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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)379号 判決

一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び審決の理由の要点)については、本件当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。

1 本件発明の特徴等について

その成立について争いのない甲第二号証(本件特許公報)の記載、特に「本発明の方法によつて得られたアルマイト加工皮膜が従来の樹脂液またはエマルジョンを電解酸化直後の酸化アルミニウム皮膜にスプレー塗装、浸漬塗装等の一般塗装方法で塗装した場合と根本的に相異る点は、本発明では電気的に樹脂粒子を移動させ前記酸化皮膜に吸着させることであつて、これによつて従来の一般塗装方法では得られなかつた均一な、そして密着性に優れた樹脂膜が得られ、また一般塗装では得ることが出来ない独特な風合を具備した製品が得られる。」(同号証第二頁左欄第三六ないし第四五行、以下この記載を「記載A」という。)、「また本発明においては樹脂の電着に有機溶剤型の樹脂溶液を使用することなく、特に樹脂を水性エマルジョンまたは水溶液として使用しているため水性エマルジョンまたは水溶液中の樹脂が陽極酸化した多孔性皮膜の微孔内に電着される時に水も一緒に多孔性皮膜の微孔内に吸着され、かつ電着された樹脂皮膜中にも水が存在することとなり、この水の存在により次の熱風炉による加熱乾燥により熱硬化性樹脂を架橋させると同時に封孔をも併せて完全に達成できる効果を有するものである。」(同号証第二頁左欄第四五行ないし右欄第八行、以下この記載を「記載B」という。)並びに「従来アルミニウム陽極酸化皮膜の封孔には高圧高温の水蒸気処理を必要としたものであるが、本発明においては前記のように電着された樹脂には水が存在し、従つて高圧高温の水蒸気を用いずに単なる乾式加熱により充分な封孔が達成されるものである。しかして水蒸気処理はバッチ式によらざるを得なかつたものであるが本発明では乾燥炉を使用出来るため、一貫した連続生産が可能となり、この結果作業が極めて能率的となり製品の均質化ならびに工程の簡素化が可能となる。また水蒸気封孔では加工品の表面が曇る欠点があつたが本発明の乾燥処理ではかかる欠点がなく優れた光沢面が得られる利点もある。」(同号証第二頁右欄第一五ないし第二七行、以下この記載を「記載C」という。)との各記載に、いずれもその成立について争いのない甲第七、八号証及び甲第一〇、一一号証の記載を合わせ考えれば、本件発明について、次の事実が認められる。すなわち、従来、アルミニウムの表面処理の方法として、陽極酸化皮膜を生成させる方法が知られていたところ、陽極酸化皮膜には多くの微孔がありそのため被覆としては完全でなく、通常これに樹脂液等をスプレー塗装あるいは浸漬塗装し又は水蒸気処理して微孔内に酸化アルミニウムの水和物を生成させることにより、その微孔を封じ、被覆の強化を図つていたが、それでも完全を期することは困難であつたこと、本件発明は、前記争いのない本件発明の要旨にみられるとおりの構成により、樹脂を水性エマルジョン又は水溶液として陽極酸化されたアルミニウム表面に電着させるとともに、水性エマルジョン又は水溶液中の樹脂が陽極酸化した多孔性皮膜の微孔内に電着されるときに、水も同時に多孔性皮膜の微孔内に吸着され、これが、電着された樹脂皮膜内に存在する水分とともに、次の熱風炉による加熱乾燥により、熱硬化性樹脂の架橋と同時に、微孔内で水和物となつて微孔を封孔するようにしたものであり、これによつて、従来のスプレー塗装、浸漬塗装等の一般塗装法では得られなかつた均一かつ密着性に優れた樹脂膜を得、一般塗装では得ることができない独特な風合を具備した製品を得ることができたばかりでなく、従来の陽極酸化皮膜の封孔が高温高圧の水蒸気処理の必要上バッチ式によらざるをえなかつたのに対し、乾燥炉を使用できるため、一貫した連続生産を可能とし、さらに、作業を極度に能率化し、製品の均質化及び工程の簡素化を可能としたほか、従来品の欠点であつた加工品の表面の曇りを除去して優れた光沢面を得ることができるようにしたものであること、以上の事実が認められる。

原告は、本件発明の特許出願当時、アルミニウムの陽極酸化皮膜が絶縁性のものでこれに電着することは困難であるとみられていたとし、被告は、電気メッキが行われていたことなどを根拠に右事実を争つているが、それがいずれであつても、本件発明に関する右の認定が左右されるものではなく、また、それは本件発明の容易推考性に関する後記判断に影響を及ぼすものでもない。

2 第一引用例の開示事項について

その成立について争いのない甲第三号証の記載、特にその「前述の、及び1又はその他周知の樹脂類の電気泳動付着後、溶剤あるいは揮発性懸濁液剤及びその類似物は高められた温度を適用することにより除去されうる。」(同号証第五欄第五ないし第九行)との記載によれば、第一引用例は「改良された導電体の製造方法」に関する発明の明細書であり、その発明は、耐久性、高可撓性、耐摩耗性のある電気絶縁導体に関するものであつて、従来、セラミツクやガラス質等の耐火性材料で被覆した導体は優れた絶縁性を持つものの、通常の使用により破壊又は脆弱化される欠陥があり、その欠陥を是正するため樹脂材料の溶液又は懸濁液に浸漬しても、濃厚な液では表面のみに樹脂が付着するだけであり、希薄な液では十分に付着しないという問題があつたところ、電気泳動により右樹脂液を導体の表面に付着した耐火性材料の間隙に入り込ませ、耐火材料の粒子同志及び耐火性材料と導体との間に樹脂を十分に存在させ、加熱乾燥により溶剤又は揮発性懸濁液剤を除去した後、さらに加熱して樹脂を重合(架橋)させることにより、優れた耐久性、高可撓性、耐摩耗性のある電気絶縁導体を得たものであること、その発明の実施に適当な導電体としては、銅、ニッケル、ニッケル―クロム、ベリリウム―銅、鉄―クロム、タンタル―鉄―クロム及びその同効物が例示されていること、その導電体に付着される耐火性材料としては、多くのセラミツク及びガラス質の材料があげられ酸化アルミニウムも例示されており、また、導電体に耐火性被覆を適用する方法として、耐火性材料の懸濁液等に導電体を浸漬し乾燥させる方法、耐火性材料の粒子を導電体にスプレーする方法及び耐火性粒子を導電体に結合剤で付着し、次いで結合剤を揮発させる方法に並んで導電体金属から多くの間隙を有する(Porous)酸化金属皮膜を電解的あるいは化学的に形成することによる方法も例示されていること、以上の事実が認められる。

3 本件発明と第一引用例記載の発明との対比

右1及び2に認定した事実によれば、本件発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜の微孔内及び表面に電着した樹脂を加熱処理により架橋させると同時に、右加熱処理によつて、樹脂とともに微孔内に入り込んだ水分により酸化アルミニウムとの水和物を生成させ、樹脂の硬化と水和物の生成とがあいまつてより完全な封孔ができるようにし、アルミニウム製品の被覆について前認定のような作用効果をあげえたものであるのに対し、第一引用例の発明は、耐火性材料からなる被覆を導電体の表面に付着その他の方法により形成し、それが通常の使用などにより破壊されることのないように、その皮膜を形成する材料の間隙及び材料と導電体との間に樹脂を電着させ、加熱乾燥によりその樹脂の溶剤又は揮発性懸濁液剤を除去した後、樹脂を重合(架橋)させて、高可撓性等の優れた特性を有する電気絶縁導体を得たものであり、そこには、水分を皮膜形成に寄与させるという技術思想の示唆はないのであるから、両発明の間には、加熱処理による樹脂の架橋と水分による水和物の生成とが同時に行われて陽極酸化皮膜の封孔をするという原告のいわゆる「同時封孔」の有無の点で相違があるものである。

右の点に関し、被告は、第一引用例における加熱が二段に行われる旨の記載は、「本発明の望ましい実施例の一つ」として記載されているにすぎないと主張するが、少なくとも前記2の冒頭に特記した第一引用例の記載は、これを実施例の説明とみるのは困難であるばかりでなく、第一引用例の記載全体からみても、むしろ、水分は皮膜を完全にすることの妨げになるものとしてこれを排除しているものとみられ、水分を除去するための加熱が樹脂の架橋のための加熱と別に行われることは、第一引用例の発明の本質に由来するものとみられるから、被告の右主張は採用できない。

また、第一引用例に、前認定のように、耐火性材料の皮膜を導電体の表面に形成する方法について、耐火性粒子の付着による方法等と並んで多くの間隙を有する(porous)酸化金属皮膜を電解的に形成する方法も開示されている点については、第一引用例(前記甲第三号証)の記載全体からみて、そこに予定されている耐火性材料による被覆は、通常の使用によつて破壊されるようなもので樹脂の電着による強化を要する程度のものとみるのが相当であるから、右の電解的に形成される酸化金属皮膜もその程度のものであり、少なくとも、(仮に第一引用例の導電体としてアルミニウムが示唆されているとみられるとしても)本件発明における前記「同時封孔」までを示唆するものでないことは明らかであるから、右の点は、前記判断の妨げとなるものではない。

なお、被告は、本件発明における「同時封孔」が補正により追加されたものであることを根拠にして、「同時封孔」は自ずと現れるもので特殊のものではない旨主張するが、成立について争いのない乙第三号証の二によれば、「同時封孔」を生じさせる具体的構成は本件特許の出願当時の明細書に記載されていることが認められるから、右主張も採用の限りではない。

4 しかるに、審決は、本件発明に関する前記記載Aの作用効果については触れたものの、前記「同時封孔」の有無という相違点を看過し、これに関する前記記載B及びCについてはなんらの判断も示さず、本件発明が各引用例から容易に発明できたとしたものであるところ、いずれもその成立について争いのない甲第四、五号証によれば、第二引用例及び第三引用例には「同時封孔」についてなんら示唆するところがないものと認められ、したがつて、審決の右相違点の看過は、審決の結論に影響を及ぼすべきことが明らかであるから、審決は、違法としてこれを取り消すべきものである。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕本件における発明の要旨は左のとおりである。

陽極酸化直後のアルミニウム製品を、アルキッド系、アクリル系、アクリル―アルキッド系・メラミン系、尿素系等の熱硬化性樹脂の水性エマルジョンあるいは水溶液中に浸漬し、直流電流により前記水性エマルジョン又は水溶液中の樹脂を多孔性皮膜の微孔内に電着させ、次いで熱風炉、電熱炉等の乾燥炉で加熱処理して前記熱硬化性樹脂を架橋反応させると同時に封孔せしめることを特徴とするアルマイト加工方法

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