東京高等裁判所 昭和56年(ネ)789号 判決
一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴の提起があった場合、訴の提起による時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ残部に及ばないのである(最高裁判所第二小法廷昭和三四年二月二〇日判決、民集一三巻二号二〇九頁参照)。そして、不法行為もしくは債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合は、被害者ないし債権者が被侵害利益ないし債権に依拠して営む社会生活関係の多様化に即して発生する損害も多様であり、また、価値観の多元化現象が違法行為に基づく損害を一層多面的に把握せしめる傾向を促進し、今日この種の損害賠償請求訴訟において損害の主張はまことに多彩を極めているのが実情であり、このような損害賠償請求権における損害の多様性に着目するならば、損害賠償請求訴訟の提起による時効中断の効力の生ずる範囲も該請求権の特色に即して考察すべきであり、違法行為によって被った一連の損害について、被害者ないし債権者が特定の損害費目のみを請求原因に掲記してその損害賠償を請求している場合には、他の費目の損害は発生していない旨の主張がなされている等特段の事情のない限り、全損害の数量的一部であることを明示して請求がなされた場合と同様に、当該費目の損害に限って一部請求し、これに対してのみ判決を求める趣旨が明示されているものであり、したがって、訴提起による消滅時効の中断の効力は、その一部についてのみ生じ、残部には及ばないものと解するのが相当である。
(蕪山 安國 塩谷)