東京高等裁判所 昭和55年(行コ)51号 判決
1 固定資産課税台帳は、本来、市町村が自己の課税事務処理の基本とするために作成するものであって、法律の規定に基づいて期間を限って関係者の縦覧に供する場合等を除いては、当然に公開を予定したものではなく、しかも、それに記載された固定資産の評価額等は固定資産所有者が他人に知られることを欲しないことの多い事項であるから、市町村が、所有者又はこれと同視しうるような者のほかは、とくにこれを必要とする正当な理由のある者に限って、右台帳の登録事項の証明書を交付しうるものとすることは、もとより許されるところである。そして、≪証拠≫によれば、最高裁判所が、訴訟物の価額の認定の資料として、地方税法第三四九条の規定による固定資産の課税標準となる価格のあるものについては、所轄公署のこれを証明する書面を提出させる等の方法により、適宜当事者に証明させることとしたのを受けて、被控訴人の主張二1(一)の自治庁税務局長通達は、訴訟当事者が訴訟物の価額の算定のための資料として添付すべき証明書を市町村において求められたときは、その証明書の交付を行うことが適当である旨を各都道府県に通知して市町村に示達させたこと、また不動産競売申立書に添付する場合、借地非訟事件の申立手数料の算定の資料とする場合にも、同様に交付することが適当であるとする通達がなされたことが認められ、全国の市町村も右の各場合に評価証明書を交付する取扱いをしてきたものと推認される。そして、前記引用の原判決認定の被控訴人の窓口事務取扱要領は、評価証明書を交付しうる者を所有者、その委任を受けた者、家族、その他法定の資格等により所有者に準ずると解しうる者(以下「所有者等」という。)のほかは、右のような目的に使用する訴訟関係者に限っているものと解され、この制限はもとより正当であると解される。そうすると、所有者等として評価証明書の交付を申請する者の地位が台帳の記載等から明らかでない場合には、その根拠を明示させ、また、所有者等以外の者の申請による場合には、使用目的を明示させることはもとより、それらの申立の真実性のいわば疎明として資料の提示を求め、その提示がなく申立が真実であることの一応の心証も得られない場合には、交付を拒否することにも合理性があるというべきである。
2 ≪証拠≫によれば、多数の都道府県内の市町村及び被控訴人において弁護士が評価証明書の交付を申請する場合の取扱いが被控訴人の主張二1の(三)及び(四)のとおりであることが認められるところ、このような取扱いは、弁護士が当事者その他関係人の依頼によって訴訟事件、非訟事件その他の法律事務を行うことを本来の職務とするものであることに鑑み、弁護士が交付申請をする場合には、申請書に使用目的を記載し、職印を押捺し、更に窓口で求めに応じて依頼人の氏名を告げることにより、弁護士としての職務上訴訟等の目的に評価証明書を使用する旨の申立の真実性が一応担保されるので、それ以上形式的に疎明資料の添付を要求する必要に乏しいという趣旨によるものと解されるのであり、このように、弁護士が職務上使用する場合と一般私人が訴訟等の目的に使用する場合とで、交付の実質的要件が異なるわけではなく、使用目的の疎明方法について取扱いを異にするにすぎないことは、実質上の不平等というべきではなく、仮に後者に若干の不利益があるとしても合理的な理由によるものであって、もとより憲法第一四条の問題とはなりえないというべきである。したがって、弁護士との差別をいう控訴人の主張は採用することができない。
3 控訴人は、証明(疎明)資料を要求しないで評価証明書の交付に応じている市町村もある旨主張し、被控訴人の取扱いが全国各市町村一律のものであることを確認する資料はないが、仮に右主張のとおりであったとしても、資料の提示を要求することに前記のような合理性が認められる以上、これを違法ということはできない。
4 控訴人は、住民票(写し)、戸籍謄本、不動産登記簿謄本等の交付申請の場合と評価証明書の交付申請との差異を論ずるが、不動産登記簿は、制度自体が本来権利関係の公示を目的とするもので、当然公開を予定するものであり、その余のものについては、公開の要請と守秘又は濫用防止の要請との軽重の程度が一様ではなく、それに応じて交付の手続的要件も異なることは当然であって、住民票写しは何人でもその交付を請求することができ、ただ、市町村長は執務に支障のある場合その他正当な理由のある場合に限り請求を拒むことができるとされ(住民基本台帳法第一二条、第一一条)、戸籍謄本については、請求は原則として事由を明らかにしてすることを要し、(戸籍法第一〇条第二項。なお、ここでは弁護士が職務上請求する場合が例外とされている。同法施行規則第一一条第三号)、市町村長は、請求が不当な目的によるときはこれを拒むことができるとされている(同法一〇条第三項)が、固定資産課税台帳の前記1のような性質に鑑み、評価証明書の交付については右と同一の扱いをしなければならない合理的理由を見出すことはできず、この点に関する控訴人の主張も採用することができない。
(沖野 野田 藤浦)