東京高等裁判所 昭和56年(ラ)295号 決定
執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に抗告状を原裁判所に提出してしなければならないものと定められているところ(同法第一〇条第二項)、本件記録によれば、本件抗告状は、告抗人から当裁判所にあてて郵送され、昭和五六年四月四日当裁判所に到達したことが明らがである。このように執行抗告の抗告状が法定の期間内に直接抗告裁判所に提出された場合には、抗告裁判所は、事件を原裁判所に移送すべきものと解するのが相当である。
その理由は次のとおりである。すなわち、抗告裁判所が右のような執行抗告の申立を不適法として却下すると、執行抗告の期間が前記のように一週間と限られていることから、抗告状の提出先を誤った抗告人は、多くの場合適法に執行抗告の申立をする機会を失することになるが、執行抗告について本来管轄を有する裁判所に抗告状を提出したという手続上の誤りの故に、抗告人に右のような不利益を負わせることは相当ではないと考えられる。そうして、上告状(又は特別抗告状)が直接上告裁判所(又は特別抗告裁判所)に提出された場合、上告裁判所(又は特別抗告裁判所)は、事件を上告状等を提出すべき原裁判所に移送するのが既に長年にわたり確定した先例であるが、右は、上訴期間を遵守して上告状(又は特別抗告状)が提出された場合には、その提出先を誤ったという瑕疵を理由に直ちに上告(又は特別抗告)を排斥することなく、不服について実質的な判断を受ける機会を与えるのが相当であるという考慮に基づくものであって、いわば手続法における普遍的原理の一つの顕現というべきである。従って、民事執行法が上告等を規律する民事訴訟法とは別個独立の法律であること及び民事執行法には、執行抗告につき抗告状の提出先を誤った場合について特段の規定のないことは、抗告状の提出先を誤った執行抗告の申立について、前記のように事件を原裁判所に移送すべきものとすることの妨げとはならないものと解せられる。もっとも、右のように移送すべきものとすると、執行抗告の申立期間が経過しても、原裁判が確定したかどうかが原裁判所に当然には明らかでないことになり、そのため執行抗告を許す裁判の確定をまって進行すべき次の手続が、原裁判所に抗告状の提出があった場合に比し遅延することにはなるが、執行抗告の期間が前記のとおり一週間と短く定められており、しかも事件の移送は特に長期間を要するものではないうえに、必要があれば抗告状の提出の有無を抗告裁判所に照会する等の方途もあるから、移送すべきものと解したからといって、民事執行法が執行抗告につきその第一〇条によって達成しようとした趣旨・目的に著しく背馳する結果となるものということはできない。
(川上 奥村 橘)