東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)381号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、次に説示する理由により違法であり、取消しを免れないものというべきである。
第一引用例及び第二引用例の記載内容並びに本願発明と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点が本件審決の認定のとおりであることは原告の認めるところ、原告は、本件審決が本願発明と第一引用例記載のシステムとの相違点<3>についてした認定判断を争うから、この点につき検討するに、前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(昭和五二年一二月九日付手続補正書)及び第三号証(本件特許公報)を総合すれば、その明細書の発明の詳細な説明の項に記載の実施例第1図及び第2図に示された「増幅制限段204、206、208を持つ中間周波数増幅制限器12」、「ピーク整流回路591、592、593」(第2図の説明によると、ピーク整流回路591はピーク整流トランジスタ214、トランジスタ216、抵抗248、キヤバシタ242より成り、同じく592はピーク整流トランジスタ218、トランジスタ220、抵抗器221、257、254、キヤバシタ252、256より成り、同じく593はピーク整流トランジスタ222、トランジスタ224、抵抗器223、259、272、キヤパシタ258、261より成つている(本件特許公報第三頁第六欄第三六行ないし第四頁第七欄第六行、同第八欄第五行ないし第七行及び手続補正書第二頁第一二行ないし第三頁第三行)。なお、明細書の図面の簡単な説明の項では、ピーク整流回路591、592、593は、「振幅検知器」と表示されている。)、「同調指示器572」及び「ダイオード234、トランジスタ230」は、それぞれ本願発明の要旨(特許請求の範囲記載に同じ。)中の各構成素子をなす、「複数の増幅段を含んでなる振幅制限増幅器」、「複数のトランジスタ振幅検知器」、「同調兼信号強度指示手段」及び「加算する手段」に対応し、実施例第2図中の「トランジスタ216、220、224」は本願発明の要旨中の構成をなす「別のトランジスタ」に対応するものであること(なお、実施例第1図及び第2図中のピーク整流回路594は角変調検波器14に接続され、中間周波数増幅制限器12、すなわち本願発明の要旨中の振幅制限増幅器の出力段に接続していないから、本願発明の要旨中の「複数のトランジスタ振幅検知器」に含まれるものとは解し得ない。)、したがつて、本願発明において「別のトランジスタ」は、ピーク整流トランジスタとともにピーク整流回路、すなわち振幅検知器に含まれるものであること、並びに実施例第2図の説明において、ピーク整流トランジスタ214、218、222は、「これらの各トランジスタのエミツタ電極に現われる分布容量に依存して積分機能を遂行する。」との記載に続き、「これらの分布容量の主たる成分は、上記の各ピーク整流トランジスタに後続し、ベース・エミツタ回路が検知器の負荷の少なくとも一部として働くトランジスタ216、220、224のベース―コレクタ領域及びベース―基体領域のキヤパシタンスである。」旨の記載(手続補正書第二頁第一二行ないし第三頁第三行)があることが認められるところ、右認定の事実によれば、本件発明の要旨中の「別のトランジスタ」に対応する実施例中のトランジスタ216、220、224は振幅検知器の負荷の一部として働くが、ピーク整流トランジスタ214、218、222に後続されるもので、そのベース―コレクタ領域及びベース―基体領域のキヤパシタンスが右ピーク整流トランジスタのエミツタ電極に現れる分布容量の主たる成分となつて、右ピーク整流トランジスタのベース電極に供給されて、そのベース・エミツタ接合により整流された信号波を積分、すなわち平滑して直流信号とし、これを検知信号とするものと認められ、これに前示本願発明の要旨とを総合考量すれば、本願発明の要旨第二文の「各検知器」、「検知された信号出力」、「該検知器の負荷」とは、「各検知器のピーク整流トランジスタ」、「ピーク整流トランジスタにより整流された信号出力」、「該検知器における負荷」を意味するものと解すべく、また、本願発明の要旨第一文中の同調兼信号強度指示手段を駆動する「検知信号の和に相当する出力信号」と同要旨第三文中の「中継された各別の信号」を加算したものとは同じものを意味するものと解することができる。
叙上認定したところによると、本願発明における「別のトランジスタ」は増幅(中継)作用と積分作用をもつものであるところ、本件審決が相違点<3>につき認定判断をするに当たり本願発明の「別のトランジスタ」がトランジスタ振幅検知器における負荷の少なくとも一部を形成して、積分機能を遂行する点を看過し、この点について、何らの検討をも加えなかつたことは前示本件審決の理由の要点に照らし明らかである。この点に関し、被告は、本願発明の「トランジスタ振幅検知器」は、「ピーク検波」の機能を有しているから積分機能を有しているのに対し、「別のトランジスタ」は、検知された信号出力を「増幅すなわち中継」するためのものであり、「増幅すなわち中継」機能は積分機能とは無関係であるから、「別のトランジスタ」は積分機能を有していない旨主張し、また、本願発明の特許請求の範囲において第一文の「トランジスタ振幅検知器」と第二文の「別のトランジスタ」とは互いに区別された別個の要素であるから、本願発明において「別のトランジスタ」が「トランジスタ振幅検知器」の積分機能を遂行するという原告の主張は、互いに区別された別個の要素を混同するものである旨主張するが、本願発明の特許請求の範囲中第一文の「トランジスタ振幅検知器」がピーク整流トランジスタと「別のトランジスタ」を含むものであり、その第二文の「各検知器」、「検知器により検知された信号出力」、「該検知器の負荷」の各用語は、「各検知器のピーク整流トランジスタ」、「ピーク整流トランジスタにより整流された信号出力」、「検知器における負荷」の意味にそれぞれ解すべきであり、本願発明における「別のトランジスタ」は「そのベース・エミツタ回路が当該検知器の負荷の少なくとも一部を形成して結合」されることにより、「増幅すなわち中継」機能と併せて「積分機能」をも有すると解すべきこと前認定説示のとおりであるから、被告の上叙主張は、いずれも、本願発明の要旨の解釈を誤つたことに基因する主張であつて、採用することができない。また、被告は、原告の本件審決の相違点<3>の認定判断の誤りについての主張は、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項の記載に照らしても、失当である旨るる主張する。しかし、被告の右主張は、本件特許公報記載の本願発明の明細書中の被告指摘部分がその後補正されている(この点は被告の認めるところである。)にもかかわらず、補正前の明細書の当該部分を根拠にしたり、又は明細書の発明の詳細な説明の項中の「最初の三個のピーク整流トランジスタ214、218および222はこれらの各トランジスタのエミツタ電極に現われる分布容量に依存して積分機能を遂行する。」の記載を指摘しながら、これに続く、「これらの分布容量の主たる成分は、上記の各ピーク整流トランジスタに後続し、ベース・エミツタ回路が検知器の負荷の少なくとも一部として動くトランジスタ216、220、224のベース―コレクタ領域およびベース―基体領域のキヤパシタンスである。」との記載を無視するものであり、本願発明における「別のトランジスタ」が増幅中継作用及び積分作用をもつたものであることは前認定説示のとおりであるから、被告の右主張も採用するに由ない。
叙上のとおりであつてみれば、本件審決の右相違点<3>についての認定判断の誤りは、その余の点につき判断を加えるまでもなく、本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるというべきである。
(結語)
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができるから、これを認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
継続して結合されている複数の増幅制限段を含んでなる振幅制限増幅器と、上記複数の増幅段のそれぞれの出力段に各別に結合されており、それぞれの増幅制限段を通過する信号波の供給を受けてこれをピーク検波して供給された信号波の振幅を代表する各別の検知信号を発生する複数個のトランジスタ振幅検知器と、上記各別の検知信号の和に相当する出力信号をもつて駆動される同調兼信号強度指示手段とを具備してなる、FM受信機に使用される集積回路化された同調兼信号強度表示回路であつて、
各検知器には当該検知器により検知された信号出力を増幅すなわち中継するための別のトランジスタが、そのベース・エミツタ回路が当該検知器の負荷の少なくとも一部を形成して結合され、
上記別の各トランジスタのそれぞれのコレクタ回路に生じる、中継された各別の信号を加算する手段が同調兼信号強度指示手段を駆動するために上記別の各トランジスタのそれぞれのコレクタ回路に結合されている、
FM受信機に使用される集積回路化された同調兼信号強度表示回路。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
(以下省略)