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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)396号 判決 1981年3月30日

原告 高橋満

被告 茨城県選挙管理委員会

主文

原告の本件訴のうち、昭和五五年一〇月一九日執行にかかる茨城県下館市長選挙を無効とすることを求める訴を却下し、被告が昭和五五年一二月一五日付でした裁決の取消を求める請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和五五年一二月一五日付でした裁決を取消す。昭和五五年一〇月一九日執行にかかる茨城県下館市長選挙の当選人浜野正の当選を無効とする。右選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は「原告の訴をいずれも却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、予備的に「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告主張の請求原因事実は、別紙添付訴状請求の原因欄及び原告の昭和五六年一月二二日付準備書面記載のとおりである。

被告は答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因事実中、原告が昭和五五年一〇月一九日執行にかかる茨城県下館市長選挙(以下本件選挙という。)に立候補した者であること、原告は同月二四日下館市選挙管理委員会に対し、選挙会で当選人と決定された浜野正の当選が無効であるとして異議の申出を行ない、同委員会が同年一一月七日異議を棄却する旨の決定をしたこと、そこで原告は右決定を不服として同月二一日被告に対し審査の申立を行なつたところ、被告は同年一二月一五日これを棄却する旨の裁決をした事実は認める。

二  ところで公職選挙法二〇二条、二〇三条によれば、地方公共団体の長である市長選挙の効力を争う選挙訴訟は当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会への異議申出に対する決定及び都道府県選挙管理委員会への審査申立に対する裁決を経た後でなければこれを提起し得ず、また同法二〇六条、二〇七条によれば同じく当選人の当選の効力を争う当選訴訟も右と同様の決定及び裁決を経た後でなければこれを提起し得ないこととされているが、右両訴訟はその性質を異にするものであるから、一方について決定及び裁決を経由していても他方について右手続を経由しない限りこれを備えたことにはならないものであるところ、原告が下館市選挙管理委員会に対してした異議申出は当選の効力に関するものであつて、選挙の効力に関するものではないから本件訴のうち本件選挙を無効とすることを求める訴は訴訟要件を欠き不適法として却下されるべきものである。

三  本件選挙に、原告主張にかかる選挙無効の原因があることは争う。

被告は証拠として乙第一ないし第五号証(ただし乙第二、三号証は写)を提出し、原告は乙号各証の成立(ただし乙第二、三号証については原本の存在とも)を認めると述べた。

理由

一  原告は本訴において、昭和五五年一〇月一九日執行にかかる本件選挙の当選人浜野正の当選を無効とすることと、右選挙を無効とすることとを求めているものと解されるが、原告の本件訴状、昭和五六年一月二二日付準備書面及び本件口頭弁論期日における原告の釈明によるも右両者の関係については必ずしも明らかではない。しかしながら当選が有効か否かは当該選挙が有効であることを前提とし、当該選挙が無効であれば当選人の当選も当然に無効となるものであるから、本件のごとく両者を同一の訴状で請求していると解される場合には、原告としてはまず選挙を無効とすることを訴求し、予備的に当選人の当選を無効とすることを訴求しているものと解するのが相当であるので、以下この観点に立つて判断を進める。

二  先ず選挙無効の訴について検討する。

公職選挙法二〇二条、二〇三条によれば、本件のごとき地方公共団体の長の選挙の効力を争う選挙訴訟は、当該選挙の日から一四日以内に当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に異議申出を行ないこれに対する決定を得、これに不服があればその決定書の交付を受けた日から二一日以内に当該都道府県選挙管理委員会に審査を申立てこれに対する裁決を経た後でなければ出訴し得ないこととされており、また同法二〇六条、二〇七条によれば同じくその当選の効力を争う当選訴訟も右と同様の手続を経た後でなければ出訴し得ないこととされているが、前者は、原則として選挙執行機関の行なう選挙の管理執行に関する規定違反を原因とし、後者は選挙執行機関の当選人決定に関する諸規定についての判断の誤りを原因とするものであつて、両者はその性質を異にするものであるから、その一方について右の手続を経由しているからといつて直ちに他方についてその手続を経由したことにはならないと解すべきものである。ところで、原本の存在と成立につき争いのない乙第二号証によれば、原告から本件選挙の事務を管理した下館市選挙管理委員会に対してなされた異議申出は当選の効力に関するものであることが明らかであつて、原告において当選の効力と併せて本件選挙の効力をも争うものとは到底認められず、他に原告が本件選挙の効力に関し異議の申出をなしたことを認めるにたる証拠はないから、原告の本訴のうち、本件選挙を無効とすることを求める訴は、訴訟要件を欠き不適法として却下を免れない。

なお、成立に争いのない乙第四号証によれば原告は被告に対する審査の申立の理由中において選挙の効力を争うかのごとき主張をしている事実が認められるが、仮に右申立が選挙の効力を争う趣旨のものであつたとしても、本件選挙の効力に関して原告が異議の申出を欠いていることは前叙のとおりであるから、この事実は前記判断を左右するものではない。

また、公職選挙法二〇九条には同法二〇六条ないし二〇八条の規定による当選の効力に関する異議の申出、審査の申立又は訴訟の提起があつた場合においてもその選挙が二〇五条一項(選挙の無効の決定、裁決又は判決)の場合に該当するときは当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し裁決し又は判決しなければならない旨定められているが、右規定は当選争訟の審理においてたまたま選挙無効原因が認められるときは選挙管理委員会又は裁判所は当事者の主張をまたず職権によつて選挙無効を宣することを要する旨定めたものにすぎず、選挙無効の訴について前記異議申出及び審査申立の手続を経由することを不要ならしめるものとは解されないから、右規定も前記判断に影響を及ぼすものではない。しかも、本件においては、右法条により本件選挙を無効としなければならないような事実を認めるにたりる的確な証拠は全くない。

三  つぎに当選無効の訴について考える。

本件において、前二に述べた当選無効の原因が存することを認めるにたる的確な証拠は何もないから本件訴のうち本件裁決を取消し、当選人浜野正の当選を無効とすることを求める訴は理由がなく棄却を免れない。

四  してみると原告の本件訴のうち本件選挙を無効とすることを求める訴は不適法として却下を免れず、また本件裁決を取消し、本件選挙の当選人浜野正の当選を無効とすることを求める訴は理由がなく棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川上泉 奥村長生 福井厚士)

訴状及び準備書面<省略>

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