東京高等裁判所 昭和56年(ネ)783号 判決 1982年4月27日
控訴人 仁志マリン株式会社 外一名
被控訴人 昭和リース株式会社
主文
本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠は、主張として、控訴人ら訴訟代理人が、「本件リース契約は、リースという名から賃貸借の性格があるかのようにみられるが、実質的には本件機械代金を被控訴人が控訴人仁志マリン株式会社(以下「控訴会社」という。)に代つて支払い、控訴会社がこれを利息と共に返済してゆく関係があるだけで、金融的性格以上に賃貸借的性格を加えて権利義務の消長を考える必要は全くないから、その実質に着目して、端的に利息制限法の適用を受けるべきものである。ところで、被控訴人が内田洋行から本件機械を買い入れた代価は金二一四万六〇〇〇円であり、本件リース料の支払いが契約どおり行われた場合、実質金利は年一八・〇一パーセントとなり、利息制限法の利息の上限年一五パーセントをこえることは明らかである。そこで、右金二一四万六〇〇〇円を元金として、同法の最大限利率年一五パーセントの利息が生じるものとすれば、本件リース料を四一回まで払い続けた場合、元金残高は金五八万七一三三円となり、本訴請求額金八四万四八〇〇円との差額金二五万七六六七円は無効とされなければならない。」と述べ、被控訴代理人が「控訴人らの右主張を争う。本件機械の買入れ価格は金二三六万一〇〇〇円であり、本件リース契約におけるリース期間中の利率は年一〇・八九パーセントである。」と述べ、証拠として、控訴人ら訴訟代理人が乙第八、九号証、第一〇号証の一、二を提出し、被控訴代理人が、乙第九号証の成立を認め、第八号証、第一〇号証の一、二の各原本の存在及び成立は知らないと述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
理由
一 当裁判所は、被控訴人の本訴請求を正当であると判断する。
その理由は、次のとおり訂正、附加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決七枚目表五行目「原告又は」を削除する。
2 同九枚目表七行目「あつて」から八行目「ないから」までを「あり、後記のとおり、本件リース契約一七条一項によれば、被控訴人は、(A) リース料残額全部の即時弁済の請求 (B) 物件返還の請求 (C) 契約の解除と損害賠償の請求 の全部または一部の行為を行うことができるが、本件においてはそのうち(A)のみを選択して請求しているにすぎず、控訴会社は依然本件機械の利用権を確保しているのであるから、」と改める。
3 同裏二、三行目「にすぎず、損害賠償請求とは異なるから、」を、「のであるが、右は控訴会社がリース料の支払を怠つたことによるものである。被控訴人の社員が本件リース契約締結に際し控訴会社の社員に機種替が容易にできるものと思いこませるような説明をした事実を認めるに足りる証拠はない。原審における控訴会社代表者西忍本人尋問の結果中右認定に反する部分は、原審証人新子芳男、同田中浩一の各証言に照らし、にわかに措信することができない。よつて、」と改める。
4 控訴人らの当審における主張は、要するに、本件リース契約は、その本質が本件機械代金の金融に尽きるというにあると解せられるが、弁論の全趣旨によれば、本件リース契約がいわゆるフアイナンス・リース契約に属するものであるところ、一般にフアイナンス・リース契約が、契約当事者間においては、実質上賃貸借と消費貸借の性格をあわせもつことは否定しえないから、これを賃貸借の一種と解するときはもとより、一種の無名契約と解すべき場合でも、そこに消費貸借の実質以上のものをみず、従つてまた、利息制限法の端的な適用を当然とするのは、相当でないというべきである。
それ故、本件の場合、たとい控訴人主張の如く、本件機械代金が金二一四万六〇〇〇円であるとし、本件リース料の支払いが契約どおり行われた場合、実質金利が年一八・〇一パーセントになつたとしても、そのこと自体をとらえて、利息制限法に則り、本件リース契約、特にその一七条一項(成立に争いのない甲第一号証によれば、本件リース契約一七条一項は、「甲(控訴会社)が次の各号の一にでも該当したときは、乙(被控訴人)からの通知催告を要しないで、甲はこの契約に基づく期限の利益を失い、乙は (A) リース料額全部の即時弁済の請求 (B) 物件返還の請求 (C) 契約の解除と損害賠償の請求 の全部または一部の行為を行うことができます。1 リース料の支払いを一回でも遅滞し、またはこの契約条項の一にでも違反したとき。(2以下略)」と定める。)の暴利性を認めてこれを無効とすることはできず、また、年一五パーセントの利率をもとに算出して超過残元金が金二五万七六六七円になつたとしても、この分を直ちに無効とすることはできない。換言すれば、純粋に利率との関係で利息制限法違反となるか否かを考え、違反の場合は右一七条一項自体ないしはこれに基づく請求を無効とすべしとの論は採るをえないのであつて、具体的な事案毎に諸般の事情を総合斟酌して、公序良俗違反、権利濫用等の一般原則の適用の可否を検するのが相当である。
ところで、本件の場合、原審における控訴会社代表者西忍本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に徴すれば、本件機械の種類、性質と本件リース契約におけるリース料、リース期間との間には、右リース期間六〇か月が概ね本件機械の経済的耐用年数に合致するとの関係をみるに足りるものというべく、そうとすれば、右リース期間の中途で、被控訴人が本件リース料金全額を取得した上に、本件機械の返還請求権をも行使することは、経済的にいわば二重取りになる可能性を否定しえないところである。しかし、被控訴人は、本訴提起前後を通じて、控訴会社に対し右(B)の本件機械の引渡しを求めておらず、(A)のみを選択して本訴請求をしているのであるから、本訴請求が右一般原則に牴触するものと解することはできない。
なお、債権者が債務者の同意を得て自己に有利に数個の債権回収方法を定めておくことは、必ずしも法の禁止するところではなく、右一七条一項の規定自体が公序良俗違反等の一般原則の適用により無効であるということはできない。
三 以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求を認容した原判決は結局相当であり、本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、九三条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 川添萬夫 高野耕一 相良甲子彦)