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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)192号 決定 1981年5月22日

事件

抗告人

秋元勇

右代理人

尾崎陞

(東京高裁昭五六(ラ)第一九二号、昭56.5.22第一一民事部決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一抗告人は、「原決定を取消す。被審人を処分しない。」との裁判を求め、その理由は、別紙「即時抗告理由書」記載のとおりである。

二1  一件記録によると、千葉孔版印刷株式会社監査役尾崎陞が昭和四九年五月三一日退任し、取締役秋元勇、取締役秋元みゆき、同秋元祐が同五〇年五月三一日退任し、その後昭和五四年五月三一日に至り、右の者らが前同様取締役或いは監査役に就任したこと、代表取締役秋元勇は、昭和四九年五月三一日、同五〇年五月三一日、同五一年五月三一日、同五二年五月三一日、同五三年五月三一日、各定時株主総会を招集し、右退任役員選任に関する議案を付議したが、いずれも「諸種の事情により」右後任の役員を選任するに至らなかつたことが認められる。

2  商法第四九八条一項一八号にいう「役員の選任手続を為すことを怠りたるとき」とは「法定の手続を経て当該役員を選任することを怠つたとき」をいうものと解するのが相当であるから、以上認定の事情のもとにおいては、代表取締役である抗告人(取締役退任後は代表取締役の権利義務を有する)は遅滞なく監査役、取締役の各選任を怠つたものであるといわなければならず、抗告人が定時株主総会を招集し、右選任の議案を付議したからといつて右責を免かれることはできない。なお、原判決の過料額についても不当であるとは認められない。

三よつて、本件抗告は理由がなく、原決定は相当であるから本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(廣木重喜 寺澤光子 原島克己)

〔即時抗告理由書〕

原決定には事実を誤認し、法令の解釈適用を誤つた違法があるので取消を免れない。

一、原決定が適条として掲げた商法第四九八条には、過料に処せられる行為として第一項第十八号に法律又は定款に定めたる取締役又は監査役の員数を欠くに至りたる場合に於て其の選任手続を為すことを怠りたるときという規定がある。取締役および監査役の選任手続は、株主総会においてされるから、右法条にいう選任手続とは、取締役又は監査役選任のための株主総会の招集又は総会における選任に関する議案の附議をいうものと解するを相当とする。選任そのものではないのである。

二、本件において異議申立の対象となつた原裁判所の昭和五五年九月三〇日付過料決定によれば、決定の理由とされた事実は、被審人が代表取締役に在任していた千葉孔版株式会社の役員が昭和四九年五月三一日退任し法定の員数を欠くに至つたのにその選任手続をなすことを昭和五四年六月八日まで怠つたというのである。

右会社の役員のうち昭和四九年五月三一日退任したのは監査役尾崎陞であるが、同人の後任監査役の選任については、同日開催された定時株主総会において、第二号議案として附議された。

従つて、このことによつて、前記法条の「選任手続」がなされたといわなければならない。

三、もつとも、右議案は右株主総会では結果が得られず、継続審議となり、異議申立書に記載したような事情により、その後、最ママ次に亘り開催された継続株主総会でも結論が出ず、昭和五四年五月三一日開催の株主総会において漸く新監査役の選任がなされ、選任手続が終結したのであるが、このことは、「選任手続」が右選任の日まで懈怠されたことにはならないのである。

四、また、株主総会議案の審議の経過および結果は、株主の問題であつて、代表取締役の問題ではないので、そのことについて代表取締役の責任を問うことは妥当ではない。

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