東京高等裁判所 昭和56年(う)622号 判決
被告人 越智一幸 外二名
〔抄 録〕
論旨は、要するに、原判決は、原判示「罪となるべき事実」第二の別表(二)番号18(被欺罔者実井操)、同23(同安部吉男)、同25(同済田英治)、同26(同柴田明美)、同52(同村西邦夫)関係については、予備的訴因とされた事実につき被告人の有罪を認定しているのであるが、原判決が有罪認定の資料として証拠の標目欄に掲げる証拠中の各供述調書は、弁護人において、本位的訴因の事実関係に限定された立証趣旨の下で証拠とすることに同意したものに過ぎず、右同意の効果は、結審直前に突如追加された予備的訴因の立証には当然及ばないから、これらの調書は証拠能力を欠くものであり、結局、原判決には証拠能力のない証拠によって右各事実を認定した違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
そこで検討して見ると、被告人越智一幸に対する昭和五二年一二月二八日付、同五三年一月三〇日付、同年三月一八日付各起訴状記載の公訴事実によれば、前掲各事実に照応する本位的訴因の各事実は、いずれも欺罔方法を原判示<イ><ロ>とするものであることが窺われるところ、検察官は、原審第四四回公判期日に同被告人らに対する論告求刑を終えた後の同第四七回公判期日(第四五、四六回は分離被告人盛定健関係)において、前掲各事実につき欺罔方法を原判示<ホ>(別表(二)番号18)または<ホ><ロ>(同23、25、26、52)とする訴因の予備的追加を請求し、同被告人の弁護人石崎泰男ほか関係被告人の弁護人らが右請求に異議ない旨を述べ、裁判長において右訴因の予備的追加を許可した経過が記録上明らかである。原判決は、右各事実につき予備的に追加された訴因と同旨の事実を認定判示しているのであるが、その認定に供したとして証拠の標目欄に挙示する各供述調書は、いずれも右訴因の予備的追加がなされる前の公判期日において、立証趣旨を「被害状況」(被欺罔者分)、「自白(犯行の状況)」(被告人及び共犯である相被告人分)として弁護人の同意を得て取り調べられたものであり、右訴因の予備的追加の後、立証趣旨を拡張、変更しあるいは新たに弁護人に対し証拠とすることの同意を求める手続は行なわれていない。
しかしながら、刑事訴訟法三一二条の法意に鑑みるときは、訴因罰条の追加変更前に適法に取り調べられた証拠は、追加変更のなされた結果新たな訴因については証拠としての関連性を失うに至るような場合は格別、何らの手続を経ずして追加変更後の訴因に対する事実認定の用に供し得るものと解するのが相当であるから、原審の訴訟手続には何らの違法をも見出せない(本件訴因の予備的追加は、検察官の主張を取調済みの証拠内容に合わせるために請求されたものと認められるから、各証拠の内容が予備的追加後の訴因との関係で証拠としての関連性を失うに至る場合に当らないことは明白である。)。
(草場 半谷 須藤)