東京高等裁判所 昭和56年(ラ)3号 決定 1981年5月06日
抗告人
株式会社晴海製作所
抗告人
株式会社ビスコイド研究所
抗告人
信和工業株式会社
抗告人
ワォワード音響株式会社
抗告人
澤田産業株式会社
右五名代理人
杉永義光
相手方
破産者株式会社ヤガイ
主文
本件強制和議認可決定を取消す。
理由
一本件強制和議認可決定(以下、「原決定」という。)は、本件強制和議(以下、「本件和議」という。)のための債権者集会期日(以下、「本件期日」という。)に議決権を行使することのできる破産債権者四八名が出席し、その過半数である四二名が本件和議に同意したこと、その同意者の債権額が届出をなした破産債権者の総債権額一〇億八七七八万四七八五円の四分の三以上に当る金九億七二九八万五〇五一円であることを前提としてなされたものであるところ、抗告人らは、その抗告理由中において、右前提となる事実関係を争つているので、以下、その当否について検討する。
二まず、本件期日の調書(以下、「本件調書」という。)及び一件記録に基づいて認定、考察すれば、次のとおりである。
1 本件調書の「当事者の出頭状況等」欄には、破産債権者等は別紙のとおり各出頭と記載されているが、右調書添付の別紙「出席票」上、本件期日に代表者又は代理人が出席した破産債権者としてその名が明示されているのは、松枝印刷(正確には、松枝孝造と記載すべきである。)、極東電線株式会社、ウシオ電機株式会社、澤田産業株式会社、株式会社ビスコイド研究所、株式会社晴海製作所及び結城信用金庫の七名である。しかも、未確定の破産債権者は本件期日に議決権を行使することが許されなかつたことは、本件調書の「手続の要領等」欄の記載から明らかであるところ、右七名のうち松枝印刷(松枝孝造)及び澤田産業株式会社の二名が未確定の破産債権者であることは、一件記録上明らかであるから、本件期日に議決権を行使することのできた出席破産債権者は、右七名のうちその余の五名にすぎない。(なお、右五名のうち極東電線株式会社については、小川史男が代理人として出席しているが、その代理権を証明するに足りる書面は提出されていないし、また、ウシオ電機株式会社については、その代理人として出席した山崎登志男の代理権を証明する書面は、代表者の捺印がないなど甚だ不完全である。)
2 もつとも、本件調書添付の別紙「出席票」上には、本人名(会社名)欄は空白となつているが、前記七名の代表者又は代理人の外に、「代理人小池金市」が出席した旨の記載があり、そして、本件期日に関する「出席・議決票」(以下、「本件議決票」という。)の綴りによれば、右小池金市は弁護士であつて、同人に対しては、三気工業株式会社外四三名(合計四四名)の破産債権者から同人を本件和議に関する議決権行使の代理人とする旨の委任状が交付されており、その委任状が原審に提出されていることが認められる。しかしながら、強制和議のための債権者集会期日における破産債権者の出席状況等、期日の方式に関する事項は、破産法第一〇八条、民事訴訟法第一四七条に従い、当該期日の調書の記載のみによつて認定判断すべきものであるところ、本件議決票ないしそれに付記又は添付された委任状は、本件調書に引用、添付し、契印を押すなど本件調書の一部とする手続はとられておらず、これとは全く別個独立の書面と見ざるをえないから、これらの書面をもつて本件調書の記載の不備を補充するのは相当でない。のみならず、右委任状を提出した四四名の中には、未確定の破産債権者であつて本件期日に議決権を行使することができない者(石黒信義、秋田義四郎及び雄喜産業株式会社)、本件調書上本件期日に右小池金市以外の代理人が出席した旨記載されている者(極東電線株式会社)、本件議決票の出席者氏名欄に右小池金市以外の者が出席したかのように記載されている者(秋田義四郎及び宮本義雄)及び本件和議に対する賛否が不明である者(千葉金属工業株式会社)などが含まれている。また、本件期日に破産債権者の本人(代表者)又は代理人が出席して投票するときは、本件議決票の出席者氏名欄にその氏名を記載すべきことになつているにもかかわらず、右四四名の提出した本件議決票の出席者氏名欄には、後藤金属株式会社の提出した一通を除き、右小池金市の氏名は記載されていない。そうすると、仮に本件議決票ないしそれに付記又は添付された委任状をもつてしても、右小池金市が本件期日にだれの代理人として出席し、だれのために議決権を行使したものであるかは確定することができない。従つて、本件調書添付の別紙「出席票」上の「代理人小池金市」なる記載は、無効の記載と見るほかない。
3 更に、本件調書の「手続の要領等」欄には、本件期日の採決において、「破産債権者三気工業株式会社外四一名」が本件和議に同意し、「破産債権者澤田産業株式会社外五名」が本件和議に同意しなかつた旨の記載がある。しかし、前記のとおり、本件調書の「当事者の出頭状況等」欄及びそれと一体をなす別紙「出席票」上の記載からすれば、本件期日に出席した破産債権者は七名であり、そのうち議決権を行使することができた者は五名にすぎないといわざるをえないのであるから、合計四八名の破産債権者が参加したという本件和議の採決は、その参加者数の点だけで無効であるといわざるをえない。のみならず、その点はしばらく措くも、右の「手続の要領等」欄の記載だけでは、三気工業株式会社及び澤田産業株式会社(なお、前記のとおり、澤田産業株式会社は未確定の破産債権者であるから、同社が採決に参加したということ自体も問題である。)以外のだれが本件和議に同意し、だれがこれに同意しなかつたかを確定することは困難であり、従つてまた、右同意者の債権額を確認することも不可能であるといわなければならない。そして、以上の結論は、本件調書の記載に本件議決票の記載を照合して考察しても変りがないというべきである(例えば、本件議決票上本件和議に「反対」の意思を表明している者は、株式会社ビスコイド研究所、株式会社晴海製作所、ウシオ電機株式会社、深須宏、株式会社日証及び信和工業株式会社の六名であり、しかも、そのうち本件期日に代表者又は代理人が出席したのは、前記のとおり右最初の三名のみであつて、本件調書の「手続の要領等」欄に記載されているところとは大いに異つている。)。
三以上に認定、考察したとおりであつて、本件調書及び一件記録から、本件期日に議決権を行使することのできる破産債権者四八名が出席したこと、そのうちの四二名が本件和議に同意したこと、及びその同意者の債権額が金九億七二九八万五〇五一円であることを確認することはいずれも困難であり、従つて、本件和議の可決については、破産法第三〇六条所定の要件を具備するか否か不明であるといわざるをえない。
四そうすると、原決定は結局その前提要件を欠くものであり、不適法として取消しを免れない。しかしながら、本件和議の提供については、再度債権者集会を開いてこれを適法に可決することも不可能ではないから、破産法第三一〇条第一項第一号により和議不認可の決定をなすべき場合には当らないというべきであるし、また、本件につき同条同項第二号ないし第四号所定の事由の存することを認めるに足りる的確な証拠もない。よつて、原決定を取消すにとどめ、主文のとおり決定する。
(川上泉 奥村長生 橘勝治)