東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1935号 判決
右事実によると、訴外宮原満寿雄(以下「満寿雄」という。)は、寺沢工務店との間で、本件共同住宅建築工事の請負契約を締結したものの、訴外池袋信用組合によってその代金支払いに当てるための資金の融資方の申込みを拒絶され、自らの無力を知ったことから、控訴人に対し、自らは右請負契約関係から手を引き、控訴人にすべてを委ねるので、その責任で所要資金の調達、代金の支払など一切を処理してほしい旨を申し向け、控訴人がこれを承諾したのであり、これによれば、満寿雄と控訴人との間には、満寿雄は寺沢工務店との間の右請負契約において満寿雄が有する一切の権利義務を控訴人に移転し、控訴人においてこれを引き継ぐ旨の、注文主としての地位の譲渡契約が成立したとみるのが相当である。ところで、一般に契約の当事者としての地位の譲渡は、他方当事者の利害に重大な影響を及ぼすものであるから、その同意を得ない限り、他方当事者に対しこれを主張し得ないものと解すべきことは多言を要しないところであるが、このことは契約上の地位の譲渡の当該当事者間における効力に消長を来たすものではなく、基本となる契約の一方当事者の同意のない契約上の地位の譲渡も、当該譲渡契約の当事者間においては有効であり、これにより譲渡人が契約当事者として有する一切の権利義務は、右の基本となる契約の一方当事者の利害に影響を及ぼさない限度で、譲受人に移転するものと解すべきである。これを本件についてみるに、満寿雄と控訴人とは、前記のような、請負契約における注文主としての地位の譲渡契約を結びながら、満寿雄の一家の主としての体面を考え、寺沢工務店との関係ではあくまで注文主を満寿雄としておいたことは前認定のとおりであるから、寺沢工務店としては満寿雄に対して本件共同住宅の建築工事を完成して引き渡す義務を負い、これが履行されたときは、本件共同住宅は満寿雄の所有となるが、満寿雄と控訴人との間には前記のような注文主としての地位の譲渡契約が成立しているわけであるから、ほかに特段の事情が認められない以上、本件共同住宅は昭和四八年三月ごろ完成しその引渡しを受けることによって、いったん満寿雄の所有となり、それと同時に、右譲渡契約により本件共同住宅の所有権が控訴人に移転し、控訴人の所有に帰したということができる。
(岡垣 磯部 大塚)