大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(う)1222号 判決

被告人 大西政昭

〔抄 録〕

本件事故の発生した交差点は東西に走る幅員五メートルの直線道路(以下「東西道路」という。)に北から南に向う幅員五メートルの道路(以下「南北道路」という。)が栃木県小山市大字中島七一三番地先において丁字形に交差する場所であって(右南北道路はさらに南に向けて延長工事が進められていたが、当時道路予定地であったにすぎず、丁字路交差点であることにかわりはない。)、本件事故は右の南北道路を比から進行してきた安田正一の運転する普通乗用車が同交差点に進出したところへ、東西道路を東から西へ進行してきた被告人の普通貨物自動車が衝突したものであることが認められる。右交差点は田畑に囲まれた互いに見とおしのよい交差点であるところ、被告人は、時速約四〇キロメートルの速度(被告人及び安田の進行道路とも制限速度指定はない。)で交差点の中心部の手前約三六メートルの地点にさしかかった際、同中心部から北方約三九メートルの地点に被告人とほぼ同一の速度で進行してくる安田車を発見したが、安田車は同交差点を左折するか右折するほかないのであるから、同交差点付近で徐行又は一時停止し左右の安全を確認して進行するものと思い、進路前方の安全を確認しながらそのままの速度で進行を続けたところ、交差点中心部手前約七メートルの地点で右斜め前方約八・八メートルの地点に同交差点にそのまま直進してくる安田車を再度認め、ブレーキを踏んで左に転把し安田車との衝突を避けようとしたが及ばず、ついに自車右側前部が安田車の左側前部と衝突するに至り、その結果安田は原判示の傷害を負ったことが明らかである。

このような状況のもとで双方の車両が同時に同交差点に進入しようとする場合には、被告人車は安田車に対し左方優先の関係にたつものであることが明らかである。しかも本件の如き丁字路交差点においては、安田車が左折するものとすれば同車はできる限り道路の左側端に沿って徐行しなければならないのであって通常被告人車との衝突の危険性は考えられないし、また、安田車が右折するものとすれば同車に対し被告人車が左方車かつ直進車の関係にあって、いずれにせよ安田車は被告人車の進行を妨げてはならない義務を負う場合であり、かつ、被告人が安田車を最初に発見した時点では、安田車は交差点手前において優に一時停止ないし徐行しうる速度と距離関係にあったものであるから、被告人としては自車の進路前方により多くの注意を払って進行を続けることは通常の運転方法というべきである。してみれば、右時点において安田車に減速する気配が見えなかったとしても、十字路交差点の場合と異なりこれをもって直ちに事故発生の危険性を予想しうるような特段の事情があったものとして、被告人に原判示のような、減速徐行等の義務違反があったとすることができないことはもとより、その後安田車が道路交通法規無視の態度にでるかもしれないことまで慮って右方の安全を確認しつづける義務があったとすることもできない。のみならず、安田は当時、本件交差点に気付くのがおくれたため進入後予定していた左折の方法をとる間もなく、時速約四〇キロメートルのまま行止まりの本件丁字路交差点を直進通過し道路外に飛び出すというまったく異常・無謀な運転態度に出たことが明らかであって、本件事故はもっぱら同人のかかる異常・無謀な運転によって惹起されたものと認めるのが相当であり、本件について被告人の予見ないし回避義務を肯定することは困難である。

以上の次第で、本件衝突事故については被告人に過失を認めることは困難である。<以下略>

(菅間 高木 松本)

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