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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)55号 判決

原告が主張する審決の取消事由の存否について検討する。

1 成立に争いのない甲第二号証、第三号証によると、次の事実が認められる。

(一) 本願意匠は、横断面がほぼ円形とみられる合成樹脂製の四本の細い紅色の芯条を螺旋状に一体に縒り合わせ、これを、長手方向に連続させ、無色透明で表面が平滑な合成樹脂製外皮に溶着状に嵌合させ、その長手方向に対する横断面をほぼ円形(正確には円形に近い楕円形)としたものである。

(二) これに対し、引用意匠は、横断面がほぼ円形とみられる合成樹脂製の一本の紅色(本願意匠のものよりもやや薄い紅色)芯条を、長手方向に螺旋状に連続させ、無色透明で表面が平滑な合成樹脂製外皮に溶着状に嵌合させ、その長手方向に対する横断面をほぼ円形(正確には円形に近い楕円形)としたものである。

なお、本願意匠における螺旋状に一体に縒り合わされた四本の芯条の太さと紐全体の太さとの割合は、引用意匠における芯条の太さと紐全体の太さとの割合とほぼ同一である。

2 右に述べたところから明らかなとおり、本願意匠と引用意匠との間には、その芯条において、色彩が本願意匠のものの方が引用意匠のものよりもやゝ濃い紅色であること及び本願意匠では細い四本の芯条を螺旋状に一体に縒り合わせたのに対し、引用意匠では、本願意匠のものよりも太い一本の芯条を螺旋状にした点で相違するが、その他の形態、特に、紅色の合成樹脂製芯条を螺旋状にしてこれを合成樹脂製の無色透明の外皮に溶着状に嵌合させた基本的な態様において差異がない。

3 ところで、前掲甲第二号証、第三号証に徴し、両意匠を子細にしらべると、前述のような芯条の形態上の差異により、外観において、本願意匠では、芯条が並列した二つの細条となつて紐の軸心方向に斜行して透視されたり、右細条が、これに溶着状に嵌合された透明な外皮の表層部分をとおして多様な捻転状に連続して見えたりするのに対し、引用意匠では、一条の芯条が紐の軸心方向に斜行して透視されたり、右芯条が、透明な外皮の表面に接近している部分では紅色の色彩がやゝ淡く、これと離れている部分ではそれよりも濃くみえ、外皮の表層部分をとおして多様な捻転状に見えたりすることが認められる。

このような態様を子細に比較すると、本願意匠は、引用意匠に比べ、芯条がやゝ複雑であるとの印象を抱かせるところがないわけではない。

しかしながら、芯条の色彩については、両者は、基本的に紅色であつて、たゞその濃淡の差異が若干あるにとどまるから、この差異は、両意匠を別異の意匠とするに足りない微差というのほかはない。

また、その余の上記差異についてみても、紅色の合成樹脂製芯条を螺旋状にしてこれを合成樹脂製の無色透明な外皮内に溶着状に嵌合させた態様から表わされる芯条の多様な捻転状の与える印象が極めて強く、芯条の本数の差に由来する右差異は、この多様複雑な形状の印象の中に吸収されてしまい、両意匠を区別させるほどの印象を与えるにいたらず、意匠全体としてみるとき、子細丹念にしらべてようやく識別しうる程の極めて微弱な差異の域を出ないというのほかはない。

また、合成樹脂製の紐の意匠を創作する場合を考えるに、原告主張のように、螺旋状の芯条によつて現われる色彩と模様とのみが、この種紐の分野において意匠的創作の行われうる領域に過ぎないものではなく、広く、たとえば、芯条を設けることやその芯条をどのような形態のものにするかはもちろん、芯条を無色透明な外皮に溶着状に嵌合する態様なども、創作力をはたらかせうる領域に属することはいうまでもないから、意匠の特徴的部分の存する領域を原告主張のように限定して考えるのは相当ではない。

以上説示の諸点を併せ考えると、両意匠は、結局、看者をして強い共通感を抱かせるものであるというべきである。

したがつて本願意匠が引用意匠と類似するとした審決の判断に誤りはなく、原告の主張はいずれも採用することができない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

訴外石田真久、同北村保一は、昭和四八年四月二四日意匠に係る物品を「合成樹脂紐」とし、意匠登録第二三九二一四号意匠を本意匠とする類似意匠について意匠登録出願をした(以下この出願に係る意匠を「本願意匠」という。)ところ、昭和五二年四月二三日拒絶査定を受けたので、同年七月九日これに対し審判を請求し、特許庁昭和五二年審判第九一七三号事件として係属した。ところで、右石田真久は、昭和五三年九月六日右北村保一の有する意匠登録を受ける権利(持分)を譲受け、次いで、原告は、同月一四日右石田真久から本願意匠について意匠登録を受ける権利を譲り受け、その旨それぞれ特許庁長官に届け出た。しかして、昭和五五年一月二一日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、同年二月一三日右審決の謄本は原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本願意匠の形態の要旨は、次のとおりである。

基本的な構成態様としては、長手方向に連続し、直交方向切断面がほぼ楕円形であつて、紅色のスパイラル状を形成する芯条(縒り紐)が透視されるものであり、具体的な態様としては、芯条は凹凸が交互に繰り返され、凹の部分が幅狭に表われ、ねじれにより僅かに粗な態様であり、凸の部分は平滑に表われており、外皮は透明である。なお、長手方向の端面は、太さの相違するほぼ四本の芯条が溶着状を呈し、これと外皮も一体的に形成されているものである。

2 これに対し、昭和三七年意匠登録願第一五五五九号意匠(意匠に係る物品を「ビニール紐」として、昭和三七年八月一一日に、同年意匠登録願第一五五五七号意匠を本意匠とする類似意匠について意匠登録出願がされ、昭和三九年四月二五日出願拒絶の査定があり、同査定は確定したもの。以下「引用意匠」という。)の形態の要旨は、次のとおりである。

基本的な構成態様としては、長手方向に連続し、直交方向切断面をほぼ楕円形とするものであつて、薄紅色のスパイラル状を形成する芯条が透視されるものであり、具体的な態様としては、芯条は、凹凸がほぼ同じ幅で交互に繰り返されており、凸の部分は平滑に表われ、凹の部分はねじれにより透明な外皮と溶け合つたように僅かに粗な態様であつて、外皮は透明である。なお、長手方向の端面は、一本の紐にねじれを与えたものである。

3 そこで、両意匠を比較検討すると、両者は、物品を同種のものとし、色彩に薄い濃いの差異はあるほか、ほぼ全面的に共通であり、この種物品では看者に顕著な共通感を与える。具体的な態様における差異点として、芯条の凹凸の繰り返しや凹の部分の表われ方には本願意匠と引用意匠とで多少の差があるが、いずれも微差であり、また、本願意匠の芯条が縒り紐によるほぼ四本のものと推定されるのに対し、引用意匠のそれは一本のものをねじつて縒り紐のようにしたものと認められるが、両者は、共に、外皮を透明とし、製造工程において芯条が外皮と一体的になつている態様であり、透明な外皮と紅色系の芯条をスパイラル状に形成し、凹の部分がねじれによる僅かな凸凹で、凸の部分が平滑に表われており、同一にも近い共通感を抱かせ、互いに類似する意匠とするのが相当である。

よつて、本願意匠は、意匠法第九条第一項の規定により登録することができない。

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