東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)388号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 本願発明における脱窒素槽を設けた構成の本質の看過について
成立に争いのない甲第三号証によれば第一引用例には、「二次清澄工程では生物凝集された汚泥固形物を回収するが、若干の呼吸作用も生ずる。溶存酸素と硝酸性酸素の存在は汚泥塊の腐敗を遅延させる。脱窒は窒素ガスとともに亜酸化窒素のような生産物を生成するが、これらは汚泥フロツクに取込まれ、フロツク密度を減少させて固形物を浮上させる。」(第九二〇頁右欄第三一行ないし第四〇行、訳文第三頁第一一行ないし第一七行)及び「二次清澄池での脱窒素。これは通常、固形物の回収を損うことなしに促進することはできない。」(第九二一頁第三行ないし第六行、訳文第六頁第八行、第九行)と記載されている。これらの記載によれば、二次清澄池(最終沈澱池)において脱窒素が起きること、この脱窒素により固形物が浮上することが十分理解される。そして、この二次清澄池はそこで固形物を沈澱させ、固体と液体とを分離するための区域であるから、その二次清澄池において脱窒素のために固形物の浮上が起きるのは、少なくとも好ましいことではないが、そうかといつて廃水処理が本来脱窒素をその一つの目的としている以上、二次清澄池においても、そこで起こつている脱窒素をただ抑制するということは好ましいことではない。
ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、硝化槽と最終沈澱池との間に脱窒素槽を設けることが開示されているのであるから、前記のような第一引用例の二次清澄池(最終沈澱池)における二つの好ましくない問題を同時に解決するために、第二引用例に開示されている脱窒素槽を、第二引用例と同じ位置関係に相当する第一引用例の硝化槽と二次清澄池(最終沈澱池)との間に設けることは、当業者であれば容易に想到することができる程度のことといわねばならない。
したがつて、審決が、本願発明において右のような脱窒素槽を設けることは、両引用例から容易に発明することができ、単に第一引用例の最終沈澱池での二つの機能を脱窒素槽での脱窒素処理と最終沈澱池での汚泥固形物の分離に分けたに過ぎないとした認定に誤りはなく、本願発明の構成の本質を看過したものであるとする原告の主張は採用することができない。
2 顕著な作用効果の看過について
第一引用例の窒素除去率は最高が七七%であるのに対し、本願発明では八七%であることの評価に関し、被告はたかだか一割程度の差に過ぎないとし、原告は処理廃水の河川などの環境への窒素流出量としてみた場合には、本願発明は第一引用例の最高の場合よりも約四四%も低減させることができると主張している。
しかしながら成立に争いのない甲第二号証及び前掲甲第三号証、第四号証によれば、本願発明は第一引用例に較べて、構成として脱窒素のために公知の脱窒素槽を一つ余分に設けているのであるから、本願発明が第一引用例に比較して脱窒素率において優れており、その点環境汚染の低減の評価を受けるからといつても、極めて当然のことといわねばならない。
また、原告は脱窒素槽を設けたことにより、最終沈澱池からの濃厚な返送汚泥が確保できる旨主張しているが、そもそも最終沈澱池では、上澄みの水を処理廃水として放流し、沈澱した汚泥は必要量を返送汚泥として利用し、余剰汚泥は系外に排出するものであることは、前掲甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、第二引用例に記載されているように、本願発明出願前の技術常識であるから、前掲甲第二号証、第三号証によつてみても第一引用例に比較して本願発明が脱窒素槽を設けたからといつて沈澱汚泥の濃度にはさほどの差異は生じるものとは認められず、格別顕著な効果とすることもできない。
さらに原告は、濃厚返送汚泥の確保の結果として接触混合槽以下の各反応槽容積をより小さくすることができる旨主張するが、返送汚泥濃度において前記のとおり格別の差異があるものとはいえない以上、これを前提とする主張を肯定することはできない。
なお前掲甲第二号証によれば、本願発明は第二引用例のようなタイプの従来法に比較して、施設全体の容量を小さくすることができるとしているが、これは「さらにはじめの接触混合槽における脱窒素は高速に行われるから、後段の脱窒素過程における脱窒素負荷を大幅に軽減することができて施設全体の容量を縮減することができる」(第九欄第一六行ないし第一〇欄第二行)との前後の記載からみて、従来法に比較して、はじめの接触混合槽を設けたことによる効果とみることができるから、この効果は前掲甲第三号証によれば、その点については同様の構成をとる第一引用例においても当然生じている効果というべきであつて、これを以て本願発明特有の効果として評価することはできない。そうすると、作用効果の顕著さを看過したとする原告の主張も採用することはできない。
三 以上のとおりであるから、本件審決を違法としてその取消を求める本訴請求は、失当として棄却するのほかはない。
〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四六年一月二九日名称を「有機性廃液の脱窒素処理法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和四六年特許願第二九三九号)をし、昭和五〇年九月六日出願公告されたが、特許異議の申立があり、昭和五二年一一月三〇日拒絶査定を受けたので、昭和五三年二月一四日審判の請求をし、昭和五三年審判第二〇〇四号事件として審理されたが、昭和五五年一〇月三〇日「本件審判の請求は成り立たない」との審決があり、その謄本は同年一一月二五日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
有機性廃液を硝化槽から流出する混合液の一部と共に嫌気状態下に混合接触させたるのち硝化槽に導いて活性汚泥と共に好気状態下に攪拌し、次いで脱窒素槽に導いて嫌気状態下に攪拌しつつ脱窒素を行なうことを特徴とする有機性廃液の脱窒素処理法。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
(一) 本願明細書添付図面(たゞし第1図ないし第3図は従来法)
<省略>
(二) 第一引用例
<省略>
(三) 第二引用例
<省略>