大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(う)1214号 判決

被告人 新田庄蔵

〔抄 録〕

被告人は本件犯行当時心神喪失又は心神耗弱の状態にあったと認めるべきであるのに、原判決が正常な精神状態にあったと判断して被告人に刑を科したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認又は法令適用の誤りにあたる、というのである。

そこで、原審記録を調査し、当審において取調べた鑑定人徳井達司作成の精神鑑定書、同人及び被告人の母新田つや子の当公判廷における各証言、医師小泉博作成の診断書、被告人作成の控訴聴意書と題する書面外三通の書面を加えて検討すると、被告人は本件犯行当時精神分裂病により是非善悪を判断する能力を有しておらず、心神喪失の状態にあったものと認めるのが相当であって、正常な責任能力を有していたことを前提として被告人を有罪とした原判決には事実誤認があるといわざるをえない。

(一) まず、前記鑑定人の精神鑑定書及び当審証言によると、昭和五六年一〇月一三日に行った問診の結果被告人の思考内容及び連想には精神分裂病の明確な徴候である病的な障害が顕著に認められ、その発病時期は三〇歳を過ぎたころのかなり以前にさかのぼり、現在も進行中と判断されるというのであり、かつ、精神病学の知見上精神分裂病特に発病時期の古いそれには盗犯との間に相当深い関連性があるばかりか、是非善悪の判断を総合的に行わず時に応じて一面的に行ったうえ行動に走る両価性と呼ばれる特有の精神状態が伴い、悪事であるとの認識を持たずに窃盗行為に走る傾向があるというのである。

(二) また、前記の母親の当審証言、医師の診断書のほか、被告人の昭和五六年五月二〇日付司法警察員に対する供述調書、戸籍謄本写しによると、被告人は、顕繁に転職していて、日常生活に適応することのできない病的状態の存することをうかがわせるほか、昭和四九年ころには対人恐怖症を訴えて二か月位入院し、昭和五五年二月には精神分裂病と診断されて約一か月間入院するなどの病歴を有しており、被告人の母も、終戦直後精神分裂病で入院したことがあり、さらに、被告人の従姉も、精神病院に入院した後自殺しているなど、被告人の精神病の負因を強く推測させる事情が多い。

(三) さらに、被告人が当審段階に至って作成した前記四通の書面をみると、正常な文脈に立たない支離滅裂な連想に満ちていてその内容や意図を捕捉することがまったく不可能であるばかりか、精神分裂病によくみられる電波体験や幻聴などの異常体験を訴える部分をも含んでいる。

(四) もっとも、被告人の司法警察員、検察官に対する各供述調書の内容及び原審公判廷における供述の内容を検討すると、一見すじ道の通った供述となってはいるが、前記鑑定書及び鑑定人の証言に徴すると、こうした現象は、被告人のように三〇歳を過ぎて精神分裂病にかかった者には間々見受けられることであって、心神喪失を認定するうえでの支障となるものではなく、また、被告人自身が原審公判廷において実刑判決を希望する旨供述していることなどに徴すると、被告人が詐病により刑を免れようとしていることを疑わせる証跡も、まったくこれを見出すことができない。

(五) こうした事情を総合すると、被告人は本件犯行当時精神分裂病により心神喪失の状態にあったと認めるのが相当であって、事実誤認の論旨は理由があるに帰する。

(千葉 香城 植村)

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