東京高等裁判所 昭和55年(行コ)17号 判決 1981年7月16日
控訴人(原告) 福田信隆 外一名
被控訴人(被告) 神田税務署長
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人らの相続税につき、昭和五〇年六月三〇日した更正処分のうち、別表控訴人主張額欄各記載の各金額を越える部分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、各控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
原判決四枚目裏七行目「伊佐男」以下に「伊佐男」とあるを「伊左男」と各訂正する。
(控訴人らの当審における主張)
一 本件土地の貸借は、生蔵と何ら血縁関係にない富吉においてその地上に建物を所有し、かつ、居住することをもつてその目的としたものであることからしても、これを賃貸借と目すべきものである。
二 本件土地の貸借につき、当事者間においてこれを賃貸借としているにもかかわらず、課税当局がこれを無視して使用貸借と認定することは、私人間の契約自由の原則に対する不当な公権力の介入であつて、右認定に基づく本件課税処分は無効である。
(控訴人らの右主張に対する被控訴人の反論)
一 建物所有を目的とする土地の貸借についても、知人、友人あるには親族間の如く特殊な関係を有する者の間においては、その好意、信頼関係に基盤を持つ使用貸借のなされる例のあることは公知の事実に属し、本件貸借もそのような例の一つである。
二 課税当局は、適正な課税を行うため、当事者間でなされた契約の内容が法的に使用貸借であるか否かを検討すべき職責を負つているものであつて、右検討の結果、本件につき使用貸借に該当するものと認定したにすぎず、私法上の契約内容の変更あるいは修正を求める等これに介入したものではない。
控訴人ら代理人は、証人野原伊左男の証言並びに控訴本人福田信隆(当審)の供述を援用し、関東信越国税局長に対する調査の嘱託を求めた。
理由
当審も、控訴人らの本訴各請求は、いずれもこれを棄却すべきものと判断するが、その理由については、左に付加、訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。当審における新たな証拠調の結果によつても、引用にかかる原審の認定判断を左右することはできない。
原判決一五枚目表八行目「伊佐男」以下に「伊佐男」とあるを「伊左男」と各訂正し、同二三枚目表五行目「弁論の全趣旨によれば」を「関東信越国税局長古橋源六郎の調査嘱託に対する回報書によれば」と改め、同裏三行目「甲」を「乙」と訂正する。
(控訴人らの当審における主張について)
一 建物所有を目的とする土地の貸借についても、知人等特殊な関係を有する者の間において使用貸借のなされる例のあることは、公知の事実であつて、控訴人ら主張の如き事実は、本件土地の貸借につきこれを使用貸借と認定する何らの妨げとなるものではない。
二 課税当局は、適正な課税を行うため、当事者間でなされた土地貸借契約の内容が法的にみて使用貸借に当るか否かを検討すべき職責を負つていることはいうまでもないから、本件土地の貸借につき、その検討の結果これを使用貸借に当るものと認定したことは、単にその職責を果したにすぎず、何ら私法上の契約関係に介入したものではないというべきであつて、この点に関する控訴人らの主張は、採用の余地なきものである。
以上の次第で、控訴人らの本訴各請求は、いずれもこれを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉田洋一 中村修三 松岡登)
別表
控訴人 福田信隆の分
相続税審査決定額 控訴人主張額
課税標準 二四、二三五、〇〇〇円 二三、〇七五、〇〇〇円
相続税額 一〇、一一〇、二八〇円 九、五三二、九一二円
納付税額 一〇、一一〇、二〇〇円 九、五三二、九〇〇円
過少申告加算税額 二九、六〇〇円 〇
控訴人 福田美恵子の分
相続税審査決定額 控訴人主張額
課税標準 二四、四六八、〇〇〇円 二三、〇七五、〇〇〇円
相続税額 一〇、一一〇、二八〇円 九、五三二、九一二円
法第一八条加算額 二、〇二二、〇五六円 一、九〇六、五八二円
差引相続税額 一二、一二三、三三六円 一一、四三九、四九四円
納付税額 一二、一二三、三〇〇円 一一、四三九、四〇〇円
過少申告加算税額 三五、六〇〇円 〇