東京高等裁判所 昭和56年(ラ)537号 決定
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【判旨】
一件記録によれば、本件訴訟は、東京都内に在住する抗告人(原告)が兵庫県内に住所を有する相手方らを被告として提起したものであり、その請求の骨子は、抗告人において、訴外東京ホームローン株式会社(以下「東京ホームローン」という。)が相手方卯内に対して有する昭和五一年四月八日貸付の貸金残債権及び同人所有の兵庫県神崎郡神崎町福本字福山奥一一八五番七山林一六五平方メートル(以下「本件土地」という。)について設定された譲渡担保権を東京ホームローンから譲り受けたとして、相手方卯内に対しては、右貸金のうち金三〇万円の支払と、本件土地につき東京ホームローンに代位して同会社への譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続の履践を求め、相手方幸洋開発株式会社(以下「幸洋」という。)に対しては、同会社が本件土地について相手方卯内から受けた所有権移転登記の抹消登記手続を請求するというものであり、相手方らの答弁は、いずれも右請求の骨子となる事実関係を全面的に争うというものであること、並びに本件に関しては、相手方卯内が東京ホームローンに差し入れた昭和五一年四月八日付の「金銭消費貸借及び抵当権設定等契約証書」と題する書面(以下「本件借用証書」という。)が存在し、右証書の内容をなす契約条項中には、東京ホームローンとの取引に関して争いが生じたときは、同会社本店(東京都足立区千住旭町二番一―三〇二号)又は営業所を管轄する裁判所を管轄裁判所とすることに予め合意する旨の条項(一六条一項)が存すること、以上の事実が認められる。
ところで、本件借用証書による前記管轄の合意がいわゆる専属的管轄の合意であるのか或いはいわゆる付加的管轄の合意と解すべきか、前記契約の合意条項には特にいずれとも明示されておらず、また該合意のなされるに至つた経緯などが明らかでないので、いずれとも断定し難いのであるが、右がいわゆる付加的管轄の合意である場合はもとより民事訴訟法三一条により、仮りに右がいわゆる専属的管轄の合意であつたとしても、同条の法意に照らせば、訴訟の著しい遅滞を避けるという公益上の要請がある場合には、これを他の法定の管轄裁判所に移送することが許される余地はあると解すべきである。
そこで、進んで、本件につき、前記法条により訴訟を神戸地方裁判所姫路支部に移送する必要があるか否かについて検討するに、本件訴訟における事案の概要は前記のとおりであるほか、一件記録によれば、本件借用証書には、連帯保証人として静岡県焼津市内に存する新東海ハウジング有限会社及び同市内に住所を有する訴外佐藤昭治(右有限会社の代表者でもある。)の住所、商号及び氏名が記載されていることが認められ、また抗告人は、立証として書証数点と東京在住の証人二名の申請を予定しているというのに対し、相手方らはいかなる立証を予定しているのか全く明らかにしておらず、ただ相手方卯内から、原裁判所に対し同人は目下腰椎椎間板症により姫路市内の三輪整形外科病院に通院して治療を受けている旨診断書を添えて上申がなされているにとどまるのである。
本件事案の内容及び抗告人の立証予定その他前記の諸事実から予測される今後の証拠調の見通しなどに鑑みれば、訴訟の著しい遅滞を避けるため本件を神戸地方裁判所姫路支部に移送する必要があるとは到底認め難く、また相手方卯内がその上申どおりの疾病により姫路市内の病院に通院中であるとしても、現下の交通事情に鑑みれば、本件を原裁判所で審理することにより相手方らに著しい損害が生ずるとも認め難い。してみれば、本件の場合、前記法条に基づいて訴訟を前記裁判所に移送する必要性は存しないといわなければならず、これと異なる見地に立つて、本件訴訟を前記裁判所に移送するとした原決定は取消を免れない。
(杉田洋一 中村修三 松岡登)