東京高等裁判所 昭和56年(ネ)460号 判決
一 控訴人が本件特許権を有すること及び本件特許の明細書の特許請求の範囲第一項の記載が次のとおりであることは、当事者間に争いがない。
「1 動力作動式タイヤ取替えスタンド装置において、フレーム11~15と、フレーム上に設けられタイヤを車輪リムに取付けまた取外すための位置に車輪リムを固定保持する台部材16と、車輪リムに対してタイヤ縁部を漸進的に取付けまた取外すためにタイヤ工具66を車輪リムのまわりに回動せしめる回転可能のタイヤ工具駆動部70、71とフレーム上に装架され車輪リムからタイヤの第一の縁部をゆるめるために少くとも車輪リムの一部を越えて往復運動する下側縁部取外しシユー30と、下側縁部取外しシユーと対抗して設けられタイヤの対抗する第二縁部を車輪リムからゆるめるために少くとも車輪リムの一部を越えて往復運動する上側縁部取外しシユー32と、タイヤ工具駆動部を作動せしめまた上側および下側縁部取外しシユーを往復運動せしめる単一動力源12、40とを含むタイヤ取替えスタンド装置。」(原判決別添特許公報参照)
右争いのない特許請求の範囲第一項の記載に成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)の記載を総合すれば、本件発明の構成要件は次のとおりであると認められる。
A フレームを有すること
B フレーム上に設けられタイヤを車輪リムに取付けまた取外すための位置に車輪リムを固定保持する台部材を有すること
C 車輪リムに対してタイヤ縁部を漸進的に取付けまた取外すためにタイヤ工具を車輪リムのまわりに回動せしめる回転可能のタイヤ工具駆動部を有すること
D フレーム上に装架され車輪リムからタイヤの第一の縁部をゆるめるために少なくとも車輪リムの一部を越えて往復運動する下側縁部取外しシユーを有すること
E 下側縁部取外しシユーと対抗して設けられタイヤの対抗する第二縁部を車輪リムからゆるめるために少なくとも車輪リムの一部を越えて往復運動する上側縁部取外しシユーを有すること
F タイヤ工具駆動部を作動させまた上側縁部取外しシユー及び下側縁部取外しシユーを往復運動させる単一動力源を有すること
G 動力作動式タイヤ取替えスタンド装置であること
二 被控訴人ら装置の構造が原判決別紙物件目録(一)及び物件目録(二)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
三 そこで、本件発明と被控訴人ら装置とを対比する。
(一) 被控訴人ら装置の構造を示すことについて争いのない右物件目録(一)及び物件目録(二)の記載によれば、被控訴人ら装置が本件発明における前記AないしEの構成要件にあたる構造を備える動力作動式タイヤ取替えスタンド装置であることは明らかである。
(二) そこで、被控訴人ら装置が、本件発明における前記Fの構成要件にあたる構造を有しているかどうかについて検討する。
1 前記特許請求の範囲第一項の記載、前記甲第二号証の記載とくに本件発明の実施例としての、上側縁部取外しシユー(以下「上シユー」という。)の下降と下側縁部取外しシユー(以下「下シユー」という。)の上昇(これが本件発明の「往運動」にあたることは、同号証の記載から明らかである。)は、シリンダ12内に圧縮空気を導入しピストン40を上昇させることにより行なわれ、上シユーの上昇復元と下シユーの下降復元(これが本件発明の「復運動」にあたることも同様明らかである。)は、シリンダ内の圧縮空気を解放することにより、往運動に伴つて伸張されていた戻りバネ60の復元力を働かせ、これが引張りリンク56等の伝達部材を介してピストン40を下降させるのに伴つて行なわれる構成を有する装置の記載並びに弁論の全趣旨をあわせ考えれば、本件発明における「単一動力源」の「動力源」とは、装置の部材を作動させるために外部から供給される圧縮空気あるいは電気等のエネルギーの源を意味するものではなく、外部からのエネルギーの供給ないしは供給状態の変化を機械的運動に変換する具体的な部材によつて構成された装置を意味するものであり、前記実施例においては、ピストン40とシリンダ12によつて構成されたピストン・シリンダ装置がこれにあたるものであると認められる。
2 これに対し、前記物件目録(一)及び物件目録(二)の記載によれば、被控訴人ら装置においては、往運動としての上側シユーの下降と下側シユーの上昇は、第一シリンダ84に圧縮空気を供給することにより、そのピストンが上昇し、かつ、第一シリンダと油圧により連動されている第二シリンダ80のピストンが上昇することにより行なわれ、復運動としての上側シユーの上昇復元と下側シユーの下降復元のためには、まず、第一シリンダ84内の圧縮空気が解放(供給状態の変化)されるが、これだけでは右復運動は行なわれず、第二シリンダ80内に圧縮空気を供給してはじめて第二シリンダのピストン及びこれと油圧により連動する第一シリンダ84のピストンが下降して右復運動が行なわれるものであることが認められる。
3 以上によれば、被控訴人ら装置においては、各シユーの往運動の「動力源」は第一ピストン・シリンダ装置であり、各シユーの復運動の「動力源」は第二ピストン・シリンダ装置であるといわざるをえず、したがつて、被控訴人ら装置は、二つの動力源を有するもので、本件発明の前記構成要件Fにいう「単一の動力源」という構成を欠くものといわなければならない。
4 控訴人は、本件発明においては動力源に作動を与える手段及び動力源からの作動の伝達手段がいずれも限定されていないとして、被控訴人ら装置における第一ピストン・シリンダ装置が本件発明における「単一動力源」にあたる旨主張するが、本件発明における「動力源」が前記1に認定したとおりであること及び被控訴人ら装置における第一ピストン・シリンダ装置及び第二ピストン・シリンダ装置の前記2に認定した機能に照せば、控訴人の右主張は採用することができない。往運動について第二ピストン・シリンダ装置が伝達手段にすぎないとすれば、復運動については第一ピストン・シリンダ装置が伝達手段であるとみるのが相当であることは被控訴人ら主張のとおりであり、動力源に作動を与える手段については、前記1に認定したとおりエネルギー源との関係で限定されているとみるのが相当である。
5 控訴人は、また、右主張とも関連して、本件発明においては、タイヤ縁部取外しシユーの復運動についていえば、単一動力源がシユーの戻りを可能にする状態をつくり出すことを意味するのであつて単一動力源が駆動源としてシユーを往方向及び復方向に運動させることを要するものではないところ、被控訴人ら装置も復運動については単一動力源である第一シリンダ84の空気が排出されかつ第二シリンダ80のピストンの動きにより第一シリンダ84が動かされてシユーの戻りを可能にする状態がつくり出されるので、両者の間に差違はない旨主張する。
しかしながら、弁論の全趣旨により認められるタイヤ取外しの工程、すなわち、<1>タイヤの縁部を押圧してこれをリムから剥離し、<2>右押圧を取り除き、<3>タイヤとリムとの間に工具を差し入れてこれを廻転するという工程と前記甲第二号証の記載とをあわせ考えれば、本件発明の装置においても、上下シユーの往運動によるタイヤ縁部の押圧に次いで、復運動による押圧の除去は欠くことのできないものであることは明らかであるところ、たとえ、タイヤ取外しの工程において、往運動としてのタイヤ縁部の押圧を機械力によることが重要であり、復運動としての押圧の除去は、それが可能な状態になつていれば人力等によつてすることもできるとしても、復運動をも機械力によることの方がタイヤ取替え装置としてより好ましいことはいうまでもないところであるから、前記特許請求の範囲第一項中の「往復運動せしめる単一動力源」の記載を、とくに「復運動」に関してのみ「運動可能な状態とする」と解することはできず、他に右のように解するのを相当とする根拠となるべき事実を認めるに足る証拠はないから、控訴人の右主張は、その前提を欠くものとして、失当といわなければならない。
(三) 次に、控訴人は、被控訴人ら装置において二個の「動力源」があるとみられるとしても、右装置の第一ピストン・シリンダ装置と第二ピストン・シリンダ装置とは油圧によつて連動させられており、あたかも一個のように作用するものであつて、本件発明の単一動力源と容易に置換できるものであり、また、その目的及び作用も同一であるから、被控訴人ら装置は本件発明の単なる設計変更ないしは均等の範囲を出るものではなく、本件特許の技術的範囲に属する旨主張するので、この点について検討する。
成立に争いのない乙第四号証によれば、本件発明の特許出願前に米国で頒布された動力作動式タイヤ取替え装置の部分品とその価格表と認められる同号証には、同装置全体の斜視図及び右装置の各部材の具体的な分解図が記載され、右分解図は、上側シユー及び下側シユー並びにこれらに運動を伝える伝導部材、戻しバネ、タイヤ工具、タイヤ工具駆動軸並びにこれに運動を伝える四個のプーリー及びこれらに装架されたケーブルの関係等を明示するものであるがこれらの部材を作動させる装置としてはエアーマウント一個を示すのみであることが認められ、さらに、右斜視図及び分解図の記載に右装置が動力作動式タイヤ取替え装置であること及び前認定のタイヤ取外し工程等をあわせ考えれば、同号証に記載された装置の具体的構成は、本件発明の構成を知らない場合でも、当業者にとつて容易に推認できるものであり、それは、前記甲第二号証(本件特許公報)に記載された本件発明の実施例としての装置とは動力伝達機構が異なるものの、本件発明の前記AないしFの構成要件にあたるすべての構成を具備するものであると認めることができる。
そして、右のように特許発明の構成要件のすべてを具備するものがその特許出願前に公知であつた場合には、その技術的範囲は特許明細書に示された具体的実施例の範囲を出ない等これを制限して解すべきものであり、少なくとも、その特許請求の範囲に記載された構成と異なる構成のものにつき、これを単なる設計変更ないしは均等のものとして、その技術的範囲に属するとすることは許されないところといわなければならないから、控訴人の右設計変更ないし均等を前提とする主張は採用できない。
三 以上のとおり、被控訴人ら装置は、本件発明の前記構成要件Fにおける「単一動力源」の構成を欠くものであり、本件発明の単なる設計変更ないしは均等のものということはできないから、本件発明の技術的範囲に属するものではなく、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくその理由がないものとしてこれを棄却すべきものである。
したがつて、これと同旨に出た原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却することとする。