新案出願公告第四一〇六七号

公報記載の鉄骨ビニールハウスのビニール止め具(第一図~第三図とその記事。別紙第二図面参照。以下、この意匠を「引用意匠」という。)であり、その形態は、シートの支持溝、押え板、スプリングの三個の部分からなり、その各部品は長手方向に一定形状の長い棒状体からなり、まずシートの支持溝(以下、支持溝と略称)はハツト形鋼状のその鍔及び側板に当る部分を左右対称として、中央に向け傾斜屈折させた態様からなり、支持溝を長手方向の直交端面から詳細にみると、支持溝は、底部を水平とし、その左右両端で前記のように側板部として弧状で屈折させ、側板部の高さは底部のほぼ<省略>であり、その側板部の頂部から鍔部に当る部分をさらに下外がわへ、高さのほぼ<省略>折り重ねる態様として弧状で屈折させており、屈折した板の重なりの内がわは、板厚程度の水滴状空洞となつている。次に前記支持溝の溝の中である底部へシートの押えとして、水平な板体(以下、押え板と略称)を、挿入嵌着の態様としているものである。さらに押え板の上には、一本の細丸棒を、長手方向に天地が交互に繰返される同一台形に屈折させて形成(台形の波形)したスプリングを、支持溝の溝ほぼ一杯に嵌入しているものであることが認められる。

そこで、両意匠を比較して検討すると、両者は同種の物品であり、共に前記の三部品をもつて構成し、支持溝とスプリングがほぼ共通しており、これらの点はこの種物品間では最も目立つところであるから主要な部分と認められ、そしてここに両意匠の顕著な共通感がある。

一方、本件意匠が押え溝であるのに対し、引用意匠は押え板である点は内部的な機能上の問題として各部品を展開して見た場合に差異感があるとしても、三個の部品を嵌着状態で見るとき、その差異は内部であるためさして目立たず、その他、支持溝の比率やスプリングが扁平台形か、台形かの点などは、いずれも前記共通点中に含まれた微細な差異として看過する程度のものである。

以上のとおり、両者の共通点、差異点を綜合して全体として比較観察すると主要部において顕著に共通する両意匠は、前記のような差異点があつても共通点の方が、はるかに勝つているので、本件意匠は引用意匠と互いに類似するものとするのが相当である。

従つて、本件意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定によつて登録することができない。

三 審決を取消すべき事由

(一) 本件意匠は、支持溝と、押え溝と、スプリングとから成り、押え溝はその両側上部にシート押え用のカール部が形成されている。このため、押え溝を支持溝に懸子の状態で嵌合した状態では、このカール部が支持溝のカール部に引掛けられて外部に露出している。

押え溝が外部に露出していることに鑑み本件意匠では支持溝、押え溝、スプリングの三つの部材が外部からよく見え、審決のような支持溝とスプリングだけが最も目立つところであるという見方は誤りである。

原告は、支持溝とスプリングからなるシートの装着装置をすでに開発しているが、この装置では支持溝内にスプリングを介してシートを保持するだけであるからシートの安定性が悪く、また長期間の使用中に支持溝のカール部上でシートがすれてしまうという欠点があつた。このため、このシートを安定よく保持し、しかもシートのすれを防止するために新たに押え溝を加えたシート止め具を開発し本件意匠を出願したものである。このため、機能上においてはこの押え溝は必須の構成要件であるばかりでなく、支持溝内に嵌合した状態の外形においてもカール部が平面及び正面、背面で長手方向に沿つてよく見え、また左右側面においてはあたかも二つの支持溝が重ねられたような状態でよく見えるもので、この外形こそが意匠の主要部を構成しているものである。

意匠の全体の外観を把握する場合、六面方向から見るのはもちろんであるが、立体感をとらえるには斜視方向からも見るべきであり、斜視方向から見ればおのずと本件意匠において押え溝の外形がよく見え、これが意匠の主要部の一つをなしているということがよく分るはずである。

(二)一方、引用意匠は支持溝と、押え板と、スプリングとからなり、押え板は、単なる水平板体であるからシートのずれを防止するというような機能は有せず、本件意匠の押え溝とは機能上において全く異なり、しかも外形においては支持溝内に嵌合した状態では支持溝の外部に露出するものは何も無く、支持溝の底面に当接するだけであるからほとんどその存在が認識されず、意匠上の要部とはなり得ないものである。

(三) 審決は、「両意匠が同種の物品であり、支持溝とスプリングがほぼ共通しており、これらの点はこの種物品間では最も目立つところであるから主要な部分と認められ、そしてここに両意匠の顕著な共通感がある」と述べているが、このような判断は両意匠を平面からしか見ておらず、斜視方向、左右側面及び正面、背面から見た外感を全く無視していることを示している。

引用意匠では、押え板が支持溝内に嵌合して外部からほとんど見えないために、主要部が支持溝とスプリングであるということには異論はないが、本件意匠は、前記のように押え溝が斜視方向はもとより、平面からも正面からも、また左右側面からもよく見えるためこの押え溝から生ずる外形は意匠の主要部の一つであり、意匠の外観を比較する上で重要なウエイトを持つものであつて、この押え溝から生ずる外観を全く無視した審決は誤りであるといわざるを得ない。

(四) 前記のような観点から両意匠をさらに詳しく比較すると、

(1) 本件意匠を左右側面から見た場合、支持溝と押え溝の間には大きな空間があり、看者に対してあたかも二つのシート支持溝を重ねたような印象を強く与える。

他方、引用意匠は押え板が支持溝の底面に当接していて空間がなく、押え板があるのか無いのかはつきり分らず、左右側面の形状は支持溝とスプリングだけの感を与え、本件意匠とは外観において全く異なる印象を与えるものである。従つて両意匠の誤認、混同を起させるおそれは全くない。

(2) 本件意匠の平面図、正面図、背面図においては、長手方向に沿つて支持溝と押え溝のカール部の端部が二つともはつきりとしかも大きく見え、二つの部材が重ねられていることをよく認識できる。従つて、このカール部の線は意匠の主要部の一つである。一方、引用意匠では平面から見た場合は押え板がかくれていることから支持溝のカール部だけしか見えず、本件意匠のように押え溝のカール部もよく見えるものとは外形において全く異なるものである。

(3) さらに本件意匠の支持溝及び押え溝は左右側面から見た場合座高が低く丸みをもつていてゆつたりとした感じを与えるのに対し、引用意匠は座高が高く安定感が少ない感じを与えるものであり、また正面図、背面図を見たとき本件意匠は薄い感じであるが、引用意匠は巾が厚く非常に大きく見えるものである。

(五) 以上のように両意匠の主要部は全く異なり、その主要部から生じる外観も全く異なるから、引用意匠と本件意匠が類似し、登録に値しないという審決は誤りである。

第三 被告の答弁及び主張

一 原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実を認め、三の主張を争う。

二 原告の主張は、次の理由によつて失当である。

両意匠を全体的に互いに観察するとき、審決で述べているとおり、ハツト形鋼状のその鍔及び側板に当る部分を左右対称として中央に向けて傾斜屈折させた態様であるシート支持溝体が外観上目立ち、さらに台形の波形スプリングにおいても酷似するので、両意匠は共通するものと認めたのである。各部品を分離状態(但し、願書添付の図面は、各部品が嵌着された状態である。)としてみるとき、シート押えが、溝体からなるか、板体からなつているかの点とこれに伴い支持溝体と押え溝体とのあいだに空間があるか、ないかの点をつぶさに知ることができるのである。いずれにしても、本件意匠においては支持溝とこの上から嵌着する押え溝は、互いの側板部で同じ態様の曲面が内外上下に一体的に重なり外観上の態様は押え溝の板厚のみの極めてうすい段差に止まるものである。次に支持溝と押え溝との底部の関係における空間の有無は、長手方向の端面形態をみるとき、そこに空間部分が生じていることがわかつても、支持溝と押え溝は、互いに嵌着状態であり、しかも本件意匠は、意匠の説明にもあるとおり長手方向に連続する長尺材であるから、空間部分の有無を認識するには支持溝と押え溝の二者を分離し、この二者の底部までの深さを比較することによつて、はじめてこの二者の関係を詳細に理解できるのである。さらに本件意匠のように、押え溝の上端付近の見えるもの(支持溝と押え溝が重なつている)や支持溝と押え溝との間に空間のあるものは、乙第一ないし第四号証にそれぞれみられる事実から、前記各態様のものは本件意匠登録出願前から、この種の業界では公知の状態にあり、意匠上の形態において新規性にも乏しく、これらの諸点から前記の段差及び空間部分の有無など、いずれも微細な差異と、この種物品の調査結果からも判断せざるを得ず、従つて前記差異点は両意匠の類否を左右するほどの要素とはならないのである。

第四 被告の主張に対する原告の反論

被告の主張は、物品の機能、特に本件意匠の押え溝の存在を無視した独断といわざるを得ない。

本件意匠は断面蟻溝状の支持溝と同じく断面蟻溝状の押え溝と台形を連続したスプリングとを三重に重ねた形状に係るものであり、特に中間の押え溝を介在させたことにより発生した全体の形状が要部である。特に支持溝のカール部上に押え溝のカール部を平面と正面からよく見えるように重ねたこと及び押え溝と支持溝の間に大きな空間を形成させたことにより押え溝が重ねて存在している状態がよく認識できる。いいかえれば押え溝自体が新規な機能及び形状を有し、この新規な押え溝の存在を認識させるからこそカール部の重ねた形状と空間の存在は本件意匠の要部の一つであり、また新規なものというべきである。

仮に支持溝と押え溝と台形を連続したスプリングを三重に重ねたシート止め具が公知であり、この止め具にカール部を重ねた形状と支持溝と押え溝との間に空間がある場合には上端附近と空間が公知で新規性が無いというのであれば被告の主張もうなずけるが、乙第一ないし第四号証には本件意匠と同じ押え溝を持つたシート止め具は無い。

従つて、シート押え溝とは全く機能・作用効果の異なる部材である添骨やコイルスプリングの一部分の形状をとらえて上端附近や空間に新規性がないと判断するのは当を得ていない。発明・考案の進歩性を判断する場合ならばいざしらず、本件意匠の形状を部分的に切断し要部を限定するような判断は受け入れられない。上端附近のカール部形状や下方の空間は支持溝と無関係ではなく、支持溝と組合せた全体の形状こそ要部であり、新規であるというべきである。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

第一図面

<省略>

第二図面

<省略>

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