大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1123号 判決

(1) 破産会社は、有居憲三が昭和四六年六月に設立した電気工事材料及び家庭電気用品の卸売りを目的とする会社であつたが、昭和五〇年初め頃以降手形の不渡りを出して倒産した昭和五一年二月末頃まで、いわゆる街の金融業者である控訴会社から手形割引や手形貸付或いは証書貸付の方法により継続して営業資金の融通を受けていた。控訴会社では、右取引を開始するにあたり、破産会社の主な卸売先や月商高等を聴取してその営業状況を確認するとともに、融資の実行に先立ち、将来における破産会社に対する債権の確実な回収を期するために、幾通りもの回収方法を予定して、そのために必要な多種多様な書類を徴求し、必要箇所に破産会社の代表者印或いは代表者個人印の押捺を得た。その主なものは、破産会社が取引先に対して有する売掛代金債権を控訴会社に譲渡した旨を通知するために使用すべき内容証明書用紙(五通)であり、破産会社代表者個人の所有不動産に根抵当権を設定するために必要な登記済証、登記手続の委任状、印鑑証明書であり、強制執行を必要とする場合に備えての公正証書作成の承諾書、公正証書作成手続の委任状、印鑑証明書、それに小切手用紙であつた。それらは根抵当権設定のための書類を除き、いずれも控訴会社において将来必要に応じ随時使用することを委ねられて交付されたものであり、交付時においては、それを使用すべき時期も、従つてその時点において破産会社の負う債務額も、また破産会社が取引先に対して有する代金債権額も未定であつたから、内容証明書用紙には何の記載もなく、公正証書作成のための委任状の内容をなす委任事項も不動文字部分以外は白紙であり、小切手用紙の金額欄や振出日欄も同様であつた。破産会社の代表者であつた有居憲三は、融資を得る必要に迫られ、右各書類の使用目的を概略理解しながら、それを金融業者の常套手段として、深く詮索することなく、求められるままに書類に捺印し、その後における印鑑証明書の差替えにも応じてきた。控訴会社においては、不動産については担保価値が認められなかつたため根抵当権の設定登記は見送つたが、昭和五一年二月二八日に破産会社が手形の不渡りを出し、代表者が所在をくらますに至つたことを聞知し、破産会社の取引銀行に当たつて手形不渡りの事実を確認するや、急拠自己の債権の回収手段に着手し、先ず、前記内容証明書用紙を使用して、同年三月一日、かねがね破産会社の主要取引先であることを承知していた本田技研等三社に対する前記のような債権譲渡通知書を作成して一せいに発送するとともに、公正証書作成委任状に、控訴会社が昭和五〇年一一月三〇日に破産会社及びその代表者個人を連帯債務者として金一〇〇〇万円を、昭和五一年二月二六日を弁済期として貸し付けた金銭消費貸借につき公正証書を作成することを委任する旨、委任事項を記載し、同年三月二日、自ら破産会社及び代表者個人の代理人を選任した上で公証役場に赴いて公正証書の作成を受け、これに基づき、前記三社を第三債務者として、既に債権譲渡を受けた旨の通知を発した同一債権を目的とする債権差押及び転付命令を得、右命令は同月三月一九日頃第三債務者に送達された。

以上のような事実を認めることができる。

(2) そこで、右に認定した事実関係を前提として、控訴人の主張する売掛代金債権の譲渡に関する契約の成否及びその趣旨を検討するに、控訴会社と破産会社との間で、融資開始の当初において、将来破産会社が控訴会社に対する債務の弁済期を徒過し、或いは手形の不渡りを出す等、通常期限の利益喪失の原因となるような事態を招いたときは、控訴会社は、その時点において破産会社がその取引先に対して有する商品の売掛代金債権中、破産会社の債務額に相当する部分を適宜選択した上、これを破産会社の債務に対する代弁済として控訴会社に帰属させるとともに、破産会社に代りその名義で第三債務者たる取引先に債権譲渡の通知を発し、これを取り立てて債権の回収をはかることができるとする趣旨の、担保の目的に出た、将来の債権を対象とする包括的な債権譲渡の合意が結ばれたものと解するのを相当とする。控訴人は、右譲渡の対象となる売掛代金債権の債務者は前記三社に限られ、しかも譲渡につき一定の順位があらかじめ約定されていた旨主張するけれども、≪証拠≫によつて認められる債権譲渡の合意の成立過程及び控訴会社のした通知行為の態様からみて、かかる限定的約定がなされていたものとは到底認められない。そして、譲渡の目的に供されるべき債権の限度額についても、ただ控訴会社が譲渡契約に基づく権利の行使として債権譲渡通知を発することに踏み切つた時点における破産会社の債務額という絶えず変動する不確定な上限以外には何らの定めもなく、また、控訴会社が右契約上の権利行使をなしうべき終期に関する定めもなかつたものと認めざるをえない。

しかし、このように、それ自体増減する債権の担保のために、譲渡の目的とされるべき債権の債務者(第三債務者)を特定することなく、目的債権の発生時期についても、その限度額についても何らの限定を伴わない包括的な将来の債権の譲渡契約を有効とするときは、譲受人たる債権者は、譲渡人たる債務者の取得すべき全代金債権につき、随意選択して自己の債権の優先弁済の用に供しうる地位を、何らの公示方法をも伴うことなく、いつまでも保有することとなり、右優先弁済権の行使が、本件においてもそうであるように、債務者の破綻が現実化した危機事態の到来に近接して行われることが多いという当裁判所に顕著な事実を合わせ考えると、債権者間の平等を害することきわめて著しく、到底容認しうるところではないといわなければならない。すなわち、将来の債権を目的とするかかる無限定的な債権譲渡の合意は、将来その実行として特定の債権譲渡をなすべく当事者を拘束する基本契約としてならばともかく、譲受人たるべき債権者の一方的権利行使によつて直ちに債権譲渡の効果を生ずべき契約としては、目的債権の不特定の故にその効力を認めえざるものとなさざるをえない。

ちなみに、本件において前記債権譲渡の合意ののちに、あらためて破産会社の協力のもとに特定債権の譲渡の合意がなされたものと目すべき事実があれば、その合意についての否認権の成否が問われなければならないが、証拠上かかる事実は認められず、控訴人も条件成就ないし控訴会社側からの一方的な予約完結の意思表示により当初の合意の効力として債権譲渡の効果が生じたと主張するのみである。

(杉田 横山 野崎)

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