東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)72号 判決
事実及び理由
審決取消事由の存否について判断する。
(原告主張の審決取消事由1について)
原告は、従来周知のキヤスター付鞄は、すべて牽引に適した大きさ、高さ、形状を有する鞄にキヤスターを設けたものであり、牽引に不適な鞄、すなわち携行鞄にキヤスターを設けたものは先行技術にはないから、審決が周知のキヤスター付鞄に乙の構成を設けたものが本願考案の構成であるとしたのは誤りであると主張する。
しかしながら、審決は、従来周知のキヤスター付鞄に乙の構成を設けること、すなわち本願考案の構成とすることは、当業者であれば格別の考案力を必要とせずに容易にできることであるとしたものであつて、審決のこの判断には何の誤りもない。原告は、本願考案に係る鞄は、牽引しないで携行する時が鞄の常態であり、容量拡大してキヤスターを接地させて牽引する時はその常態ではないことを前提として、携行鞄にキヤスターを設けたものは周知例にはないと主張するものであるところ、フアスナーを開いた状態では本願考案に係る鞄は、従来周知のキヤスター付鞄と異なるところはなく、結局本願考案は、右周知のキヤスター付鞄に乙の構成を設けたにすぎないものというべきである。原告の主張は理由がない。
原告は、また、撓曲自由材によつて外被体を形成した大型鞄を牽引することは、形状不安定なものを牽引することになり、使用に困難性があるから、周知のキヤスター付鞄のうちには、撓曲自由材により外被体を形成することによつて鞄本体が撓曲自由であるものはない旨主張する。
しかしながら、本願考案は撓曲自由材によつて外被体を形成しながら、原告主張の困難性を克服する技術に関するものではなく、明細書中にもその困難性を解決する手段について何も記載されていないから、原告の主張は理由がない。
原告は、さらに、本願考案の一対の開閉フアスナーは鞄の高さの調節を可能にしているのに対し、周知のキヤスター付鞄に乙の構成を設けたものは、単に鞄内容積の拡大或は縮小が可能であるにとどまる旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第六号証によれば、引用例のものは、鞄の高さを調節することにより、鞄内容積を拡大或いは縮小させるものであると認められるから、周知のキヤスター付鞄に乙の構成を設けたものも、一対の開閉フアスナーにより鞄の高さの調節を可能にしたものということができる。原告の主張は理由がない。
(審決取消事由2について)
原告は、本願考案は(1)ないし(6)の格別の効果を奏するものであると主張する。
そこで、検討するに、(1)の手提げと車行の選択が可能であるとの効果は、本願考案の構成から生ずる通常のものであり、周知例及び引用例からは本願考案の構成に想到することができないというほどの格別のものではない。
原告は、効果(2)として、本願考案に係る鞄は、人の身長差に応ずる牽引高の融通性がよい点を挙げるが、本願考案は、「手提鞄としての底面の高さと把手吊持時に底部キヤスターが接地する底面高さとの間隔に相当する上下間隔を置いて一対の開閉フアスナーを全周にわたり囲繞するように設け」(実用新案登録請求の範囲の項)、フアスナーを開閉することにより、鞄の高低を調節するものにすぎず、人の身長差に応じて牽引高を調節できるものではないから、本願考案に原告が主張するような効果があるとは認められない。
原告主張の(3)ないし(6)の効果も、仮にそのような効果があるとしても、それは本願考案の構成から生ずる通常のものであり、そのような効果があるからといつて、その効果は周知例及び引用例から本願考案の構成に想到することを困難ならしめる程のものであるということはできないから、原告の主張はいずれも理由がない。
なお、原告は、本願考案の実施品又は類似品が出願後に爆発的売行きを示したことは、本願考案が進歩性を有することを証明するものである旨主張するが、本願考案が周知例及び引用例から当業者がきわめて容易に考案することができたものであることは、前述したところから明らかであり、本願考案の実施品又は類似品がある時期に爆発的売行きを示したとしても、前記の認定が左右されるものではなく、原告の主張は理由がない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
底体(A)にキヤスター(B)を固着配置した鞄において撓曲自由材によつて外被体を形成した大型鞄の胴側下方部の表面に手提げ鞄としての底面の高さと把手吊持時に底部キヤスターが接地する底面の高さとの間隔に相当する上下間隔を置いて一対の開閉フアスナーを全周にわたり囲繞するように設け、フアスナーの閉合の進行に伴ない閉合部の胴側外被体は鞄内に折曲げられて鞄内に囲繞の袋体を形成すると共に低丈化し、開口したときは胴部外被体下部は延ばされて高丈となる大型携行鞄。