東京高等裁判所 昭和56年(う)936号 判決 1981年9月09日
被告人 服部照美
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中三〇日を原判決の本刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人長谷川柳太郎作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官棚町祥吉作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
控訴趣意第一点について
所論は原判示第一の覚せい剤譲受け罪と同第二の覚せい剤譲渡しの罪とは牽連犯又は包括一罪の関係にあり、右前者を審判の対象とするには訴因の追加の手続によるべきであるから、その追起訴については、刑訴法三三八条三号により公訴を棄却すべきであるのに、原審が、右両者を併合審理したうえ、原判決においてこれを併合罪として処断したのは、訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りを犯したものである旨主張する。
そこで、記録を検討するに、原判決が法令の適用の項で説明を加えているように、右覚せい剤の譲受けの罪と譲渡しの罪とは併合罪の関係にあると解すべきであるから、所論指摘の原審の措置及び処断は正当であつて、何ら違法な点はない。論旨は理由がない。
控訴趣意第二点について
所論は、量刑不当の主張である。
そこで、記録を精査し、当審における事実取調べの結果をもあわせ検討するに、被告人は、原判示のとおり、多量(約二五グラム)の覚せい剤の授受を自ら行ない、相当額の利益を得たものである。そして、本件証拠を総合すると、被告人は、従前より暴力団員であつた夫と共に覚せい剤の密売に関与し、本件取引については、所論のように夫の指示ないし強制によるものではなく、小遣銭等欲しさから、取引関係者の了解のもとに夫に内密に、夫の取引ルートを利用して敢行したものであることが認められる。
右の情状に鑑みると、被告人の刑事責任は重いといわざるをえず、被告人は、前科前歴がなく、本件後十分反省し、夫と離婚したうえ、父親や友人の監督と支援のもとで喫茶店を経営しており、今後真面目に働くことを誓つていることなど所論の指摘するところを含めて被告人のため斟酌すべき諸般の事情を考慮に入れても、原判決の量刑(懲役一年一〇月、未決勾留一〇日算入)が重すぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
そこで、本件控訴は理由がないから、刑訴法三九六条によりこれを棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中三〇日を原判決の本刑に算入することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 環直彌 齋藤昭 原田國男)
参考
(原審判決の理由)
(罪となるべき事実)
被告人は、法定の除外事由がないのに、
第一 昭和五五年七月二九日ころの午前一一時五〇分ころ、京都市山科区西野様子見町一の二市営山科団地一棟一階エレベーター乗降口付近において、三吉昭夫から、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶粉末約二五グラムを代金二二万五〇〇〇円で譲り受け
第二 同日ころの午後零時ころ、同団地一棟付近路上に駐車中の普通乗用自動車内において、安本義行に対し、前同様覚せい剤結晶粉末約二五グラムを代金三二万五〇〇〇円で譲り渡し
たものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示第一、第二の各所為は、いずれも覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に該当するところ、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年一〇月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち一〇日を右刑に算入することとする。
なお、弁護人は、被告人の判示第一、第二の所為が包括一罪もしくは牽連犯であると主張するが、覚せい剤を譲り受ける所為と譲り受けた覚せい剤を譲り渡す所為とは、犯行の動機、態様を全く異にするものであり、また、これらの行為を処罰の対象としている法の趣旨に鑑みれば、右各所為は各別に成立すると解すべきであつて包括一罪とすることは許されず、また、右各所為が罪質上通常手段結果の関係にあるとは言えないから牽連犯と解すべきでもない。したがつて弁護人の主張は採用しない。