東京高等裁判所 昭和56年(ネ)489号 判決
四 次に、弁済時に債務の履行期が到来していない場合について(詐害行為が成立するか)検討する。この場合は、債務者は期限の利益を放棄した訳であるが、期限は原則として債務者の利益のために定められているのであるから、その放棄が債務者の義務の履行ではないこと勿論である。この点において、期限の利益の放棄は、代物弁済や担保の供与等と同じ性質の行為と解すべきであり、従って、後二者が原則として詐害行為となると同様、詐害行為となるものといわなければならない。<中略>
なお、履行期前の弁済の場合は、その弁済は時間的関係においては義務行為ではないが、給付自体は義務行為に外ならないのであるから、弁済を受けた債権者がその弁済によって受けた利益は弁済時から履行期までの中間利息にすぎない訳であり、従って、取消の範囲は右の部分に限定されるべきである、という考えがあるので、これについて一言する。右の考えは、結局において、債権者は履行期前においても、履行期までの中間利息分を放棄さえすれば、それを除いた残額について債務者に対して右残額分を請求できる、とする考えに帰着するであろう。しかし、債権者は履行期前においては、たとえその債権のごく一部分であっても請求する権利はなく、債務者もこれを履行する義務はないことは明らかであるから、履行期前の弁済は、その全額について義務のない行為であり、従って、その全額について他の債権者を害するものというべきである。
(武藤 菅本 秋山)