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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)16号 判決 1984年6月28日

(行コ)第一三号、第一六号事件控訴人、(行コ)第三一号、第三二号事件被控訴人(第一審被告) 新潟県知事

右補助参加人 国 ほか三八名

代理人 水沼宏 東松文雄 村松日出男 ほか一〇五名

(行コ)第一三号事件被控訴人(第一審原告) 佐々木迪男 ほか四名

(行コ)第一六号事件被控訴人・(行コ)第三一号事件控訴人(第一審原告) 佐々木貞夫 ほか六名

(行コ)第一六号事件被控訴人(第一審原告) 松本照子 ほか一名

(行コ)第三一号事件控訴人(第一審原告) 柏田ゼン ほか二名

(行コ)第三二号事件控訴人(第一審原告) 佐々木寛 ほか五名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(一)  別紙A記載の番号1ないし5、7ないし13、15、17、18、22ないし24、26ないし28の各土地及び別紙B記載の番号1ないし8、10ないし12、15、18、20、21、23、31、32、36ないし48、50の各土地並びに別紙A記載の番号14の土地の五六一〇分の一九〇三、番号16の土地の四〇九〇分の二九四五、番号19の土地の九四一分の八二七、別紙B記載の番号9の土地の九六七分の五二〇、番号13の土地の一二二一分の九〇五、番号14の土地の二九七一分の二六六七、番号17の土地の五八九分の三一八、番号22の土地の六九〇分の一二四、番号24の土地の四九〇六分の三二三七、番号30の土地の八四七分の三〇五の各共有持分に関する本件訴えを却下する。

(二)  別紙A記載の番号16、25の各土地に関する第一審原告佐々木マス、同佐々木寛、同本間ヨシエの訴え及び別紙B記載の番号16、17、19、22、24ないし30、49の各土地に関する第一審原告塩川佳子、同駒形佳三、同金子愛子、同佐々木正枝、同佐々木康雄、同佐々木貞夫、同佐々木左次エ門の訴え(前項で却下した部分を除く。)をいずれも却下する。

(三)  別紙A記載の番号20、21の各土地、番号14の土地の共有持分五六一〇分の二〇七二及び別紙B記載の番号28、33の各土地についてされた右各別紙の「買収処分」「売渡処分」欄記載の各買収・売渡処分は無効であることを確認する。

(四)  第一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  第一審原告佐々木房之助と第一審被告との間で生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を第一審被告の、その余を右第一審原告の各負担とし、第一審原告佐々木嘉門と第一審被告との間で生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を右第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とし、第一審原告佐々木睦雄と第一審被告との間で生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一を第一審被告の、その余を右第一審原告の各負担とし、その余の第一審原告らと第一審被告との間で生じた訴訟費用は第一、二審とも右第一審原告らの負担とする。

第一審被告補助参加人国と第一審原告佐々木マス、同佐々木正賢、同佐々木寛、同本間ヨシエ、同佐々木嘉門、同柏田ゼン、同駒形佳三、同佐々木睦雄、同塩川佳子、同佐々木康雄、同佐々木貞夫、同金子愛子、同佐々木正枝、同佐々木佐次エ門との間で生じた補助参加による訴訟費用は右補助参加人の負担とし、その余の第一審被告補助参加人ら(別紙C及びDの「現在の権利者」欄に記載された者)と第一審原告らとの間で生じた補助参加による訴訟費用については、右欄に補助参加人名の記載されたそれぞれの土地に関する費用を、別紙A又は同Bの当該土地に対応する「地主(被買収者)」欄に記載された第一審原告ら(但し、別紙A中「佐々木高」「佐々木俊平」と記載された土地については第一審原告佐々木房之助、同佐々木迪男、同中山縫子、同佐々木正哉、同桑野敦子。「佐々木惣平」と記載された土地については第一審原告佐々木マス、同佐々木正賢、同佐々木寛、同本間ヨシエ。別紙B中「佐々木節子」と記載された土地については第一審原告佐々木貞夫、「佐々木賢慈」「佐々木ハル」と記載された土地については第一審原告佐々木睦雄、同塩川佳子、同駒形佳三、同金子愛子、同佐々木正枝、同佐々木康雄、同佐々木貞夫、同佐々木佐次エ門)の負担とする。

事実

〔当事者の求める裁判〕

一  第一審被告

(一)  原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

(二)  (主位的申立)右敗訴部分にかかる本件訴えを却下する。

(三)  (予備的申立)右敗訴部分にかかる第一審原告佐々木迪雄、佐々木房之助、中山縫子、佐々木正哉、桑野敦子、佐々木貞夫、佐々木正枝、佐々木睦雄、松本照子、塩川佳子、佐々木康雄、金子愛子、佐々木佐次エ門、駒形佳三の請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも右第一審原告らの負担とする。

二  第一審原告ら

(一)  原判決中第一審原告佐々木寛、佐々木嘉門、佐々木マス、佐々木正賢、本間ヨシエ、後藤欽二、佐々木貞夫、佐々木正枝、柏田ゼン、駒形(旧姓岩崎)佳三、佐々木睦雄、佐々木賢夫、藤井ケサ、塩川佳子、佐々木康雄、金子愛子の敗訴部分を取り消す。

(二)  第一審被告が原審昭和二八年(行)第二一号事件の原判決添付の買収売渡処分一覧表(一)の番号16ないし28記載の各土地及び原審昭和二九年(行)第一一号事件の原判決添付の買収売渡処分一覧表(一)の番号1ないし14、20、21、23、29、44ないし48記載の各土地についてした、右各一覧表記載の各買収処分及び売渡処分は、いずれも無効であることを確認する。

(なお、前記敗訴部分のうち訴え却下の部分にかかる請求については、更に相当の裁判を求める。)

(三)  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

〔主張〕

次のとおり付加又は訂正するほか、原判決事実摘示中「第二当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  (行コ)第一三号・第三二号事件(原審昭和二八年(行)第二一号事件)に関する主張の訂正等

(一)  原判決四枚目表二行目の「本件買収売渡処分」を「本件買収処分、本件売渡処分」と改め、六行目の「(二)」の次に「右佐々木高は」を加え、同じ行の「被買収者佐々木高は」を「被買収者でもあるところ、同人は」と改める。

(二)  同四枚目裏九行目の「である」を「内にある」と改める。

(三)  同五枚目表一行目の「換地計画」を「換地手続」と、五行目の「同組合長に」から七行目の終りまでを「の暫定措置として、個々の組合員の耕作すべき土地を組合長に指定させ、当該組合員は右指定にかかる土地を耕作してきた。」と、一〇行目の「指定したにとどまり」を「されたにとどまるものであつて」と、末行の「即ち」から五枚目裏一行目の「により」までを「このことは、組合長が」とそれぞれ改める。

(四)  同五枚目裏四行目の「指定をしていない」の次に「場合がある」を加え、六行目の「ところが」から八、九行目の「同農地委員会は」までを「自創法の施行に伴つて行われることとなつた耕地整理地域内の小作地を対象とする農地解放につき、同村農地委員会の職務を代行することとなつた新潟県農地委員会は」と改める。

(五)  同六枚目表九行目の「しかも」を「殊に、」と、一〇行目の「土地について」を「土地については、」と、一二行目の「原告と」を「被買収者である前記佐々木俊平、」と、「同」を「原告」とそれぞれ改め、末行の「及び訴外佐々木俊平」を削除する。

(六)  同九枚目裏六行目の「換地計画」を「換地手続」と、「同組合の」を「同組合が」とそれぞれ改める。

(七)  同一〇枚目表八行目の「そうかといつて」を「そうであるからといつて」と改める。

(八)  同一三枚目裏三行目の「不正形」を「不整形」と、一四枚目表一一行目の「買収していた」を「買収していなかつた」とそれぞれ改める。

二  (行コ)第一六号・第三一号事件(原審昭和二九年(行)第一一号事件)に関する主張の訂正等

(一)  原判決五枚目表九行目の「である。」を「内にある。」と改める。

(二)  同五枚目裏一行目の「換地計画」を「換地手続」と、五行目の「同組合長に」から七行目の終りまでを「の暫定的措置として、個々の組合員の耕作すべき土地を組合長に指定させ、当該組合員は右指定にかかる土地を耕作してきた。」と、一〇行目の「指定したにとどまり」を「されたにとどまるものであつて」と、末行の「即ち」から六枚目表一行目の「より」までを「このことは、組合長が」とそれぞれ改める。

(三)  同六枚目表四行目の「指定をしていない」の次に「場合がある」を加え、六行目の「ところが」から八、九行目の「同農地委員会は」までを「自創法の施行に伴つて行われることとなつた耕地整理地域内の小作地を対象とする農地解放につき、同村農地委員会の職務を代行することとなつた新潟県農地委員会は」と改める。

(四)  同七枚目表一〇行目、八枚目表六行目、一七枚目裏一一、一二行目の「岩崎佳三」を「駒形(旧姓岩崎)佳三」と、七枚目裏三行目の「柏田照子」を「松本(旧姓柏田)照子」とそれぞれ改める。

(五)  同八枚目表五行目の「自作農創設者」を削除し、八枚目裏四行目の「買収の対象の土地である」を「買収の対象たる土地の面積である。」と改める。

(六)  同一一枚目表一二行目の「換地計画」を「換地手続」と、「同組合の」を「同組合が」とそれぞれ改める。

(七)  同一二枚目表一行目の「そうかと言つて」を「そうであるからと言つて」と改め、三行目の「換地予定地の指定」の次に「」」を加える。

(八)  同一五枚目表五行目の「不正形」を「不整形」と改める。

(九)  同一八枚目表一〇行目の「柏田照子」、「岩崎貫一」の次にそれぞれ「名義」を加える。

(一〇)  原判決添付の別紙(一)の番号30及び番号49の土地に関する「解放前地主(原告)」欄に「佐々木賢蔵」とあるのを「佐々木賢慈」と改める。

三  当審における新主張

1  第一審被告

(一) 現在の権利関係に関する訴えによつて端的な救済が得られる場合、行政処分無効確認の訴えは確認の利益を欠くものというべきところ、第一審原告らは、本件買収・売渡処分の無効確認を訴求するまでもなく、その無効を前提として、本件各土地の被売渡人らを相手方とする本件各土地の所有権確認請求訴訟等を提起することにより、端的な救済を得られるのであるから、本件訴えは確認の利益を欠く不適法なものである。

(二) 仮に前項の主張が理由がないとしても、本訴請求は本件各土地の所有権の回復のみを目的とするものであるところ、本件各土地のうち別紙A、同B各記載の左記の番号の土地の所有権ないし共有持分権については、補助参加人らがこれを時効により取得し、取得時効を援用したので、本件訴えのうち右部分に関するものは訴えの利益を失つた(なお、従前地に対応する仮換地のうち一部のみについて買収がされている土地に関する共有持分割合の算出根拠は別紙E記載のとおりである。)。

(1) 別紙A記載の土地

1ないし5の所有権

7ないし10の所有権

11の共有持分権一二七四分の六一七

12の共有持分権一〇八三分の七七四

13の所有権

14の共有持分権五六一〇分の一九〇三

15の所有権

16の共有持分権四〇九〇分の三一七二

17ないし19の所有権

22の共有持分権一五三八分の一一九七

23の共有持分権二九四一分の五四三

24の所有権

26ないし28の所有権

(2) 別紙B記載の土地

1ないし18の所有権

20、21の所有権

22の共有持分権六九〇分の一二四

23の所有権

24の共有持分権四九〇六分の四七三八

30の共有持分権八四七分の三〇五

31、32の所有権

36ないし48の所有権

50の所有権

(三) 別紙A記載の番号1ないし15の土地及び別紙B記載の番号5ないし7、15ないし19、22、24ないし27、30、32ないし43、49、50の各土地の買収処分については、買収令書の交付が買収の時期よりも四年ないし六年経過したのちになされているが、本件事案においては、右買収令書の交付は、最高裁判所第一小法廷昭和四三年六月一三日判決が買収の適法要件として挙げる「買収計画の公告・承認後遅滞なく」された場合に該当するものというべきである。すなわち、右最高裁判所判決にいう意味で買収令書の交付が「遅滞なく」されたかどうかは、単に買収計画所定の買収の時期と買収令書交付との間に存する期間の長短のほか、買収令書の交付が遅れるに至つた事情、当該土地及びその周辺土地の状況、その他諸要因を検討して決すべきものであるところ、右四年ないし六年という経過期間の長さ自体からいつても未だ遅滞があつたとはいい難いのみならず、本件においては、更に、(イ)第一審被告は右各土地の被買収者たる第一審原告佐々木迪男らに対し買収令書を交付すべく、農地委員会を通じて数回にわたり文書又は口頭で受領するよう催告したが、同人らが受領しなかつたために買収令書の交付が遅れたものであつて、その原因は右被買収者らの不誠実な態度にあること、(ロ)買収計画樹立当時においても、買収令書交付当時においても、対象地の状況はもちろん、その周辺土地の状況も全く変化しておらず、買収令書交付当時においても買収の対価が不当なものとなつていなかつたこと、(ハ)特に被買収者らのうち第一審原告佐々木迪男、同佐々木房之助は、昭和二七年一二月二七日被買収地の一部(別紙Aの「取得時効の始期」欄及び「上記日時の占有者」欄に※印のある仮換地に対応する土地)を含む土地に関する農地交換調停において、買収処分が有効であることを当然の前提として、利害関係人として調停を成立させながら、その後に至つて買収処分の無効を主張していること等の事情が存するのであつて、これら諸事情を考慮するならば、本件における前記各買収令書の交付は遅滞なくされたものというべきである。

仮に右買収令書の交付が「遅滞なく」行われたといえず、この点において買収処分に重大な瑕疵があるとしても、その瑕疵は明白なものとはいえない。すなわち、前記買収令書の交付における瑕疵の有無は、前記のような諸要因を考慮すると、かなり微妙な問題であつて、何人の判断によつてもほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかであるとはいえない。したがつて、この点からいつても、買収令書の交付が遅れたことにより前記各買収処分が当然に無効であるということはできない。

(四) 仮に別紙B記載の番号28の土地の一部に非農地部分があつたとしても、右部分の面積が、それ自体あるいは買収対象地全体の面積に対する比率からいつて僅少である場合、右部分の存することは買収処分の重大かつ明白な瑕疵に当たらないものというべきであるから、単に非農地部分があることから直ちに買収処分を当然無効とすることはできない。

2  国以外の第一審被告補助参加人ら

(一) 本件各土地のうち、別紙C及び同Dの「現在の権利者」欄に補助参加人らの氏名が記載されている各土地(次の(二)項記載の各土地を除く。)については、同欄記載の補助参加人らが所有権(右各別紙の「時効取得した持分の割合」欄に1/1とある土地の場合)又は共有持分権(右以外の土地の場合。共有持分の割合は同欄記載のとおり)を時効取得した。すなわち、これらの土地は、それぞれ右各別紙の「取得時効の始期」欄記載の日を売渡期日として右各別紙の「上記日時の占有者」欄記載の者が政府から売渡を受けた土地であるが、当時耕地整理中であつたため、右の者ら(又はこれらの者から更に相続・贈与等(その内容は右各別紙の「占有又は権利承継の事由」欄記載のとおり)により占有を承継した右各別紙の「現在の権利者」欄記載の者)は、売渡を受けた従前地を所有する意思でその全部又は一部に対応する仮換地を継続して耕作し、現在に至つているものであつて、占有の始めに善意・無過失であつたから、売渡を受けた日から一〇年を経過した時点において、右占有にかかる仮換地に対応する従前地の所有権又は共有持分権を時効取得したものである(但し、別紙B記載の番号50の土地のみは耕地整理の対象外であるため当該土地そのものにつき占有が継続され、取得時効が完成したものである。)。仮にそうでないとしても、売渡を受けた日から二〇年を経過した時点において、右所有権又は共有持分権を時効取得したものである。よつて、右補助参加人らは右取得時効を援用する。なお、右共有持分権の割合は、それぞれの従前地に対応する仮換地全体の面積に対して各耕作者の占有する土地の面積が占める割合に基づいて算出したものである。

(二) 本件各土地のうち別紙Cの「取得時効の始期」欄及び「上記日時の占有者」欄に※印のある仮換地に対応する従前地は、昭和二七年一二月二七日新潟地方裁判所の農事調停において、交換により第一審原告佐々木迪男(同人は政府から右土地の売渡を受けた。)から金子金三郎(補助参加人金子久男の父)及び中塚宗蔵(補助参加人中塚宗蔵の父)が取得し、遅くとも調停条項による引渡期限である昭和二七年一二月三一日以後右両名は右仮換地を従前地所有の意思で占有するに至つた。そして、右両名は、占有の始めにおいて善意・無過失であつたから、占有開始から一〇年を経過した時点において、占有にかかる仮換地に対応する従前地の共有持分権(その割合は別紙Cの「時効取得した持分の割合」欄記載のとおり)を時効取得した。仮にそうでないとしても、右占有開始の日から二〇年経過したことにより取得時効が完成した。よつて、右補助参加人らは右取得時効を援用する。右共有持分の算出根拠は、(一)項の各土地の場合と同様である。

3  第一審被告補助参加人国

本件各土地のうち、別紙C及び同Dの「現在の権利者」欄に「国」と記載されている各土地については、補助参加人国が所有権(別紙D記載の番号16の土地の場合)又は共有持分権(その割合は、別紙C記載の番号16の土地につき四〇九〇分の二二七、番号19の土地につき九四一分の一一四、別紙D記載の番号9の土地につき九六七分の四四七、番号13の土地につき一二二一分の三一六、番号14の土地につき二九七一分の三〇四、番号17の土地につき五八九分の二七一、番号24の土地につき四九〇六分の一五〇一)を時効取得した。すなわち、右各土地は、国が昭和二三年二月二日あるいは昭和二四年七月二日自創法の規定に基づき第一審原告らから買収したものであるが、当該土地を耕作していた小作農らから買受けの申込がされなかつたり、買受申込をした関係者が買い受ける資格を有しなかつたりしたために売渡がされず、以来そのまま国の所有となつているものである。右土地は当時耕地整理中であつたため、国は、その全部又は一部に対応する仮換地を買収以前からの耕作者らに賃貸し、これらの者に耕作させることによつて買収した従前地を所有する意思で右仮換地の代理占有を継続し、現在に至つているものであり、占有の始めにおいて国は善意・無過失であつたから、買収後一〇年を経過した時点において、右従前地の所有権又は共有持分権を時効取得した。仮にそうでないとしても、買収した日から二〇年を経過したことにより、取得時効は完成した。

4  第一審原告ら

第一審被告補助参加人らの取得時効に関する主張はすべて否認する。本件各土地については仮換地の指定はされておらず、仮に仮換地指定がされているとしても、第一審被告、同補助参加人らの主張する従前地と仮換地との対応関係は土地の位置、範囲、地積において実際と相違している。また、第一審原告らが本件訴え提起以前から本件各土地の買収、売渡の無効を第一審被告補助参加人らに対して主張していたのであるから、その占有は平穏なものではなかつた。

〔証拠〕<略>

理由

一  第一審被告の本案前の主張及び本件買収・売渡処分の内容等について

(一)  第一審被告は、本件各買収・売渡処分が無効であるとすれば、第一審原告らは本件各土地の所有権確認請求等の現在の権利関係に関する訴えを提起することによつて目的を達しうるのであるから、右各処分の無効の確認を求める本件訴訟は確認の利益を欠くと主張する。

しかしながら、本件の訴えは現行の行政事件訴訟法が施行される以前に提起されたものであるところ、当時効力を有した行政事件訴訟特例法には行政処分の無効確認訴訟の適法要件に関する明文の規定は存しないが、同法の下では、この種訴訟における確認の利益については緩やかに解され、原告が現在の権利関係に関する確認の訴え等によつて目的を達することが可能な場合であつても、そのことは当然に行政処分の無効確認訴訟に関する訴えの利益を失わしめるものではないとされていたのであり、このことは、後記の行政事件訴訟法附則八条一項の規定が存することによつても裏付けられている。その後、行政事件訴訟法が昭和三七年に施行され、同法三六条において、行政処分の無効確認訴訟の原告適格の問題(それは、原告の立場からみれば確認の利益の問題である。)につき、行政処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り右訴訟を提起できる旨が定められたが、同法附則八条一項によれば、取消訴訟以外の抗告訴訟で同法施行の際現に係属しているものの原告適格については、なお従前の例によるものとされているのであるから、同法の施行によつて本件訴訟における第一審原告らの確認の利益が失われたものということはできない。したがつて、この点に関する第一審被告の主張は理由がない。

(二)  ここで、本件各買収・売渡処分の内容について検討する。

別紙A記載の番号4の土地の買収面積、番号11、12、17、18、23の土地の買収・売渡年月日、番号14、19、28の土地の買収・売渡の範囲、番号16の土地の売渡年月日、売渡先及び売渡の範囲、番号20、21の土地の買収・売渡そのもの、別紙B記載の番号5、6、24、42、43の土地の買収・売渡年月日、番号7の土地の買収・売渡年月日及び売渡面積、番号8、25ないし29、49の土地の売渡先、番号20、21、50の土地の買収面積、番号19、23の土地の地番、番号30の土地の買収・売渡年月日及び売渡先、番号9、32の土地の買収範囲の点を除き、右各別紙記載のとおり自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)に基づく買収・売渡処分がされたことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠略>によれば、別紙A記載の番号20、21の各土地の買収・売渡の点及び共有持分の買収の点は別として(これらについてはのちに判断する。)、右争いのある事項を含め、本件の買収・売渡処分の内容は別紙A及び同B記載のとおりであると認定することができる。

別紙A記載の番号19、28の土地につき、第一審原告らは山林部分も合わせて買収されたと主張するが、前記認定に供した証拠によれば、買収の対象となつたのは別紙Aの該当欄記載の水田部分のみと認められる。

また、別紙B記載の番号9の土地につき、第一審原告らは一筆の土地の一部のみが買収されたと主張し、<証拠略>(買収令書添付の土地目録)には「一〇四〇の内」と一部買収であるかのような記載があるが、その摘要欄には「一一〇六全筆買収」なる記載があり、<証拠略>によれば右土地の土地台帳上の面積は一反一畝六歩であるから、一筆全部が買収されたものと認められる。更に、第一審原告らは、別紙B記載の番号16ないし13の土地についてはそれぞれ一筆の土地の一部を買収したものであるのに、結果においては全部買収されたことになつていると主張する。しかし、右各土地についてはその一部分のみが買収されたものであることは前認定のとおりであり、<証拠略>の買収令書添付目録にもその旨明記されている。第一審原告らが右各土地が全部買収されたことになつているとする趣旨は明確ではないが、いずれにせよこの点につき買収・売渡処分の効力に影響を及ぼすような違法がないことは明らかである。

(三)  次に、第一審被告及び同補助参加人らは、同補助参加人らの取得時効が完成したことによつて本件訴訟における第一審原告の確認の利益は失われた旨主張するので、この点について判断する。

(1)  国以外の補助参加人らの取得時効の援用について

<証拠略>によれば、別紙C及び同Dの「時効取得した持分の割合」欄に数字の記載のある各土地については、「上記日時の占有者」欄記載の者(又は「占有又は権利承継の事由」欄記載の事由により右の者から占有を承継した同欄又は「現在の権利者」欄記載の者)が「取得時効の始期」欄記載の日以降「対応する仮換地」欄記載の各土地の占有を継続して今日に至つていることが認められる。そして、上記の事実関係からすると、これら占有者「上記日時の占有者」欄に※印のある者を除く。)は国から売渡を受けて当該土地の占有を開始したのであるから、所有の意思をもつて当該土地を占有するものと推認され、かつ、その占有の開始にあたつて善意・無過失であつたと認めることができる。また、別紙C及び同Dの「上記日時の占有者」欄に※印の付されている各土地に関しては、<証拠略>によれば、昭和二七年一二月二七日新潟地方裁判所で成立した農事調停(同裁判所昭和二七年(セ)第一五号事件)の結果、佐々木迪男が国から売渡を受けた右各土地を中塚宗蔵、金子金三郎が取得することになり、これに基づいて右両名は同月三一日以降右各土地を占有するに至つたことが認められるから、右両名は所有の意思をもつて右占有を継続し、かつ、占有の開始にあたつて善意・無過失であつたものと認められる。なお、民法一八六条の規定により以上の各占有は平穏のものと推定されるところ、第一審原告らは、右各占有は平穏のものではないと主張する。しかし、第一審原告らが当該土地の所有権を主張し右占有者らがこれを知つていたというだけで占有の平穏性が失われるものではなく、他に右各占有が平穏のものでなかつたことを認めるに足りる証拠はない。

そこで、右占有にかかる各土地と本件各買収・売渡処分の対象たる各土地との関係についてみると、(1)前記買収・売渡処分の対象となつた各土地は、別紙B記載の番号50の土地を除き、いずれも新潟県佐渡郡西三川村の小布勢耕地整理組合(以下「組合」という。)が大正一四年五月以降山林開墾による水田造成の耕地整理工事を施行していた地域(以下「耕地整理地区」という。)内にあること、(2)右工事は昭和一一年八月計画どおりに完成したが、灌漑用水を当初の計画水量に達するまで得られず、水田としての耕作可能範囲が耕地整理地区全域の四割ないし七割程度にとどまり、換地手続の進行は停滞したこと、(3)そこで、組合は、組合規約三二条の規定により、将来耕地整理地区全域の水田耕作が可能となり換地処分ができる状態になるまでの暫定的措置として、組合員の耕作すべき土地を組合長に指定させ、当該組合員は右指定にかかる土地を使用していたこと、以上については当事者間に争いがない。そして、耕地整理法施行規則九条は「規約ニハ耕地整理法又ハ本則ニ規定アルモノノ外左ノ事項ヲ記載スヘシ」と定め、その第一〇号に「耕地整理法第三〇条第四項ノ告示(換地処分の認可の告示)前ニ於ケル土地使用ニ関スル規定」を掲げているが、<証拠略>によれば、前記組合規約三二条には「耕地整理法第三十条第四項ノ告示前ニ於テハ工事ニ妨ケナキ限リ組合員ハ其ノ所有地ヲ使用スルコトヲ得但シ従前ノ地域ニヨリ之ヲ使用スルコト能ハサルトキハ組合長ハ相当ナル使用区域ヲ指定スルモノトス」と定められており、これは前記施行規則の規定に基づくものと解される。また、<証拠略>原審昭和二八年(行)第二一号事件における検証の結果、<証拠略>によれば、耕地整理地区のほぼ全域にわたつて、面積等において従前の土地の各筆にほぼ対応する土地区画が「仮配当地」として定められ、これに仮の地番が付されたこと、右仮配当地にはそれぞれ使用権者が定められたこと、耕地整理事業により耕地整理地区内の土地の区画、形状は全面的に改まり、従前の土地の位置・境界は不明となつたことがそれぞれ認められる。以上の事実並びに<証拠略>に照らせば、前記の組合長による使用すべき土地の指定は、組合員に対し従前の土地の使用を禁止する一方、換地処分までの間これに代えて組合員の使用すべき土地を指定したものであり、いわゆる仮換地の指定たる性質を有するものと解するのが相当である。もつとも、<証拠略>によれば、一、二の組合員は仮配当を受けなかつたことが認められるが、それがどのような事情に基づくのかは明らかでなく、右事実は上記認定を動かすに足りない。また、<証拠略>も上記認定を覆すに足りず、他にこれを動かすに足りる証拠はない。

そうすると、前記占有者らは、占有開始から一〇年を経過することにより占有した仮換地に対応する従前地の所有権を時効取得したものというべきである。

なお、第一審原告らは、本件各買収処分は従前地の地番によつてされたが、耕地整理の工事が完了して従前地が原形を消失していたので、そのいずれの部分を対象としたものか不特定、不明確であると主張する。もし、右主張のとおり買収処分の対象が特定されないとすれば、ひいては前記補助参加人らによる仮換地の占有も、これに対応する従前地の特定を欠くことになり、取得時効を完成せしめえないと考えられる。しかしながら、本件買収の対象となつた従前地が耕地整理工事によりその原形をとどめていないことは前記のとおりであるが、地番等によつて買収の対象たる土地を観念的に特定できる以上、その具体的な位置・範囲を明らかにすることができなくても、買収処分の効力はなんら害されるものではない。また、第一審原告らは、殊に一筆の土地の一部の従前地が買収の対象とされた別紙A記載の番号5、6、11、12、15の各土地及び別紙B記載の番号29の土地については買収の範囲が特定されていない旨主張するが、<証拠略>によれば、右のうち、別紙A記載の番号5、15の土地は別紙Cの当該土地に対応する「上記日時の占有者」欄に記載された者がそれぞれ耕作していた仮換地に対応するところの従前地であり、別紙B記載の番号29の土地は当時開田されていた仮換地に対応するところの従前地であり、それぞれ一筆の土地のうちの耕地整理地区内に存する部分としてその範囲は特定されていたものであること、また、別紙A記載の番号6の土地は佐々木登の耕作する仮換地部分と被買収者の自作する仮換地部分とに対応する従前地、番号11、12の土地は佐々木迪男の耕作する仮換地部分と被買収者の自作する仮換地部分とに対応する従前地であるが、買収処分は、佐々木登、佐々木迪男の耕作する右各仮換地部分に着目し、これに対応する従前地を対象としてされたものであることが認められる。もつとも、右各仮換地部分と従前地の特定部分との間に対応関係が存したことを認めるべき証拠はないから、結局買収処分は右各仮換地部分が仮換地全体に対して占める面積の割合に応じ従前地の共有持分を対象としてなされたものと解すべきであるが、いずれにせよ買収対象の不特定による違法があるとはいえない。

なお、<証拠略>、別紙A記載の番号14、16、22、23の各土地の買収も、右と同様従前地の共有持分を対象としたものと認められる。

ところで、<証拠略>によれば、占有された仮換地と従前地との対応関係は別紙C及び同D記載のとおりであることが認められるが、これによつて明らかなように、本件では、(イ)一筆の従前地に対して数区画の仮換地が指定され、これにつきそれぞれ別の者への売渡がされ、取得時効が完成した場合や、(ロ)一区画(通常は一筆の土地だが、その一部のこともある。)の従前地に対応する数区画の仮換地のうち一部の区画のみについて取得時効が完成した場合(その中には前記のように買収そのものが一部の区画のみを対象としてされた場合も含まれる。)がある。これらの場合においては、売渡を受け、所有の意思をもつて仮換地の一部の占有を継続した者は、当該仮換地部分が(一区画の従前地に対応する)全体の仮換地の中で占める面積の割合に応じて、従前地の共有持分を取得するものというべきであり、その共有持分の割合は、<証拠略>によれば、別紙C及び同Dの「時効取得した持分の割合」欄に示したとおり(なお、前記(ロ)のうち買収そのものが仮換地の一部分のみを対象としてされた場合における共有持分の算定根拠は別紙E記載のとおり)であると認められる。

国以外の第一審被告補助参加人は本訴訟において右取得時効を援用するところ、このように買収・売渡処分にかかる土地について第三者の取得時効が完成し、右買収・売渡処分の無効確認訴訟において当該第三者が補助参加人として右時効を援用したときは、原告が土地の所有権の回復以外に特に右処分の無効確認を求めるにつき法的利益を有することが認められない限り、その訴えは確認の利益を欠くものとして不適法となるものと解すべきである(最高裁判所昭和四七年一二月一二日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号一八五〇頁参照)。本件において第一審原告らは右法的利益の存することについてなんら主張立証しないので、本件訴えのうち右時効取得にかかる土地又は土地共有持分にかかるものは不適法といわなければならない。

(2)  補助参加人国の取得時効の援用について

第一審被告及び同補助参加人国は、別紙A記載の番号16、19の土地及び別紙B記載の番号9、13、14、16、17、24の土地について、国がこれを買収したのちこれに対応する仮換地の全部又は一部を所有の意思をもつて一〇年又は二〇年にわたり占有したことにより当該土地の所有権又は共有持分を時効取得した旨主張する。

しかしながら、自創法に基づいて都道府県知事が買収令書を作成・交付して土地の買収を行う場合、都道府県知事は国の機関としてこれを行うものであることは、同法九条等の規定に照らして明らかである。したがつて、右買収処分をした行政庁である都道府県知事に対する右処分の無効確認の訴えの提起は、国に対する裁判上の請求としての実質を有し、国が買収した土地をそのまま占有している場合、その取得時効の中断事由たりうるものといわなければならない。そして、本件の訴えが提起されたのが昭和二八年及び昭和二九年であることは記録に徴し明らかであるから、これによつて国の取得時効は中断したものというべきである。もつとも、本訴訟において第一審原告らは、国の取得時効援用に対し本件訴え提起が中断事由となる旨を特に主張してはいないのであるが、右訴え提起があつたことは本件訴訟関係成立の前提をなす事実であるから、特に口頭弁論において主張されなくても、これを訴訟資料とすることを妨げないものと解すべきである。

したがつて、国の取得時効完成によつて訴えの利益が消滅したとの前記主張は、採用することができない。

二  被買収者の権利義務の承継について

(一)  記録中の除籍謄本、戸籍抄本によれば、別紙A記載の番号6の土地の被買収者である佐々木高は昭和四〇年六月四日死亡し、その子である第一審原告佐々木房之助、同佐々木迪男、同中山縫子、同佐々木正哉、同桑野敦子が相続により同人の権利義務を承継したことが認められる。

(二)  記録中の除籍謄本、戸籍謄抄本によれば、別紙A記載の番号16、25の各土地の被買収者佐々木惣平は昭和三〇年六月一七日に死亡し、第一審原告佐々木マスはその妻、同佐々木正賢、佐々木寛、同本間ヨシエにその子であるが、これより先惣平は昭和二二年三月一九日に隠居の届出をし、佐々木正賢が家督相続をしたことが認められるから、右土地に関する本件請求については、右第一審原告らのうち正賢以外の者は原告適格を有しないものというべきである。

(三)  <証拠略>及び記録中の除籍謄本、戸籍抄本によれば、別紙B記載の番号19、22、24ないし30、33、35、49の各土地の被買収者である佐々木賢慈は昭和三九年五月二九日に死亡し、第一審原告佐々木睦雄(三男)、同塩川佳子(養女)、同駒形佳三(養子)、同金子愛子(三女)、同佐々木正枝(四女)、同佐々木康雄(養子)、同佐々木貞夫(二女である亡佐々木節子――昭和二三年三月二五日死亡――の養子)及び亡佐々木ハル(妻。同女は昭和四二年一月二五日死亡し、その相続人は前記第一審原告ら及び第一審原告佐々木佐次エ門)らは、新民法によればその相続人たるべきものであるが、賢慈は、その生前の昭和二一年一〇月二八日に隠居の届出をし、佐々木睦雄が家督相続をしたことが認められるから、右各土地(但し賢慈とハルの共有であつた番号34、35の各土地を除く。)に関する本件請求については、右第一審原告らのうち睦雄以外の者は原告適格を有しないものというべきである。

(四)  別紙B記載の番号34、35、42、43の各土地の被買収者である佐々木ハルが昭和四二年一月二五日死亡し、第一審原告佐々木睦雄、同塩川佳子、同駒形佳三、同金子愛子、同佐々木正枝、同佐々木康雄、同佐々木貞夫、同佐々木佐次エ門が相続によりその権利義務を承継したことは、前記のとおりである。

三  本案について

(一)  前記のように国以外の補助参加人につき取得時効の完成が認められ、その限度で訴えの利益が否定される結果、本案の審理を必要とするのは次の各土地に対する買収・売渡処分の効力の有無である。

(1)  別紙A(別紙C)記載分

(イ) 番号6、20、21、25の各土地

(ロ) 番号14の土地の共有持分五六一〇分の二〇七二(右共有持分の割合は、<証拠略>によつて認められる仮換地の総面積五六一〇坪を分母とし、右五六一〇坪から同じく<証拠略>によつて認められる自作部分(したがつて買収の対象外となつたもの)合計一六三五坪、時効取得のための占有の対象となつた部分合計一九〇三坪を控除した残りの二〇七二坪を分子としたもの)

(ハ) 番号16の土地の共有持分四〇九〇分の二二七

(右共有持分の割合は、<証拠略>によつて認められる仮換地の総面積四〇九〇坪を分母とし、右四〇九〇坪から同じく<証拠略>により買収の対象外とされたと認められる部分合計九一八坪、時効取得のための占有の対象となつた部分合計二九四五坪を控除した残りの二二七坪を分子としたもの)

(ニ) 番号19の土地の共有持分九四一分の一一四(右共有持分の割合は、<証拠略>によつて認められる仮換地の総面積九四一坪を分母とし、右九四一坪から時効取得のための占有の対象となつた部分合計八二七坪を控除した残りの一一四坪を分子としたもの)

(なお、右(ロ)ないし(ニ)に挙げた土地のほか、番号11、12、22、23の各土地については時効取得された共有持分の合計が1に達しないが、それはもつぱら買収されたのが一筆の土地の全部ではなくその共有持分であるためであり、買収された共有持分はすべて補助参加人らによつて時効取得されている。)

(2)  別紙B(別紙D)記載分

(イ) 番号16、19、25ないし29、33ないし35、49の各土地

(ロ) 番号9の土地の共有持分九六七分の四四七

(右共有持分の割合は、<証拠略>によつて認められる仮換地の総面積九六七坪を分母とし、右九六七坪から時効取得のための占有の対象となつた部分合計五二〇坪を控除した残りの四四七坪を分子としたもの。以下(ハ)ないし(チ)についても右と同様の算出方法による。)

(ハ) 番号13の土地の共有持分一二二一分の三一六

(ニ) 番号14の土地の共有持分二九七一の三〇四

(ホ) 番号17の土地の共有持分五八九分の二七一

(ヘ) 番号22の土地の共有持分六九〇分の五六六

(ト) 番号24の土地の共有持分四九〇六分の一六六九

(チ) 番号30の土地の共有持分八四七分の五四二

(二)  別紙A記載の番号20、21の各土地に対する買収・売渡処分の有無について

<証拠略>によれば、西三川ほNo.5の昭和二三年三月三一日付買収令書(<証拠略>)には、同年二月二日に第一審原告佐々木嘉門所有の大字田辺須字キリギリス野五〇六番一の田六畝二二歩と同所五〇六番二の山林一反二畝一四歩を買収する旨の記載があること、右キリギリス野五〇六番一、同番二の土地は耕地整理地区外にあるにもかかわらず、右買収令書の摘要欄には右五〇六番一の土地につき小布勢耕整田仮番三五四と、右五〇六番二の土地につき同じく仮番三五七と、右各土地が耕地整理地区内にあることを示すと思われるような記載が存すること、別紙Aの該当欄記載のとおり、右買収土地のうち六畝二二歩は佐々木謹吾に、六反三畝二五歩は佐々木佐仲にそれぞれ売り渡されたが、右両名や被買収者佐々木嘉門は、右買収・売渡処分の対象とされた土地を、土地区画整理地区内にあり従前からその仮換地を佐々木佐仲及び佐々木謹吾が耕作していた志なの木山五〇八番三の土地六反三畝二五歩に当たるものと信じていたこと、志なの木山五〇八番三の土地とキリギリス野五〇六番一、同番二の各土地とは互いに近い場所にあること、キリギリス野五〇六番一、同番二の各土地は、その大部分が佐々木嘉門の自作地、一部が山林であり、前記買収処分後も引続き同人が占有使用していることがそれぞれ認められる。他方、<証拠略>の耕地整理地区内の土地に関する仮配当関係綴にはキリギリス野五〇六番一の土地に対応する仮換地の仮番が三五三番と、同五〇六番二の土地に対応する仮換地の仮番が三五四ないし三五七番と記載されていることが認められ、また、<証拠略>によれば、前記買収・売渡処分に基づきキリギリス野五〇六番一、同番二の土地については佐々木佐仲、佐々木謹吾の所有名義に登記されていることが認められる(なお、耕地整理地区内の土地の位置関係を従前地の地番と仮換地の仮番とについてそれぞれ図示した<証拠略>とを対比すると、五〇八番三の従前地(志なの木五〇八番三の土地を意味すると思われる。)の位置は仮番三八二ないし三八五番の仮換地に指定され、仮番三五四なる仮換地は図上に表示されておらず、仮番三五七なる仮換地は二八九番の従前地の位置に指定されていて、仮換地の位置のうえで買収令書記載の前記二筆の土地が志なの木山五〇八番三の土地であることを推測させるような点は格別見出せない。)。

以上によれば、前記キリギリス野五〇六番一、同番二の各土地の買収・売渡は、現地の志なの木山五〇八番三の土地に対応する仮換地をこれらの土地に対応するものと誤信した結果なされたものである疑いが濃厚である。しかし、買収令書の記載自体によつてはもとより、これと前記のような仮換地関係の書類とを照合しても、客観的にみて、買収令書等に記載された対象地が志なの木山五〇八番三の土地であり、行政庁が処分にあたつて右土地を対象としたものであることを推知するに足りないといわざるをえないから、右買収・売渡処分は志なの木五〇八番三の土地を対象としたものであり、第一審原告らの主張するようなキリギリス野五〇六番一、同番二の各土地を対象とする買収・売渡処分は存在しないということはできない。

(三)  買収令書の未交付の主張について

第一審原告らは、別紙A記載の番号6、14、別紙B記載の番号9、13、14、16、17、19、22、24ないし27、30、33ないし35、49の土地(前記のとおり取得時効の完成により訴えの利益が失われた土地は除外してある。以下においてもこれに準ずる。)については本訴訟の提起までに被買収者に買収令書が交付されなかつたから右買収処分は無効であると主張する。

<証拠略>によれば、別紙A記載番号6、14の各土地については昭和二九年二月一八日ごろに、別紙B記載の番号9、13、14の各土地については昭和二三年四月三〇日ごろに、同じく番号16、17、19、22、24ないし27、30、33ないし35、49の各土地については昭和二九年六月二六日ごろにそれぞれの被買収者らに対し買収令書が交付されたことが認められる。

右によれば、別紙B記載の番号9、13、14の各土地の買収令書の交付については瑕疵はないが、その余の昭和二九年中に買収令書が交付された前記各土地については、買収の時期から約五年又はそれ以上の期間を経たのちに買収令書が交付されたことになるところ、右期間中における社会・経済事情の変動が相当著しいものであつたことは公知の事実であることをも考慮すると、右のような買収令書交付の遅延があつた以上、原則として買収処分に重大かつ明白な瑕疵があるものというべきであり、ただ、それが既にされた交付の瑕疵を補正する目的でされたものであるなど、買収の時期に遡つて買収の効果を生ぜしめることが処分の適正や法的安定を害しないと認めるに足りる特別の事情が存する場合に限つて、右買収令書交付の遅延は買収処分の無効を来さないものと解すべきである。

その方式及び趣旨により真正に成立した公文書と推認される<証拠略>によれば、西三川村農地委員会の書記であつた岡崎愷補は昭和二四年夏ごろ佐々木高が局長をしていた郵便局に同人を訪ね、別紙A記載の番号6の土地の買収令書を同人に交付しようとしたが、同人は受領を拒否したので、同人の机の上に右買収令書を置いて立ち去つたところ、その日の夕方郵便配達人の今城栄蔵が農地委員会事務局の窓口に右買収令書を持参して置き去りにしたこと、佐々木賢慈は昭和二三、四年ごろ農地委員会事務局のある村役場に頻繁に来ており、その際岡崎愷補は何度も賢慈に対し別紙B記載の番号16、17、19、22、24ないし27、30、34、35、49の各土地の買収令書を交付しようとしたが、受領を拒否されたことが認められ、また、<証拠略>によれば、右別紙B記載番号34、35の土地の共有者である佐々木賢慈と佐々木ハルは夫婦であり、同居していたことが認められる。右事実関係からすると、別紙A記載の番号6の土地については、前認定の買収令書の交付に先立つて昭和二四年夏ごろに既にいつたん買収令書の交付があつたものというべきであり、また、別紙B記載の番号16、17、19、22、24ないし27、30、34、35、49の各土地に関する買収令書の交付の遅延についても、それによつて買収処分の無効を来さない特別の事情が存するものというべきである。

もつとも、前記のとおり右各土地の所有者であつた佐々木賢慈は昭和二一年一〇月二八日に隠居の届出をし、佐々木睦雄がその権利義務を承継していたのであるから、佐々木賢慈を被買収者とする右各土地の買収はそもそも買収の相手方を誤つていたことになるが、右のように賢慈が右各土地の前所有者であつた事実に加え、<証拠略>によれば、本件買収処分当時右各土地の登記簿上の所有名義人は賢慈であつたこと、睦雄は右各土地の買収処分を了知していたこと、第一審被告は買収処分当時右各土地の所有者が賢慈でなく睦雄であることを知らなかつたことが窺われ、これら事実関係からすると、前記の買収の相手方の誤認の瑕疵は、明白性を欠き、買収処分を無効ならしめるものではないというべきである(このことは、佐々木賢慈を被買収者とするその余の土地の買収及び同人と同様買収処分前に隠居の届出をした佐々木惣平を被買収者とする買収についても同様である。)。

別紙A記載の番号14の土地については、<証拠略>によれば、被買収者である佐々木房之助は佐々木高と親族関係にあるところから、岡崎愷補は、前記のように佐々木高に対し郵便局で別紙A記載の番号6の土地の買収令書を交付した際、これと一しよに右番号14の土地の買収令書も佐々木高に交付したことが認められるが、右交付は当然に佐々木房之助に対する買収令書の交付としての効果を有するものではないから、これによつて右番号14の土地に対する買収処分が買収令書交付の遅延にもかかわらず無効でないということはできない。

以上によれば、買収令書の交付が遅延したことによつて無効となるのは、別紙A記載の番号14の土地(但し共有持分五六一〇分の二〇七二のみ)と別紙B記載の番号33の土地に対する買収処分及び右買収処分を前提とする右各土地の売渡処分である。

(四)  道路・水路用敷地の買収の主張について

第一審原告らは、別紙A記載の番号6、16、19、別紙B記載の番号13、14、16、17、24、26、27、30、49の各土地については、非農地である道路・水路用敷地(各原判決の各別紙(一)の「道渠敷」欄記載の土地)が含まれているにもかかわらず、全部を農地として買収した違法がある旨主張する。

しかしながら、第一審原告ら主張の道路・水路敷地なるものが仮換地の結果設定されたものであることは、その主張に照らし明らかであるところ、<証拠略>によれば、本件買収処分は、前記のように耕地整理事業の一環として仮換地の指定がされたのちに、右仮換地のうち農耕に供されているものに着目し、その利用状況に基づいて買収対象としての適格性を判断し、かかる適格性を有する仮換地に対応する従前地を買収したものである。そして仮換地の指定がされている土地につき買収の要件としての土地の利用状況のいかんを判断するにあたつては、右のように仮換地の利用状況を基準とすべきものと解されるが、仮換地指定が行われた結果道路敷や水路敷とされる部分は、本来の意味での仮換地指定の対象外であり、従前地との対応関係を元来有しないものと考えられるから、たまたま仮換地指定に際し、なんらかの必要から、個々の従前地に対応する形で、農地となるべき本来の仮換地のほかに道路敷、水道敷となるべき部分が想定、算出されていても、これによつて従前地の全体を農地として買収の対象とすることが妨げられるものではない。したがつて、第一審原告らの前記主張は失当である。

(五)  自作地の買収の主張について

別紙A記載番号20、21の各土地の大部分が第一審原告佐々木嘉門の自作地であり、残る一部は山林であることは、前認定のとおりであるから、右各土地を小作地として買収することはできない。また、そのほか右各土地について自創法のいずれかの規定による買収の要件が具わつていたことについては主張・立証がない。したがつて、右各土地に関する買収・売渡処分は買収適格を欠く土地を対象とするものであるところ、第一審被告が右各土地を買収要件を具備するものと誤認するに至つた事情についても格別の主張・立証はないから、右買収・売渡処分には重大かつ明白な瑕疵があつたものと認めるのを相当とし、右各土地は無効というべきである。

(六)  超過買収の主張について

第一審原告らは、別紙B記載の番号9の土地は第一審原告柏田ゼンの、同番号13、14の各土地は第一審原告駒形佳三の各保有面積内の土地であり、同番号19、22、24ないし27、49の各土地は、亡佐々木賢慈の自作地であつて、しかも同人の保有面積内に含まれるものであり、同番号34、35の各土地は、亡佐々木賢慈及び佐々木ハルの自作地であつて、しかも同人らの保有面積内に含まれるものであるところ、第一審被告はこれら土地を誤つて超過買収したものである旨主張する。

<証拠略>によれば、別紙B記載の番号9、13、14の各土地は昭和二〇年一一月二三日当時亡佐々木賢慈の所有だつたものであり、第一審被告は自創法六条の二、三条一項三号の規定により、いわゆる遡及買収としてこれを買収したものであることが認められる。そうすると、右各土地が買収当時の所有者である柏田ゼンや駒形佳三にとつていわゆる保有面積内の土地であるかどうかは買収処分の効力を左右するものではなく、この点に立脚する第一審原告らの主張は失当である。

次に、佐々木賢慈、佐々木ハルの所有にかかる前記各土地についてみると、<証拠略>によれば、本件買収処分当時別紙B記載の番号19、22、24、49の各土地は小作地であり、番号25ないし27、34、35の各土地は自作地であつたが、右自作地たる各土地は自創法三条五項一号の規定によつて買収されたものであることが認められる。したがつて、これら土地が自作地であることによつて買収処分が違法となるものではない。また、<証拠略>によれば、佐々木賢慈と佐々木睦雄は親子で右買収の当時西三川村で同居していたことが認められ、佐々木賢慈と佐々木ハルが夫婦であることは前認定のとおりである。そして、自創法四条一項によれば、農地買収に関する同法三条の規定の適用については農地の所有者の同居の親族又はその配偶者が当該農地所有者の住所のある市町村の区域内において所有する農地は当該農地所有者の所有する農地とみなされるところ、<証拠略>によれば、本件各買収の結果佐々木賢慈及び佐々木睦雄の所有として保有される土地の面積は合計三町五反二二歩であり、原審証人岡崎均雄(昭和二九年(行)第一一号事件)の証言により自創法三条五項一号による買収につき定められた保有面積であると認められる三町二反歩を越えていることが認められる。したがつて、この点の第一審原告らの主張も理由がない。

(七)  山林の買収等の主張について

第一審原告らは、別紙A記載の番号19の土地のうち約一反歩及び別紙B記載の番号28、29の各土地は現況山林であるにもかかわらず農地として買収された旨、また、右番号28、29の土地は非隣接地であるにもかかわらず合筆して買収された旨主張する。

別紙A記載の番号19の大畑六六五番の土地の一部が耕地整理地区外にあることは当事者間に争いがなく、<証拠略>によると、右土地の買収令書には買収すべき土地の地番として右六六五番の土地全体が表示され、かつ、登記上右六六五番の土地は全部が買収・売渡の対象となつたものとして扱われていること、しかしながら、同番の土地のうち耕地整理地区内にあるのは約三反歩の水田部分であり、残り約一反歩は右地区外の山林であつたところ、前記買収令書には買収すべき土地の現況として「田」と表示され、かつ、これに対応する仮換地(七区画)の仮番が付されており、また、買収される土地の面積として記載されたものの合計は三反一畝一一歩となること、被買収者である第一審原告佐々木嘉門は、右買収令書によつて右山林部分が買収されたとは考えておらず、右部分を買収処分後も引続き管理占有していることが認められる。以上の事実によれば、右山林部分は買収処分の対象とはなつておらず、この点につき買収処分の違法はないものというべきである。もとより、買収・売渡処分に基づく登記上の取扱いの当・不当の問題は右処分における違法の有無とは別個の問題である。

次に、別紙B記載の番号28の土地の買収について検討する。<証拠略>によれば、右番号28の土地はその全部が現況水田であるとして買収されたものと認められ、また、原審昭和二九年(行)第一一号事件について実施された検証の結果によれば、右検証の行われた昭和三三年七月当時右土地は山林ないし雑木地となつていたことが認められるところ、本件買収処分当時右土地が水田として耕作されていたことについては具体的な証拠がなく、右検証に際しても第一審被告から具体的な指示・説明がされた形跡はない。更に、当審における検証に際して第一審原告側が右番号28の土地に含まれると指示・説明した土地(現況山林)は、土手状で開田には不適当と思われる地形をなしているが、<証拠略>によれば、右指示にかかる土地は右番号28の土地に含まれるものと認められる。以上の事実と<証拠略>とを総合すると、右番号28の土地の少なくとも一部分(右部分を証拠上特定することはできない。)は本件買収当時山林ないし雄木地であつたと認められるので、右買収処分は、重大かつ明白な瑕疵があり、無効というべきである。したがつてまた、右土地の売渡処分も無効たるを免れない。

別紙B記載の番号29の土地については、<証拠略>によれば一筆の土地のうち現況田の部分を買収したことが認められるから、第一審原告ら主張のような違法があるとはいえない。

第一審原告らは、右番号28の土地と番号29の土地とが合筆のうえ買収されたとしてその違法を主張するが、右合筆の事実を認めるべき証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく、右主張は理由がない。

四  結論

以上において認定判断したところによれば、第一審原告らの本訴請求のうち、別紙C及び同Dの「時効取得した持分の割合」欄に記載のある土地につき同欄記載の割合による共有持分について(但し、同欄に「1/1」と記載のある土地及び別紙C記載の番号11、12、22、23の各土地に関しては、当該土地そのものについて)買収・売渡処分の無効確認を求める部分についての訴え及び第一審原告佐々木マス、同佐々木寛、同本間ヨシエが別紙A(別紙C)記載の番号16、25の各土地につき、第一審原告塩川佳子、同駒形佳三、同金子愛子、同佐々木正枝、同佐々木康雄、同佐々木貞夫、同佐々木佐次エ門が別紙B記載の番号16、17、19、22、24ないし30、49の各土地につき、それぞれ買収・売渡処分の無効確認を求める部分についての訴えは、いずれも不適法として却下すべきであり、別紙A(別紙C)記載の番号14(共有持分五六一〇分の二〇七二)、20、21の各土地と別紙B(別紙D)記載の番号28、33の各土地に関する買収・売渡処分の無効確認を求める部分は正当として認容すべきであり、その余の本訴請求は失当として棄却すべきである。

よつて、右と一部趣旨を異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条一項、九四条後段に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木重信 下郡山信夫 加茂紀久男)

別紙A~E<略>

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